第3話:強者殺しは序盤の華『ヤッベコイツマジ強い』


 刀を折ったと言うのにそれはすぐさま復活し、再び刀を二人へ向けるウツワ。師匠はそれを見て興味がないと言うように下層へと潜ろうとする。


「ふむぅ……。碑矩」


「はい。なんでしょうか師匠」


「お主から見て、それをどう思う?」


 師匠はソレに対する興味を完全に失っていた。なので弟子の育成にはちょうどいいと言うような反応を示しそのまま階下へ潜ろうとする。


「……。まぁ、倒せるでしょうね」


「いかにも。殺して構わん、やれ碑矩」


「……。了解」


 そう言うと碑矩は、普段の自然体な型から右足を前に出した型へ体制を変える。これは碑矩が本気で戦う時に決めているルーティンみたいな物である。


「コイツを殺します」


 ◇


『え?ペナルティモンスター倒す気なん?』『無理だろ、ガチ勢でも数十人の犠牲出してギリ倒したんだったんだから』『とはいえミミちゃんに何かあったらヤバいしがんばれよー!知らん奴ー!』


「表我流其の一、応用……『激燐ゲキリン』!」


 ウツワが何か身動きをしようとするより早く、碑矩はウツワの眼前まで移動すると其の一の応用技である激燐を叩き込む。バギンと言う音とともに、ウツワの着ている鎧にまるで向日葵のような模様が浮かび上がる。


「……?」


 碑矩は殴った瞬間に違和感を覚える。中身が無いのはまぁ分かる。しかし何か変なのだ。。そしてその違和感はすぐに解消されることになる。


「ん?なんかいるぜってあっなんだおいやめあ、ギャァァァッッ!!??」


『ゲッ乗っ取りかよ……』『そういう性癖の奴?』『地味に嫌だなアレ』


 そう。このペナルティモンスターと言う存在は言わば。コレを倒したければ何の罪もない一般人を(生き返るとはいえ)殺さなければいけないと言う物。パーティーを組んでダンジョンに潜る奴ら相手には良く効くのだ。


「や、やめてくれぇ!オイ!俺は関係ねぇよ!」


「サァ、ドウスル?無関係ナ一般人ヲ、己ノ目的ノ為ニ殺スカ?」


「……。あ?」


 あくまで……。碑矩が相手じゃなかった場合だが。


「表我流其の四『シン』」


 碑矩はごちゃごちゃ喋るウツワに対し、あたかも隣を通り過ぎるような感覚で接近するとそのまま振と言う打撃を頭部に放つ。するとしばらく鎧そのものが震えたかと思うと鎧の隙間から緑色の液体があふれ出し、バラバラと音を立てて鎧が崩れていく。


「ナメやがって……」


「ヒェ……」


『え?』『あっ内部だけ揺らしたッぽい感じっすか……?』『ペナルティモンスターっすよね?』『あっ倒せた奴ってコイツかぁ!』


 正直、こいつはそこまで強くはない。本当に強い奴一人いればまぁ倒せないことはない。……問題は他人を無理やり巻き込んでくると言う畜生加減だが。


「大丈夫ですか?」


「あ。あぁ……。スマン助かった……。しかし何をしたんだ?鎧の中じゃほとんど何も見えなくてな……」


 当然のようにペ犠牲ゼロでナルティモンスターを撃滅して見せた碑矩に、コメント欄は大盛り上がり。


『ヤッベ!アイツすっげぇ強いぞ!』『おい誰だよコイツ!?特定班呼んで来い!』『俺らのチームにスカウト出来ねぇかな……』


「うっわ同接数が凄い事に……!ウヒョヒョ笑いが止まらないね!」


『ゲス笑い助かる』『いいな~ミミは強い奴が一緒にいて』『で、そいつ誰?』


 一方その頃、師匠はボスモンスターを発見していた。


「フム……。ワシが思うに、貴様よりもこの前戦った奴の方が強かったな」


「ア……」


「ホレホレ、技の一つでも見せてみろ?ん?」


 発見し、即四肢を破壊し床にたたきつける。ここのボスモンスターはなんと背景にしか見えないカカシ。麦わら畑エリアにいるカカシの一体が時折ダンジョン探索者を殺し、ドンドン強くなると言う物。更に一人の時のみ出てくるソロ殺し。

 それがここのボスだったのだが……。今やボロ雑巾。文字通りゴミのように打ち捨てられたそれは最後の抵抗と言わんばかりに魔法を唱えようとする。


「おぉ、初めて見る技術だな」


 カカシなのに火の魔法を使うと言う初見殺しがあったのだが……。普通に火の玉を正面から殴り飛ばされてはもうどうすることもできない。最後は技でもないただのパンチで砕け散るカカシ。


