クソ強拳法家達はダンジョンに挑む!~トンチキ最強拳法家達と中堅配信者が全国のダンジョンに挑むらしいです~

常闇の霊夜

第1話:師弟、怒りのダンジョン『ヤバい奴らと出会っちゃった……』


 2XXX年。突如として日本……いや世界各地にダンジョンと呼ばれる物質が現れた。出てから数年は特に反応する人もいなかった。……そこからモンスターと呼ばれる化け物が出てくるまでは。


 どうやらダンジョンに誰も入らずにいるとモンスターがダンジョンから出てきて一般人を襲うらしく、そいつらの強さは銃火器など一切効かないというヤバい奴だった。結果的に人類はダンジョンに潜ることを余儀なくされたのだった。


 その結果、『ヨーツベ』と言う動画配信サイトでダンジョンに潜る様子を配信する『ダンジョン配信者』と呼ばれる存在は増えていった。政府からすればダンジョンに潜ってくれる上人を増やしてくれるのだから好都合、数年でブワッと増えるようになった。


 それはそんなダンジョン配信が当たり前になった世界での、まったくダンジョンに関わらないで生きてきた拳法家二人の話である……。


 ◇


 ここは山奥。そこで二人の男が拳を重ねていた。その威力はすさまじく、正拳突きを放った余波で後ろにあった木に穴が開くほど。互いにその拳を受け止め受け流し、数十分の組み手を経て二人とも仕合が終わったので一礼をして組み手を終える。


「今日も良い拳だったぞ『碑矩ひかね』!」


「はい!ありがとうございます『師匠ししょう』!」


 15歳くらいの少年の方が『碑矩ひかね火焔かえん』で、御年98歳でありながら見た目だけ見れば60代そこらに見える方が『師匠』である。


 二人は日夜拳法家として研鑽を積んでおり、こうして一週間に一回くらいガチの組み手で殴りあうのである。そしてそれが終わったからと、家に帰ってひとっ風呂でも浴びようと家の前までやってきた二人。


「!?」


 その瞬間、家の下からダンジョンが生えてきた。家を貫き真っ二つにし、その上で入って来いと言わんばかりに口を開けるダンジョン。何が起きたか数秒理解出来なかった二人だが、顔を見合わせ理解した瞬間怒りゲージがマックスまで振り切れる。


「あぁ!?ワシの家がッ!?先代から受け継いできたワシの家がッ!?」


「なんだこれ!?どこから出てきた!?」


 築百年、二人の住んでいた家が……見るも無残に木端微塵。これにブチ切れた師匠はダンジョンに突貫しようとする。


「ふざけるなよ!ワシらの家をよくも壊してくれたなッ!!!ぶっ壊してやるッ!!!」


「待ってください師匠!コレ僕見たことがあります!」


「なぬ、ホントか?」


 突っ込む前に碑矩は師匠を止める。彼は一応ダンジョンなどを動画で見たことがあるのだ。これの情報は断片的にながら知っている。何とか師匠を説き伏せどう言う物なのかと言うのを説明したが結局突っ込むことは確定らしい。


「なるほどな。なら行くぞ碑矩ッ!ここにいる奴ら……皆殺しだッ!」


「師匠!ボスって奴をブチのめすのが重要ですからね!?」


「知るか!最終的に……全員皆殺しにすれば良いのだッ!」


 こうなっては仕方がない。碑矩も覚悟を決めたらしく、ダンジョンの中に入っていく。中は洞窟みたいな見た目からは考えられないくらい明るく、何故か日光がサンサンと照り付けてくる。


「ダンジョンなのになんで太陽光が?」


「見ろ碑矩!モンスターだッ!死ねッ!」


 碑矩がそう疑問に思う暇もなく、師匠は目の前に現れたモンスター共を片っ端から皆殺しにしていく。ゴーレムの頭部を軽く砕き、手刀でスライムを真っ二つにしたり、明らかに当たってない打撃がゴブリンの心臓部を凹ませたりとやりたい放題。


「あぁ師匠が『表我流ひょうがりゅう』をフル使用している……。本気の殺意がビリビリ伝わって来るよ、常人じゃ耐えられないかも」


 そんな虐殺を後ろから見ていた碑矩だが、突如背後から殺気を感じその場から飛びのく。そこには身長3メートルはあるような巨大なミノタウロスがいた。振り下ろされたハンマーがあった地面には、クレーターが出来上がっていた。


「どわっミノタウロス……?ホントにいるんだ」


 碑矩はミノタウロスを見たがとても冷静だった。デカいだけのウシくらいなら碑矩でも余裕である。再度振り下ろされたハンマーを正面から砕き、胸部へと肉薄すると拳を振りかぶる。


「表我流其の一……!『ゲキ』!」


 その拳はミノタウロスの巨大な腹筋をベコンと凹ませた。明らかに生物がしてはいけないような凹み方をしている。血を吐き地に伏せるミノタウロスだが、碑矩は殺した相手には興味がないというように師匠の後を追う。


