第17話:強襲!スラムにて修行!?『久々に配信するよーっ!』


「じゃー直して良いんだな?金は……ま、出世払いでいいぜ?」


 ここに医者がいると言われやって来たところは廃墟と見紛うようなものだった。中には無精ヒゲを生やしボサボサの髪を輪ゴムで止めている、正直ただのオッサンとしか思えないような奴がいた。白衣を着ていて胡散臭いが碑矩は気配でただ物ではないことを察し、その問いに首を縦に振る。


「よし!いいぜ?今日は競馬メチャクチャ当たって気分がいいしタダで直してやる!おい『ナロック』!治療用の奴持ってこいや!」


「ハイ」


 部屋の奥からやって来たなんか機械っぽいネーチャンと共に治療室にやって来た三人。そこで碑矩はナロックに全身を固定され、部分麻酔だけ雑に打たれるとそのまま手術との事。


「それでどうやって手術するんですか?」


「あぁちょっと痛いけど気にする……なっ!」


「!?」


 いきなり足を九十度へし曲げられる碑矩。文句を言う暇もなく続いて思い切り腹パンされて血反吐を吐き、更に指をバキバキにされる。


「どうだ?」


「……凄い……!さっきまで悲鳴を上げていた全身がビックリするほど治ってる!」


 なのに治っていた。こんなバカみたいな治療方法で治るのか……と思うだろうが、これが彼の治療方法『荒療治ボコナグリ』。もちろん彼しか今のところ使える奴はいない。


「真似すんなよ?死ぬぜホントに」


「でしょうね。普通の人がやったらただボコボコになるだけですもんね。後すごく痛かったです」


「まーでも兄ちゃん、お前良い体してんなぁ……。コレ教えてやってもいいけどよ?」


「いえ!僕には師匠がいますので!」


「そりゃ残念。ところで観光していくかい?このスラムをな」


「……スラム?」


 その男……、『佐藤さとうぜんまい』はこのスラムに住んでいる医者である。と言うかコイツしかまともに治療できる奴がいない。そんな彼に連れられて、地下にあるカジノへ連れられる碑矩。


「……なんで?」


「お前、今迷ってるだろ?色々と。んで探している物はこの先にある!つー訳でちょっと戦ってみろよ」


 進んでみると闘技場のような場所に出た。そして対戦相手らしいところに巨漢で筋肉モリモリマッチョマンでとんでもなく強そうな男が一人いた。明らかにこの場所のボスらしき風格をしている。観客に見せつけるようにポーズを取っているが、碑矩に気が付くと声をかけてくる。


『今日はよろしくなのだ』


「その体で声ず〇だもんですか!?」


『声帯が無いから前まで筆談だったのだ。んでも今は私の喉の代わりにコレを使ってるのだ。タダだし』


「頭おかしくなりそうですよ……」


 昔色々あって声帯を失った彼は、最近まで筆談していたのだが遂にボイスロイドと自身の喉をくっつける技術を発明しそれで会話している。……見た目からは想像もできないような声に面食らう碑矩だが、握手をした瞬間に肉体のレベルが違うことを悟り息をのむ。


『さてと……。チャレンジャーには一発打たせてやる事にしているから。……一発撃ってこいなのだ』


 その挑発に、碑矩はあえて受けて立つ事にした。


「表我流其の一……『ゲキ』!」


 完全に無抵抗のどてっぱらに拳が突き刺さったが、びくともしない。彼の肉体には傷一つない。


『金剛を使えるのはそっちだけじゃないのだ』


「……ッ!」


『では……今度は私が打つ番だ』


 いうや否や大きく弓なりに体を引いたかと思うと、全身全霊で碑矩を殴る体制に入った。明らかにやばい打撃を打つ体勢だ。ぶっちゃけ避けようと思えばいくらでも避けられる。だが碑矩は避けることを選択しなかった。プライドなのか、意地なのかはわからない。


