第16話:いやまぁいわゆる裏ボスですが?『旅は道連れ世は道連れ……』


「とりあえず……姿変わってねぇ?」


 先ほどまでサメだったような見た目のドラゴンだったが、今度は打って変わって本当にドラゴンのような見た目へ変化した。羽ばたく度にかまいたちが飛んでくるとか意味不明な性能をしている。


 当然自分も切り刻まれているのだが、そこはあり得ないほど固い鱗でガードされているので無傷とか言うヤバ性能。今の碑矩では殴っても切ってもダメージにはならない。


「回転してからあぁなったって事は……追い詰めるとあぁなるって事?」


「知るか。まぁとにかく俺が道を確保するから碑矩!お前はアレを殴りに行け!」


「了解!」


 そう言って時は『二重詠唱ダブルマジック』と呼ばれる技術を使い始める。それは同じ魔法を同時に詠唱すると言う彼にしかできないような魔法。


「残った魔力全部くれてやる!二重詠唱……『ライトニングライトニング』!」


 一瞬の閃光の後、羽は強力な雷撃で千切られた。

 ……だがメイルは渦で飛び始める。なんか普通に飛んでいる。


「オイ!それはねぇだろコラ!」


「いや、羽が無ければ何とか出来る!『九尾の魂ナインテイルズ』……『九天塊クグツメルト』!」


 全ての手が一体化し、それがメルトを掴むと地面にたたきつける。更にたたきつけた後地面に括り付ける。


「やれッ碑矩!俺でも十秒と持たない!」


 メルトが騒ぎ立てるがもうどうしようもない。顔の前に立った碑矩は今まで見たことがないような構えを見せる。極限まで体制を低くするものだ。


「其の六……でもまだ未完成!……ッ『テン』!」


 それは指をただ突き刺すだけの物。金剛鋼を纏わせたまま指で物を貫く……それだけ。それだけだが、その一撃はメルトの目を貫いてコゲる程。


「何あの技……」「多分失敗したな!回収!」


 どうやら放つ場所がだいぶズレたようだが、それですら致命傷のような傷にはなった。一方の碑矩はと言うと、失敗したことにだいぶ落ち込んでいる様子であった。


「クソッ全然ダメだ!止まってる相手にすら命中させられないとは……」


「……ちなみにどこにブチこむ予定だったん?」


「脳幹」


「おっコイツやっぱヤバいな……。それよりホレ!キレたのかこっちに向かってくるぜ一回逃げるぞ!」


 片目を潰されたことで、本当に本気モードになってしまったメイル。もう周囲への被害などお構いなし、ダンジョンを破壊し外に出ようとしている様子だ。


 一方の碑矩はと言うと天を放った指がコゲている。金剛で防御してなおコレなのだ。つまりそれがどれほどヤバい事なのか分かるだろう。その一瞬だけ音速を超えていたのだ。


「クソッ仕方ねぇ……!残しておいたヒールはお前に使うぞ!ちっとは自分の身体をいたわりやがれってんだ!んで回復したらよぉ!……ッアレをブチのめして来い碑矩ッ!」


「来い!碑矩!投げ飛ばしてやるッ!」


 コゲた指が直され、完全に治った肉体のままメルトに飛んでいく碑矩。更にコンのナインテイルズにより追加で加速する。鋼でも防御出来ないほどのスピードだが碑矩は何もかも気にしない。


「表我流……ッ!変則其の二!『線蹴万雷センキャクバンライ』……ッ!」


 そのスピードから繰り出される強力な蹴り。口の中へ入ってメルトを貫通した後浮島を破壊しながら着地した。血しぶき一片たりともその体には付着しないほど。


「あ゛ッ゛!!!!!!」


 だが。ベギンという嫌な音が響いた。


「碑矩!?足やったか!?」


「か、回復!回復薬とか!」


「悪い持ってねぇんだ……。コン、お前は?」


「弱いの一つだけ……。気休めに飲んでみる?」


「それで構わないから……」


 ゲロまずだが歩けるくらいには回復した足。それでも明らかに折れかけているが。これではどうしようもないので一旦回復薬でもないかと考えたが……。


「……このダンジョンに物資とか、もうねぇよなぁ」


「だな」


 終わったか……と思っていると天井をぶっ壊して骸が降ってくる。


「なーんだだいぶボロボロじゃーん!ダイジョブ?この程度で後のダンジョン殺せる?」


「誰だよコイツ!俺知らねぇよコイツ!!」「骸?なんだお前いきなり出てきて……」


「ん?あーね。ここを封印するだけよん。つまりとっとと出ていけーッ!」


「バカ碑矩が死にかけてんだよバカ!特に足!足にえげつないダメージ入ってんの!バカ!」


「えー。でも回復薬とかないしー。仕方ない、俺チャンの知ってる医者おしえてあげっからそこ行きな?」


 とりあえず歩けない碑矩をこのままには出来ないので、一旦時を地上に戻して『転移魔法テレポート』で地上に出すことにした。案外うまくいった。


「とりあえず……。今からこの医者のところに行くけどよ、歩けるか?」


「……平地ならなんとか……」


「無理って事だな、師匠呼ぶか?」


「流石に師匠に手間をかける訳にはいかないです……。それに今呼びましたので……」


「……誰を?」


 そう質問するより早く、ジェットエンジンのような音と共にマクナが降り立ってくる。


「何があった?……あぁ、あの医者のところか……。一緒に来る奴はいるか?」


「俺は妹がいるのでダメです」「位置さえ教えてくれれば何とかなるんで後で行きます」「要するにやめとくって事ですねお二人さん」


 そして背中に碑矩を収納するとそのまますっ飛んで行くマクナ。


「……。アイツ、機械だったんだなぁ」


「まぁもう驚く奴でもないな、機械くらい……」


 考えてみればダンジョンが普通にあってモンスターが普通にいるこの世界で、せいぜい自立思考して動く機械程度ではもう驚かない二人。それはそうと二人ともだいぶヘコんでいる様子。アレを一人で倒せないくらいの力しか持っていないと言う事に、特にコンはひどく落ち込んでいた。


「ねぇ。強くなりたいなら俺チャンのとこでブートキャンプやってるけどヤル?」


「……だから誰なんだよお前!」「俺は行くぞ!」


 もう色々言いたいことばかりだったが、コンはそのブートキャンプとやらについて行く事にした様子。このままではいけないと今回の戦闘で悟った様子。


「ハァ……。俺は知らん!少なくともお前みたいな知らん奴の力なんか借りん!俺は碑矩について行くからな!」


 こうしてお互い別々の場所に飛んで行った一行。コンは先に骸の元に来ていた子猫と出会う。そこにはタマの姿もあった。


「タマ!」


「お兄様!」


「あ、コンだ。……ようこそ地獄へ……」


「え?」


 ◇


「何ッ?!碑矩が足を!?」


「まぁすぐ直るから……」


「どこへ行った碑矩は!!?」


「落ち着け落ち着けっておいクビガクガクやめろ!」


「碑矩ーッ!!!!」


 師匠はと言うと、もう凄まじいスピードで碑矩の元へ走っていた。

 場所は宮城県の隣にある……廃棄された島スラムへと。


「……ん?スラムあるのか?宮城に」


「ねぇよ。そもそもあそこは地図にない島。んでもって最悪が住む島だ」


 そこは地図には載っていない島。島と言っても歩いて行けるし入ろうと思えば誰でも行ける。だがその前にはこう書かれている。


『コノ先日本国憲法通用セズ』


 ……と。

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