もう一度同じ後悔をしよう
浮星
もう一度同じ後悔をしよう
なんでもない今日という日は、君が死んだことによって君の命日とやらになったらしい。僕にとって今日という日は、名前がついた日になった。どの日にも代えられない、特別な日になってしまった。他の誰でもない、君のせいで。
なんでもない日に食べるケーキがいちばんおいしい。って、前に君がそう言ってたから。だから、僕はなんでもない日にケーキを買ったんだ。夢想するみたいに目を瞑って、今本当にケーキを食べてるんじゃないかってくらい幸せそうな顔をして、やわらかく笑いながら話してくれた、君のために。帰って、この白色の箱を君に見せる。そうしたら、中身を想像した君はきっと、そのかわいい顔をわあと綻ばせるだろうな、なんてことを思い浮かべた。僕は口角が持ち上がりそうになるのをなんとか堪えて、搾りたてのオレンジジュースみたいな色に染まる帰路を、仕事終わりとは思えないくらいに軽い足取りで進んだんだよ。
ねえ、僕は今日もケーキを買ってしまったんだ。なんでもない日だったはずの今日に。君が死んだ今日という日に。君と一緒に食べるはずだったショートケーキを、一人で食べたあの日と、同じように。別に、僕、ケーキとかさ、正直、そんな好きじゃないんだよ。君が好きだって言ってたから。君がケーキを食べてるその、幸せそうな顔が僕は好きだったから。だから僕は、君と一緒にケーキを食べたかったんだ。
なんでもない日だと言ったって、毎年同じ日にケーキを買っていたら、それってもう特別な日なんじゃないかな。君が死んだ。って、ただそれだけの日なのに。僕は君の死を受け入れられていないのかもしれない。まだ、君が死んだあの日を、特別な日だとは思えないから。いや、思いたくないだけなのかもしれない。だって、毎年この日にケーキ買ってるし。結局のところ、ただのくだらない強がりなのかもしれない。
きっと僕は来年もこの日にケーキを買ってしまう。誰かにとっては誕生日であり、最悪な日であり、歓喜すべき日であり、なんでもない日である、君の命日に。君と食べたかったケーキを、一人で食べる。
今度は、チョコケーキにしてみようかな。そうしたら、この頭痛は甘ったるくてしかたない生クリームのせいにってことになるかもしれないし。目に滲むこれは、ちょっと酸っぱすぎた苺のせいってことになるかもしれないし。
もう一度同じ後悔をしよう 浮星 @uki_hoshi_
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