 けれども、避けてしまえば二度とこの場に立てないような。


 そんな感覚だけがあった。


『フンッ!』


 腕をクロスさせ防御したというのに、碑矩の体は闘技場の反対側の壁まで吹っ飛び、勢いは止まらずに壁を破壊しなおも止まらず地盤にたたきつけられたところでようやく停止した。


 圧倒的なパワー。


『立て』


 一発受け止めようとしただけで碑矩が立てないほどの圧倒的なパワー。


「……」


 今の碑矩に足りないのは……。


 ◇


「なんだお前ら」


 一方時はなぜかスラムの中ではなく前にテレポートしてきていた。直接飛んだはずなのに何故か中に入れなかった。渋々正面から中に入っていくと、そこにはまぁなんとも言えない瓦礫の山と浮浪者っぽいおっさんの数々。


「いやよぉ……。日銭くれよ日銭。なけりゃお前の内臓でいいぞう」


「やだね」


「客でもねぇ癖に……。おい奥に行く気か?やめとけよ~。これはマジだからな、客以外は生存権すらないからな」


「……奥に碑矩が行ってるんだよ。治ったか確認してやらねぇと……」


「あっそう。まぁ行けば?……ただし」


 突如時は殺気を感じ、その場から飛びのく。そこにはやたら刃渡りのいいナイフが時を指すように置かれていた。


「俺らに殺されなけりゃな」


「……チッ、魔力もねぇのに……!」


「あ?」


「うるせぇ!魔力があればお前らなんか一撃だぞコラ!」


 そう時が言うと周りの浮浪者達はカラカラ笑い出す。


「なんでカラカラ笑うんだい」


「お前さん……魔力がどうとか言ってるけどよ。殺し殺されの時に『武器がなくなりましたから殺さないでしゃ~い』なんて通用しねぇんだよね」

「いつだって生きるか死ぬかの世界で生きてんだよ俺らは。魔力?武器?無いから何?俺らはお前の事なんざ知らねぇからさ」

「武器を取れよガキ。俺らは社会不適合者で蟲毒に生きてきた奴らさ。人の生き方には馴染めず、獣になることもできず……。ただこの場で生きているだけ」


「「「殺してみろやクソガキ」」」


 時はこの時、本当の殺意と言う物を知った。圧倒的な悪意の裏に、ゲロを吐きそうになるような純粋な殺すという意思が紛れている。


「……あぁそうかよ!」


 何時も様子見で魔法ぶっぱばかり、小技も使えなくはないがあまりに雑。


「でもてめぇらなんかの言いなりになってたまるかよ」


 時の課題、それは……。


 ◇


「ハイ気がブレてますねぇ!」(パァンッ


「ギィッ!」


 一方コンはかなりキツい修行をさせられていた。


『そのナインテイルズって奴さぁ~最大数が9個なのは仕方ないとはいえ、もっと固くできるんだよねぇ~』


 と言われ始めた修行だが、まずやらされるのが座禅を組みながらの精神統一であった。これがまぁキツい。一瞬でも出している手がブレれば、即座にお祓い棒(妙に硬い)で頭をドツかれるのである。


「……」


 それをドツかれリセット有りでなんと五時間。既に不眠不休で10時間はぶっ続けしている状態。さっきは起きてきたタマに心配されドツかれた。心を乱してはいけないとかそういう訳でもない様子。


「お前はなんかあってトラウマになったのがきっかけでソレを使いこなせてないっぽいんだよなぁ」


「……トラウマ」


 コンも色々あった。それを乗り越えなければ今のお前に何もできないぞ。と言われても覚えていないものがトラウマになっているのか何も始まらない。


「まーそこは俺チャンにもどうしようもございません。だから基礎から鍛えてやるって言ってんだよッ!」(パァンッ


「がぁっ!……そういえば、子猫はどうした?」


「え?あいつなら今ダンジョン配信中だよ。最近配信してないからってストレスが凄かったから適当に行って来いって」


「……ワーカホリックか……」


 そして子猫は一人、最近配信してなくね?と他の配信者仲間から言われてしまったので、急遽適当にダンジョンに行って配信をすることにしたのであった。

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