「心底つまらん相手だったな」


 ボスを倒したと同時にアイテムが出現。今回のアイテムは『知恵を持たぬ木偶ノウナシカカシ』。どういうアイテムなのかと言われると、見た目は小さなカカシだろう。趣味が悪いそれを地面に投げ捨てて、師匠は二人の元に帰っていくのであった。


「倒してきたぞ」


「え?もう終わったんですか師匠」


「心底つまらん相手だったぞ。お主でも余裕で倒せるほどにな」


 ボスが倒されるとダンジョンがショボくなるが、まぁ元がデカい規模のダンジョンなのでさほど問題は無いだろう。それより問題なのは碑矩の方である。


『おい誰かアイツに話しかけに行けよ!』『あーダメだ!ちょっと専門掲示板の方に行くわ!』『ミミちゃん目的で見てたのにいつの間にかヤバい奴に乗っ取られかけている件』


「……。どうしよ」


 ◇


「あの有名人は」『人探しスレ231』「どこに」


『566ウィーキ:つーかさ、なにアレ。人?』


『567チキチキスレ:知るかよ』


『568メメントモモイ:流石にペナルティモンスター単騎撃破はちょっと……』


『569ひなもり:え?出来ないんですか?』


『570チ。:おっ新規さんか?単騎はまぁ出来なくもないけどよぉ、あのウツワって奴は被害数レベルで言うならトップクラスのウザさだからよ』


『571カッピン:そうそう。実際問題アレを倒したって報告は多いし。他のペナルティモンスターに比べると一つ落ちるかな、格』


『572ケザ:まぁ……。だからと言って試すなよ?普通なら一人犠牲にする所を無犠牲で倒しやがったんだからな。それにアイツ、無意味に攻撃すると分裂して更に被害が出るし……』


『573チャパン:じゃあアレ覚えたら一日に何度もダンジョンに入れる……。って、コト!?』


『574みちみ:いや無理でしょ。最後にはアレ出てくるし』


『575名護:あぁアレか……。アレは一回だけ出たけどダンジョン全域に即死判定攻撃ぶっぱマンだからね……』


『576チ。:確か全部のペナルティモンスター出現条件を満たすと出現するんだったか。一週間くらいダンジョンにうろつくのヤバいでしょアレ……』


『577ハチハチハチ:待って?なんか……ズレてない?』


『578チ。:そうだったあの男についてだ。誰か知らないか?』


『579ピピピ:ムリだね。調べたけど完全に情報がないよ。山で育ったんじゃね?』


『580チャム:じゃあの女の方追うか』


『581チ。:おい配信者のリアル凸はやめろって言われてんだろ。やめろよ』


『582ちまめ:そういう話は別のスレで建てろ!ここでするな!検閲済みにするぞ!?』


『583:『このスレは削除されました』』


『584マチャミチャ:なんて入力しやがったんだコイツ!?』


 ◇


 仙台ダンジョンを破壊した一行は次なるダンジョンを求めて既に移動していた。次に行くダンジョンは松島と言う観光地に出来たダンジョン。


「……移動中に一つ決めておかなければならないことがあります」


「なんじゃ?」「なんですか?」


「それは……配信の時に使う名前です!!!!」


 移動中、子猫がそんなことを言い出したので何を言い出すのかとハナで笑う師匠、本気で考えだす碑矩。


「師匠。まぁ一応考えた方がいいかと。師匠はともかく」


「そうかの?まぁワシは大丈夫だろうが」


「……そういえば、師匠さんって本名なんて言うの?」


「え?師匠は師匠だけど」「ワシ、長生きし過ぎてスッカリ本名忘れちゃったのじゃな!ワハハ!」


 まさか師匠が本名だとは誰も思うまい。それはそうと動画内では碑矩は『カエン』、師匠は『シショウ』と呼ぶと言い出した。


「……本名じゃん」


「僕は問題ないですよ」


「そもそも偽名と言うのは気に食わん」


「いや!配信者やるなら実名は流石にダメですって!」


 結果的に妥協に妥協を重ね、碑矩は『ヒエン』、師匠は『シオウ』と名乗る事になった。既に疲れている様子の子猫だが、今日泊まる場所は海が見える場所だと言うので楽しみな様子だ。


「ここじゃ」


「……民泊!!」


 だいぶ考えていたものと違いガッカリする子猫。しかし文句を言っても仕方ないのでトボトボと民泊予定地に向かうのであった。

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クソ強拳法家達はダンジョンに挑む!~トンチキ最強拳法家達と中堅配信者が全国のダンジョンに挑むらしいです~ 常闇の霊夜 @kakinatireiya

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