第2話:最強拳法家、若くなってリニューアル!『え!?ウチ全国旅行に付き合わされる感じ!?』


 五歳児位の姿になってしまった師匠。白い髪はそのままに、完全に老いていた肉体が若返った。しばらく自分の体を確認し、碑矩の元へとトテトテとやってくる。明らかに小さくなっているのだから異常を感じるだろうに、平然と歩いてくる。


「あー……。ワシどうなってる?」


「えーっとですね。若くなってます」


「……。どのくらい?」


「五歳児くらいですかね……。アレはなんなんでしょうか?」


「……あ!きょ、今日の配信はここまで!じゃあみんなお疲れー!!!」


 ミミはこのままはヤバいと急いで配信を切る。メチャクチャな数の再生数になっていたが、このままではヤバいとちょけ始める。頭を抱えてどうするか考えているミミに対し、二人は、と言うか師匠はだいぶ気楽に考えている様子だった。


「見ろ碑矩!ワシメチャクチャ動けるぞ!腰痛もなくなった!」


 そのアイテムを確認しようと拾おうとした碑矩だが、既に砕け散り粉々になっていた。サラサラと手から零れ落ちる砂を地面に優しく降ろして師匠に話しかける。


「それはいいんですけど……手足の短さとかは大丈夫なんですか?」


「まぁその辺は慣れとるしな。それよりも……ワシは今あることを思いついたぞ」


「……いやな予感」


 ニッコリと気持ちの悪いくらいに笑顔を浮かべる師匠。碑矩は弟子らしく、師匠が何を考えているのか察してしまった様子。そして嫌な予感と言うのはいつどの世界でも平等に当たってしまう物。


「このダンジョンと言う場所は修行にうってつけだな!と言う訳で……今から全国各地を巡り全てのダンジョンをぶっ潰す!」


「言うと思ってましたよ……」


 何となく言うとは思っていたが、いざ本当に言われると困惑の方が勝つ。そもそも本当にできるのか?と思っているとミミがその言葉に反応したようで話しかけてくる。


「え、本当にやる気……?いやウチもいつかは全国各地巡りたいなぁ~って思ってるけど」


「ホレこの通り彼女もこういっておるぞ?……ところでおぬし名前は?」


「ウチは『神台かみだい子猫こねこ』。……と言うかホントに出来るの?全国各地回るの……」


「あぁちょっと師匠ダメですよ見知らぬ人にそんなこと言ったら……」

「出来るに決まっておろう。と言うかおぬし、ダンジョンに詳しいようだな?」


 これは不味い。そう碑矩が思う暇もなく、師匠は続ける。


「ま、まぁ?ウチ十万人くらい登録者いるし?いざとなればお金は……」

「あぁその辺は大丈夫だ。ワシ銀行に億単位で金持ってるし」


「……え?あ、でも車とかつかえないでしょ?ね?む、無理でしょ?」


「ん?タクシーでも何でも使えばいいじゃろ。それにやるならばとことんやるべきだな……ひとまず近場のダンジョンを全て破壊しておこう。おい子猫とやら」


「え、あ。ハイ……」


「手伝ってもらうからな?」


「……ハイ」


 ◇


「何をやっているんですかアナタは!バカなんですか!?」


「いやおかしい!おかしいって!なんで個人単位が億円普通に持ってんの!?」


「と言うか億なのはあくまでサブ銀行ってだけで、多分メイン銀行に手を出すと兆行く可能性が……」


「もっとおかしいよ!なんで個人が兆単位の金持ってるの!?」


 碑矩は師匠と言う男の事をよく知っている。だから止めようとしたのだが、この子猫とか言う女が完全にやらかしてしまった為全国巡業が決定事項になってしまった。


 しかしそれで困るのは子猫も同じ。一応借りアパート生活とは言えいきなり全国回るぞと言われても準備が出来ていない。と言うかホントはやりたくない。


(ウチの目標はそれなりに売れてそれなりにちやほやされて、それなりにお金を稼げればそれでいいのに!なんでいきなり全国各地を回ることに巻き込まれるの!?)


