第15話:三人の強い奴ら
「三階に到着!」
「見てほら既にボスっぽいモンスターがいるよ」
「そうだなぁ。……ところで時、魔導書を漁るのはやめろ」
「え?」
二階にいたなんかそんな強くない奴をブチのめし、三階にやってきた一行は目の前に現れた謎のモンスターを確認した。
『ビーンズ・アント:でけぇアリとハチの融合モンスター。馬鹿みたいに部下がいるよ』
「あぁいう名前って誰がつけてるんだろうな?」
「うーん……。誰かいるんじゃないの?ダンジョンの管理人とか……」
「おい行くぞおい!こいつらバカみたいな数いるんだからさぁ!いや俺一人でもかてっかもだけど魔力切れると死ぬからさぁ!?」
「あぁごめんごめん。表我流其の四、応用『
地面を殴る振での超範囲攻撃。地面に立っている相手全てに超振動を与えて物凄いダメージを与えるという物。いつぞや師匠も使っていた。
「あっおい」
……巻き添えにされた時とコンはたまったものではない。足はガクガクし生まれたての小鹿だってまだまともに立てるぞというレベル。
「あががっ足がすげぇ痛いなんだこれ」
「あ、ごめん……。これ地に足付いてる奴なら全部攻撃になっちゃうから……」
「やるなら先に行ってくれよな……!」
とりあえず
「はぁ……。魔力が無くなっちまった」
「大丈夫?」
「あぁ心配ねぇ。コーヒーあるか?」
「インスタントなら……」
「……インスタントだと回復料がクソ低いんだよなぁ……」
とは言えないものに文句を言っても始まらないので、あおるようにブラックコーヒーを一気飲みする。
「うっ質が死ぬほど低い奴だ」
「質……いる?」
「俺の魔力がおおよそ100と仮定したとき、これ一杯で回復するのはせいぜい0.1くらいの量だ」
「ひっく」
「だから豆から挽けとあれほど……。まぁ仕方ねぇ、このまま行くぞ」
そんなこんなで進んで四階層、どうやら何かの巣があるのがここの特徴なのだが、どうやらここは水中にいる奴がボスらしい。
「……アレ何?」
「あ、ピンポンツリーだ」
「ぴ……ピン、なに?」
「深海に住んでるっていうピンポンツリー。アレで肉食動物」
「アレで!?」
『ピングポングツリツリー:肉食。ほかのモンスターを食って眷属に出来るがほとんど動かない為めったに発揮されない。』
その階にはミッチミチに水が張られていたし、その上滅茶苦茶透明な水の中にはピンポンツリーが揺蕩っていた。
「……どうするよ、アレ」
「どうするもこうするも……倒すしかないでしょ!」
「あっおい碑矩!」
「時、お前は魔力の回復でもしてた方がいい。ここは俺らで何とかする!」
「うっ、それを言われちまうと仕方ねぇ……。けどこれもってけ!水中で呼吸が出来る魔法『
「ありがたい!」
ドボンと水の中に飛び込む碑矩とコン。どうやらこの個体はたっぷりモンスターを蓄えているのかまるでミサイルのようにモンスターを飛ばしてくる。
『碑矩!これ付けると水中でも呼吸ができるぞ!』
それを弾き飛ばしつつ、コンは碑矩に呼吸魔法が付与された紙を手渡そうとするが碑矩はそれを拒否。更に深く潜っていく。
『碑矩!?』
ツリーの伸ばすピンポン玉のような捕食器官を避けつつ、底までたどり着いた碑矩は水中でも表我流を叩き込む。
「……表我流、其の三、応用『
水を切るような一撃は、根元からツリーの肉体を切り飛ばしプカプカと水上へ浮かんでいく。
コンは上がってきたツリーをナインテイルズでつかみ上げると水上から天井にたたきつける。
「
天井に叩きつけた後更に浮島に叩きつけ、水中にある地面に思いきりぶつけた。回転しながらぶつけたのでバラバラになるツリー。
「碑矩は!?」
「なんか凄いハデにやったね」
「あぁ……。大丈夫だったのか?」
「ん?僕は一時間くらい潜水出来るからね」
「……」
「師匠は本気でやれば一日くらい潜水できるんだけどね……」
