第38話 グリンヌークの守護神 ロアール·バレンツ

ロアールは深緑の三角帽をかぶり、肩章の付いた深緑のフロックコートを身にまとっていた。


彼のブラウンヘアは帽子の下から覗き、右目の下には特徴的なほくろがある。


肩幅が広く、背の高い彼は、まさに戦場に立つために生まれたような男だった。


「ようやくお前を捕まえられるな、ソフベルディ!」


ロアールはその戦斧を構え、マジック·マシンに向かって一歩踏み出した。


「やれるもんならやってみろよ! テメェがこのマシンに勝てるんならな!」


ソフベルディが高笑いしながら叫び返した。


マジック·マシンはスヴォルド商会が開発した巨大な機械人形で、頭部が無く、胴体の上に操縦席がある。


全体が金属で造られ、関節部には複雑な魔法陣が刻まれている。


魔力の塊を放つことができる強力な魔導兵器だ。


「気をつけてロアールさん! そのマシンはただの機械じゃないの!」


エイリーナが叫んだ。


「わかってる!」


ロアールは答え、戦斧を振りかざした。


彼の動きは素早く、力強かった。


斧の刃がマジック·マシンの金属の装甲に当たると、火花が散った。


ロアールはその強さを存分に発揮し、次々と群がってきたソフベルディの部下を打ち倒していった。


彼の斧はまるで嵐のように振るわれ、敵の攻撃をことごとく打ち砕いた。


しかし、マジック·マシンは反撃に出た。


巨大な腕を振り下ろし、ロアールを押しつぶそうとしたが、彼は素早く身を翻して避けた。


次の瞬間、ロアールは鎖を引き出し、マジック·マシンの脚に絡め取った。


彼の持つ戦斧は特別製だ。


この武器は、普段は普通の戦斧として使え、柄の中に鎖が収納されている。


必要なときに鎖を引き出し、敵を絡め取ることができる多機能な武器だ。


「マジック·マシンを止めるなんて……。あいつ、メチャクチャだな……」


その戦いぶりを見ていたアウスゲイルが呟いた。


グリンヌークの守護神の名は伊達ではないと、彼は思わず息を飲んでいた。


「このまま寝かせてやる!」


ロアールはさらに力を込めて鎖を引き、マジック·マシンの動きを制限した。


しかし、マジック·マシンはその強大な力で鎖を引きちぎり、再び動き出した。


「ぐッ、なんて力だ……!?」


ロアールは驚愕しながらも、再び戦斧を構えた。


彼の強さはたしかだったが、マジック·マシンの圧倒的な力には敵わなかった。


「ぐははは! こいつはマジにすごいな!」


ソフベルディは怯むロアールを見て、満足そうに声をあげた。


彼の目には冷酷な光が宿り、その笑みはまるで獲物を捕らえた捕食者のようだった。


そして、その勝ち誇った顔のまま、彼に向かって言う。


「もう諦めろ、ロアール。大人しく俺の部下になるんなら、命だけは助けてやってもいいぞ。ここら海域をすべて把握しているお前が俺の下につけば、グリンヌークは俺のモノ同然になるんだからな」


ロアールは一瞬、ソフベルディの言葉に動揺したが、すぐにその感情を押し殺した。


彼の心には家族と仲間たちの顔が浮かび、決意が固まった。


「冗談じゃない……」


ロアールは戦斧を突き出し、ソフベルディを見上げながら言い返す。


その目には、決して揺るがない強い意志が込められていた。


「俺を誰だと思っているんだ。武装商船団ギュミルタックのキャプテン、ロアール·バレンツだぞ! 俺が諦めたら、この国に住む家族は一体誰が守るんだ!」


ソフベルディはその言葉に一瞬驚いたが、すぐに冷笑を浮かべた。


「そうか。残念だよ、ロアール。なら死ね!」


マジック·マシンが片腕を突き出した。すると、腕の先が光り輝き始めた。


エイリーナは、それが何なのかすぐに気がついた。


あれは前に船上でヘリヤが放ったマジック·ソルジャーの技――マジカル·キャノンだ。


「ロアールさん、逃げて!」


エイリーナの声は必死だったが、ロアールは動じなかった。


「バカが、逃げられるかよ。船の上にいる全員吹き飛ばしてやる!」


エイリーナの叫びも虚しく、マジカル·キャノンは放たれた。


それは以前にヘリヤが放ったものとは比べものにならないほど広範囲で、ソフベルディの言った通り、船上にいるすべての人間を殲滅しかねないものだった。


飛び出したエイリーナは慌ててエレメンタルの魔法で防ごうとしたが、乱戦の中で上手く動けない。


このまま皆やられてしまうのか?


そうエイリーナが思った次の瞬間、もう一つの閃光が放たれ、ソフベルディの攻撃を妨害した。


「マジカル·キャノン……」


「テメェ、ヘリヤ!? どこまで俺の邪魔をしやがる!」


ヘリヤは冷静な表情でソフベルディを見据えた。


「やらせない!」


乱戦の中から、ヘリヤが飛び出してくる。


彼女の目には決意の炎が燃えていた。


彼女はロアールと並ぶと、全身にまとった魔力の量をさらに上げた。


周囲の空気がピリピリと震え、魔力の圧力が感じられる。


ロアールは、隣に立った前髪の長い少女に向かって、まるで自嘲するかのように声をかけた。


「お前にとっては、俺が死んだほうがよかったんじゃないか?」


「あなたがいなくなったら、ボクは罪を償えなくなる」


その言葉にロアールは一瞬、息を呑んだ。


彼女の真剣な表情に、彼の心は揺れ動いた。


次の瞬間、二人の間に緊張が走る。


戦場の喧騒が遠くに感じられるほど、二人の間には静寂が広がっていた。


「おいおい、お前ら、よそ見している場合じゃねぇだろ」


そこへエイリーナとアウスゲイルが現れた。


エイリーナの目には決意が宿り、アウスゲイルは冷静な表情で周囲を見渡している。


アウスゲイルが湾曲した剣を構えると、赤毛の少女は錆びた剣を握り直し、ヘリヤとロアールに向かってニッコリと微笑んだ。


その笑顔には、戦いの緊張感を和らげるような温かさがあった。


「さあ、みんなで片付けちゃおう!」

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