「碑矩ェ!出発するから準備をしろ!それと子猫とやら。お主はどうする?ワシはお主の旅費も出すつもりだが」


「い、いやその……。ウチはなんというか……」


(……でもこれはチャンスなのでは?コレ、ウチが一躍有名になれるチャンスなのでは?ぶっちゃけ辛い戦闘は二人に任せて、ウチは後ろで撮影すればいいだけ……いける!?)


「ち、ちなみに最初はどこに行くのですかねぇ~?」


「とりあえず近場……。そうじゃな、仙台に出来たと言うダンジョンへ向かうぞ」


 壊れてしまった家を離れ、三人はタクシーに乗り仙台市へと向かった。


 道中、師匠たちは服を買う事にした。やはり五歳児になってしまったので着れる服が無いのだ。……もとより家は粉砕されているのだが。

 それはともかく、碑矩は現代風にアレンジされた赤と白が目立つ着流しを新たに購入し、師匠は子供用浴衣を袖をビリビリに破いた物を着用。


「それ破かないでくださいよ」


「邪魔なんじゃよ。コレ」


「二人ともー。ダンジョンまですぐだよー」


 この世界はダンジョンが出来てから、その周りにダンジョン専用の宿が出来たり飲食店が出来たりと、なんと言うか町おこしの一種として扱われていた。つまりダンジョン近くはにぎわっていると言う事。それに比例するように入り口もデカくなっている。まるで自ら胃の中に入っていく食材のようだ。


「人……。多いですね師匠」


「そりゃそうだよ。ここはウチもよく行ってるダンジョンだもん。ボスはまだ倒されてないって言うけど……」


「よし行くぞ碑矩。ダンジョンを、ぶっ壊す!」


 その前にダンジョンに入るのに金がいると言われ、それを支払い帰還用アイテムを貰って中に入る。その後ろでは子猫ことミミが配信準備をしていた。


「ちょ、ちょっと待って今配信準備するから……」


「なんじゃ配信準備とは?」「あぁ言うカメラでダンジョンに挑むのをみんなに見せるって奴です」「あぁそうか……。よくわからんがしたいと言うならすれば良かろう」


「よしできた!じゃあ行こう二人とも!」


 ◇


「みんなー!今日は仙台に出来た有名ダンジョンに挑んでるよー!」


『さっきもダンジョンに潜ってなかった?』『日に二回配信っすか!?』『またあの二人いるじゃん!大丈夫なの?』


「さっきとは声が違うようじゃが」「配信用に作ってるんでしょう、多分」「なるほどのぉ……。それでここのダンジョン、ボスはどこにいるんじゃ?」


「ちょっと待ってね、検索するから……」


 仙台第一ダンジョン:仙台市駅前に突如出てきたクソ迷惑なダンジョン。しかし今では観光地の一つとして有名になっている。他のダンジョンに比べて森々しているのが特徴。足を取られるぞ!

 最下層にいるボスらしいモンスターを倒してもモンスターの強さが変わらず、最下層に再びボスらしきモンスターが出現したことから、それはボスではないことがわかっている。

 それ以外は分かっていないが、たまにヤバいモンスター出てくる。


「……。だって!」


『ワァキコピペ!?』『嘘だろそれは流石に……』『と言うかいつもどのダンジョンにいるんだミミちゃんは』


「ちなみに私は普段は……って!家に近いんだから言わないけど!?」


『ダメか』『あっおいお前リアルを探るのはナシだからなコラ』『流石にドン引き~』


 後ろでワチャワチャやっているミミを無視し、先へと進んでいく二人。相変わらずモンスター共は相手にならず塵芥と化していく。慌ててついて行くミミだったが、足元が悪くコケてしまう。


「あうっ」


 と、同時に……ミミの頭があった場所を刀が空を切る。


「え?」


 バランスを崩したミミに刀を突きさそうとする、鎧を着た何者か。だがその刀は真っ二つにへし折られ蹴りまで入れられる。


「大丈夫ですか?」


「に、二度目……」


『なんだこいつ!?』『ゲッペナルティモンスターかよ……』『ペナルティモンスターって何?』『過剰な狩りとか宝箱乱獲とかを防ぐための奴だよ』


 よく見れば、その鎧の横に何やらネームプレートが見える。そこにはこう書かれていた。


複数処刑人リ・ドールキラー過去の虚構カラノウツワ


「……」


『ペナルティモンスター:敬意を払わぬ人間は死ぬべき』


 ……と。

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