そりゃアレいらんわな……とか思いつつ、一行は完全に底が抜けた四階を降り遂にボスフロアへとやってきた。
ドラゴンがいた。
『アクアドラゴン:渋谷ダンジョンボスモンスター。サメのような見た目だがドラゴンだ。水中でも水上でも生活できる術を持っているので水上に追いやっても死なないよ』
「サメドラゴンじゃねーか!」
「凄いね!火とか噴くのかな!?」
「バカどう見ても水龍系のドラゴンだろうが!水を吐く奴だよアレは!」
なんか話がかみ合っていないが、ドラゴンはフロアを満たすように水を吐いていく。咄嗟にコンと時の二人は呼吸魔法を口に貼ってどうにかし、碑矩はシンプルに深呼吸して肺に酸素を目一杯入れる。
『おいおいどういうつもりだぁ?!まさかこのダンジョンを水没させようってかぁ!?』
『時!まずいぞ他の人たちが巻き込まれてる!』
『知るか!ダンジョン内で死んでも大した問題じゃねぇ!問題になるのはこのレベルの水量が外に出た時のことだ!』
数十秒もしないうちにフロア一杯になる程の水を吐くサメ。このまま放置すれば、ダンジョンから溢れた水によって渋谷区が水没する危険性がある。ともなればすぐさま始末したいのはやまやまなのだが……。
『あいつ!近寄らせまいと渦巻いてるんだけど!』
『やべぇな、あいつのウロコ、まるで大根おろしだ。この勢いで触ったら肉体しりしりが出来上がっちまうぞ!』
それをさせてくれないのがこのサメである。渦を吐き出し防御しつつ、その渦に巻き込まれればサメ肌を食らい大根おろしで指を巻き込んだじゃすまないミンチにされるだろう。
『おい碑矩!アレなんとかできるか?!』
そう聞く時に対し、碑矩はグッドサインを出すと勢い良く突っ込んでいく。突っ込んで行ったら普通に渦に巻かれしばらくゾリゾリされて水上に吹っ飛ばされる碑矩。
『ダメじゃねーか!』『いや時!見ろアレを!ちゃんと攻撃はしてる!』
水上にぶっ飛んでいった碑矩だが、キッチリ仕事はした様子。鱗を引っぺがし、エラに指突っ込んで片方のエラを引きちぎっていった。
『じゃ俺も仕事するとするか『
これ幸いと近くの地形を引っぺがし、ドリル状に加工した物をサメに向けて放つ。やや緩慢な動きだと言うのに、それは渦を引きはがすほどの勢いを持っていた。
「せめて渦が無ければな……!」
まだある浮島で呼吸を整えた碑矩は再び潜ろうとするが、その前にナインテイルズの一つがジェスチャーで何かを伝えようとしてくる。
「?」
静止して欲しいと言うようなジェスチャー。少し待っていると浮島にコンが浮かび上がってきた。
「どうした?」
「時が何か考えてる!避難しろって言われた!」
「わかった!……なるべく他の人も避難させておこうか!?」
「出来るならな!ともかく何かする気だ!」
碑矩が他の奴らを助けていると、突如凶悪な冷気を感じる。心の底から冷え切るような、死を感じさせるような温度だ。碑矩は抱えていた一般人をとりあえず出口付近までぶん投げると、自分も急いで出口に走る。
「コン!大丈夫か!?」
「俺は今のところ大丈夫だが……。コレを発動させてるアイツは大丈夫なのか?」
ボスフロアは現在絶対零度になっていた。全てが凍り付く最低の気温だが、とんでもない事にサメは高速回転して熱を出すとかいうメチャクチャな方法でそれを回避していた。
「嘘だろオイ……」
そのまま突っ込んでくるサメ。凍った中でも動けるとか訳わからないが、それでもヤバイのは事実。とりあえず
「なんだジョークかよ!?ふざけんな!」
回転のまま時を貫こうとするが、上から降って来た碑矩とコンに突き飛ばされ水中にたたきつけられる。
「時!やるならやるって言え!」
「……すまん」
「まぁ過ぎたことはいいさ。それよりも……今はアレをどうにかする事が先だ!」
『
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