第39話 水の壁
頭部が無い二足歩行の人型の形状の機械――マジック·マシンに乗っているソフベルディは、操縦席であるマシンの胴体の上からエイリーナたちを見下ろしていた。
彼の冷酷な笑みが、戦場の緊張感を一層高める。
「テメェらはここで終わりだ!」
ソフベルディの声が響き渡ると同時に、マジック·マシンの腕が光り始めた。
エイリーナはすぐに仲間たちに声を張り上げた。
「みんな、気をつけて! あれはマジック·ソルジャーと同じ技だよ!」
エイリーナ、ヘリヤ、ロアール、そしてアウスゲイルは、それぞれの武器を構え、戦闘態勢に入った。
エイリーナはエレメンタルの魔法を準備し、ヘリヤは剣を握りしめる。
ロアールは戦斧を構え、アウスゲイルは湾曲した剣を振りかざした。
「マジック·ソルジャーの技か。道理で威力がデタラメなはずだ。だが、ここがグリンヌークである以上、俺たちギュミルタックは負けられない!」
ロアールが叫び、仲間たちの士気を高める。
武装商船団のメンバーも彼の声を聞き、ぶつかり合う金属音が響く中、全員が声を張り上げて応えていた。
魔導兵器を相手にしても怯まないキャプテンに、彼らもまた同じように気を吐いている。
ソフベルディは「無駄な抵抗だ」と言い放つと、再びマジック·マシンの腕から魔力の塊――マジカル·キャノンを放った。
光の
「アタシだって!」
エイリーナはエレメンタルをかざし、皆を守る防御の魔法をイメージした。
魔力の塊はいわば光だ。
ならばとエイリーナは想像力を膨らませる。
以前にショーズヒルドから教えてもらったことから。
光が空気から水に入るとき、または水から空気に出るときに屈折が起こる。
これは、光が異なる媒質(空気と水)を通過する際に速度が変わるためだ。
例えば、水中にある物体を見るとき、その物体から出た光が水面で屈折して目に届くため、実際の位置とは異なる場所に見えることがある。
この原理を利用して、水の壁を使って光のビームを屈折させ、攻撃を防ぐことを可能にする。
「水の壁を……光を防ぐイメージをッ!」
錆びた剣から青い光が放たれ、彼女の周囲に透明な水の障壁が現れた。
閃光が壁に当たると、水の流れがそのエネルギーを吸収し、波紋のように広がって攻撃を無力化した。
「みんな、今だよ!」
エイリーナの声に応えるように、ヘリヤとロアールは一斉に突撃し、アウスゲイルも後に続いた。
彼らの連携攻撃が、ソフベルディのマジック·マシンに次々と打撃を与える。
「今度こそ終わりだ、ソフベルディ!」
ヘリヤが声を張り上げると、ソフベルディは激しく表情を歪めながら叫ぶ。
「バカな!? こっちは魔導兵器だぞ!? それが、どうしてテメェらなんかに押さてんだよ!?」
アウスゲイルは、狼狽えるソフベルディに向かって言う。
「自分の手を汚さずに、ガキども使ってたツケが回って来たみてぇだな、ソフベルディ」
「アウスゲイル!? そもそもテメェがいなけりゃこんな目に遭うこともなかったんだ! 俺に手を出して、スヴォルド商会が黙ってると思ってんのか!」
「そりゃ脅しにはならねぇぞ。俺はもうスヴォルド商会と縁を切ってる。大体お前のことは昔からいけ好かなかったんだ」
「この裏切りもんがぁぁぁッ!」
ソフベルディの叫び声が戦場に響き渡る中、ヘリヤは隙を突いてマジック·マシンの懐に飛び込む。
彼女の目には決意の炎が燃えていた。
拳に魔力をまとい、それを一気に振り抜いた。
その一撃でマジック·マシンは海へと吹き飛び、機体に受けた衝撃でソフベルディは気を失った。
魔導兵器は海へと沈み、白目をむいたソフベルディが海面に浮かんでいる。
「おい、お前たちの頭はあのザマだぞ! 勝ち目のない戦を続けるつもりなら、今度こそ命を捨てる覚悟でかかってこい!」
ロアールの声が響き渡る。
リーダーを失ったソフベルディの部下たちは、戦意を失い、ロアールの一喝で降伏した。
武器を捨て両手を挙げ、武装商船団の船員によって捕らえられていく。
その光景を眺め、ニッコリと微笑んだエイリーナは、海面に浮かぶソフベルディを見ているヘリヤに声をかける。
「やったね、ヘリヤ。これでもう安心だ」
エイリーナの言葉に、ヘリヤは満面の笑みを返した。
彼女の笑顔には、戦いの終わりと未来への希望が込められていた。
捕らえたはずのソフベルディ一味が現れ、魔導兵器が出てきたときはどうなるかと思われたが、エイリーナたちは互いに協力し、見事に敵を打ち倒した。
皆の顔を見渡したエイリーナは、仲間の無事を確認すると、胸の中に安堵の気持ちが広がった。
武装商船団の船――グリーン·アクスは半壊してしまったものの、幸いなことに港や他の船に被害が及ぶことなく、戦いを終わらせることができたのである。
エイリーナは船の損傷を見て、これからの修理が大変だと感じつつも、皆が無事であることに喜んでいた。
ロアールは船員たちとハイタッチを交わし、互いに健闘を称え合っている。
彼の顔には疲れが見えたが、その目には達成感が輝いていた。
船員たちもまた、戦いの終わりを喜び、誰もが笑顔を浮かべていた。
エイリーナがその光景を眺めていると、アウスゲイルが複雑そうな顔で声をかけてくる。
「ソフベルディの野郎は片付けたのはいいが、問題はこの後だな」
危機は去った。
だが、アウスゲイルの言葉を聞いたエイリーナは、忘れていた不安がよみがえってきた。
彼女の心には、ヘリヤの未来に対する懸念が広がっていた。
ロアールは、ヘリヤの処遇をどうするのか?
エイリーナは、ヘリヤがこの戦いの後どうなるのかを考えると、胸が締め付けられるような思いがした。
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