「師匠!待ってください師匠!!」


「お!?下に行く階段があるぞ!!!!」


「待てって言ってるでしょうが!」


 そんな二人の後を追うようにこのダンジョンに入ってくる者がいた。彼女は猫耳を頭に付けたダンジョン配信者で、新しく出来たダンジョンがあると聞きつけてやってきたのだ。


「……なーんでこんな山奥にあるかなぁ……」


 尚片道三十分。とても疲れているが今から配信するというのだから、疲れは視聴者に見せていられないとエナドリをキメて配信を開始する。


「ヤッホー!『ミミ』だよ!今日は新しいダンジョンを攻略していくよーッ!」


『ミミちゃん可愛いよ可愛い』『どこそこ?』『大丈夫?なんか山奥だけど』


「え?大丈夫大丈夫!多分大したことないダンジョンでしょ!じゃー早速入ってみようね!」


 そう言って入っていったミミだが、目の前に広がる凄惨な光景に思わずウッとなってしまう。これには視聴者の奴らもだいぶドン引き気味。


「えっ」


『ワ……ワァッ……』『何これ?どういう事?』『既に誰か入ったんじゃないの?』


「何これ凄い死んでる……。えぇ?」


 死体は少しすれば消えていくのだが、それが消えていないと言う事は少し前までここに誰かがいたと言う事。そしてそれが明らかにヤバい奴だと言う事。とりあえず階段を発見したので下へ進んでいく。


「で、でもまだモンスターが……」


 下の階はまさにダンジョンと言う感じの洞窟だった。いるモンスター達は他のダンジョンではボス扱いされるような強さの奴ばかりでまともに戦えばヤバいだろう。……既に死体になっていると言う一点を除けば。


「……。あ、宝箱!宝箱あるよ!」


『なんで宝箱とか無事なの?』『コワ……。モンスターの殲滅だけが理由か何か?』『臭うぜ……血の匂いだ……』


 これで宝箱が開けられているならまだ理解はできるのだが、それすら無視してモンスターのみの殲滅を行われているというのはもう完全に恐怖でしかない。しかも妙に箱の中にあるアイテムが良い物ばかり。


「うーわ横にレベル5とか平気でついてる……。私今までレベル3しか見たこと無いよ……」


 ちなみにアイテムにはレベルがつけられており、マックスが5である。そしてレベルが高いアイテムがある場所は、基本的に危険なダンジョンと言う事で……。


『高難易度ダンジョンかなんか?』『じゃあなんでそいつら皆殺しにされてんの?』『ってかあのミノタウロスって奴、この前ボスモンスターとして出てきてたはずでは……?』


 何かがヤバい。しかし行くしかない。とりあえず撤退用アイテムは持っているので最悪それで逃げられる。その思考のせいでアイテムに釣られてホイホイ奥へと進んでしまう。


「えっと……広いところに出たね?」


 その瞬間、彼女の首に七支刀が飛んでくる。


「え」


 確認することもできず、そのまま首を切られる……

 なんて事はなかった。碑矩がその間に割り込んできたからだ。軽くその七支刀を破壊するとミミに話しかける。


「大丈夫!?」


「え。あ。うん」


「よかった!今師匠がブチ切れてるから近寄らない方がいいよ!見てほらさっきまでアイツ腕七本あったのにもう二本になってる」


 ミミの目の前には、一人の老人におびえ逃げ惑うボスモンスターらしい存在がいた。根元から腕を切り裂かれ武器である七支刀を体中に突き刺され、体は凸凹まみれ。それでも生きていた。


「えぇ……?」


『何?……何?』『うーわあのデカいボスモンスターの腕がバターを切るみたいにスパスパ切れてる』『と言うかあぶねぇだろ!切った武器投げるなよ!』


「貴様か?貴様がワシの家を粉々にした元凶か?ん?」


 しゃべれない様子のボスだが、明らかに涙目になっていることは伝わってくる。しかしこちらからすればわざわざ倒さない理由もない。師匠はそのまま表我流を叩き込むことにしたようだ。


「表我流……其の六『ショウ』」


 頭部に放たれた掌撃は、そのボスのデコに命中し後頭部を砕き絶命させた。ボスの死骸はすぐにでも残滓となって消え、後には謎のアイテムだけが残されるのみ。


「……えっと。あなた達は何者なんですか?」


「僕は碑矩火焔。そしてあの人が師匠。まぁ……拳法家かな」


「ふぅ……清々したわ!どれ、これからどうするかのぉ……」


 そんな事をいいながら、師匠は落ちていたアイテムを手にする。ボタンが三つくらい付いているそれを見て適当に一つ押してみる。すると突如師匠の体が光に包まれる。


「えっ何々?!」


「し、師匠!?」


『まさか自爆装置か!?』『と言うか誰なんだよホントに!』『ミミちゃん大丈夫?』


 しばらくの発光の後、目を開けてみるとそこには……。


「なんじゃ全く騒々しい……ん!?」


「あっ良かった大丈夫ですかししょ……う?」


「え、さっきまでおじいちゃんだったのに……若返ってる?!」


 98歳から5歳にまで若返った師匠の姿があったのだった。

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