第37話 マジック·マシン

アウスゲイルは、ソフベルディが乗っている動く機械人形を見て驚愕した。


彼の目は大きく見開かれ、口元が震えている。


「ありゃマジック·マシンじゃねぇか!? ソフベルディの野郎、どうしてあんなもんを!?」


エイリーナも同様に驚き、心臓が凍りつくような感覚を覚えた。


彼女の手は無意識に胸元に当てられ、息を呑んだ。


「あの機械人形が放っているのは、魔法なの……?」


マジック·マシンとは、スヴォルド商会が開発した魔導兵器である。


頭部が無い二足歩行の人型の形状をしており、胴体の上に操縦席を配置している巨大な機械人形だ。


全体は金属で覆われており、関節部分には複雑な魔法陣が刻まれている。


その魔法陣が淡く光るたびに、機械人形はまるで生きているかのように動き出す。


マジック·ソルジャーと同じく魔力の塊を放つことができ、そのパワーもまた、魔力で身体能力を向上させたマジック·ソルジャーと同じである。


つまり、ウィザード·システムと施術するというリスクを負うことなく、マジック·ソルジャーと同等の魔法の力を得られる乗り物だ。


巨大な機械人形――マジック·マシンは、まるで悪夢のように船の甲板を踏みつけ、周囲の物を破壊していた。


船員たちは慌てて逃げ惑い、船全体が混乱に包まれた。


マジック·マシンの足音は重く、甲板に響き渡り、そのたびに船が揺れる。


機械の関節が軋む音と、魔力が放たれる音が混ざり合い、恐怖を一層引き立てていた。


「このままじゃ船が沈んじゃう!」


エイリーナが声を張り上げると、ロアールは眉をひそめた。


「どうやら捕らえ損ねていたようだな、お前たち」


「うん、どうやったのかわからないけど、ソフベルディは縄を解いて逃げちゃったみたい。しかも、あんな機械人形に乗って現れるなんて……」


「上等だ、向こうからやって来たのなら、返り討ちにしてやる」


彼は室内にあった金属管を使った通話装置――伝声管で素早く指示を出し、武装商船団のメンバーたちに戦闘準備を命じた。


ショーズヒルドもすぐに動き、エイリーナを身を守るために彼女の前に立つ。


「お嬢、ここは危険です。ひとまず子どもたちと一緒に安全な場所へ」


しかし、エイリーナはその場を離れることができなかった。


彼女の目はヘリヤに向けられていた。


ヘリヤは決意の表情を浮かべ、ソフベルディに立ち向かおうとしていた。


彼女は長い前髪を払うと、部屋から出ていこうとしていたロアールに言う。


「ボクらのことについては、ソフベルディを捕まえてからでもいいですか?」


ロアールは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。


彼の目には一瞬の戸惑いが浮かんだが、すぐにそれを隠すように微笑む。


「律儀な奴だ、どさくさに紛れて逃げればいいものを。いいだろう。続きは奴らを片付けてからだ」


「ありがとうございます」


ヘリヤは深く頭を下げ、ロアールと一緒に部屋を出ていく。


彼女の心臓は激しく鼓動していたが、その目には決意の光が宿っていた。


どうやってソフベルディが拘束を解いて襲ってきたのかはわからないが、状況は最悪だ。


だが、それでも武装商船団ギュミルタックとヘリヤの共闘は、先ほどの話をより良い方向へ運んでくれるだろう。


エイリーナはそんなことを考えて、二人に続こうとしたが、ショーズヒルドが止めてきた。


「言ったでしょう! お嬢はここにいてくだ――ッ!?」


「ちょっと手伝ってくるから、ショーズヒルドは子どもたちをお願い! 行くよ、アウスゲイル!」


エイリーナは、彼女の言葉を遮って飛び出していった。


その後、乾いた笑みを浮かべたアウスゲイルが続いた。


「またですか!? 危険なことは私がやりますので、お嬢こそみんなと一緒に!」


「ショーズヒルドにしか頼めないの! お願い!」


エイリーナは振り返ってそう言い残すと、ショーズヒルドの言い分など聞かずに出ていった。


いつものパターンだ。


残されたショーズヒルドは、大きくため息を吐いた。


彼女の心には、エイリーナの無鉄砲な行動に対する不安と、それでも彼女を守りたいという強い責任感が渦巻いていた。


しかし結局は「やれやれ」とでも言いたげに、ショーズヒルドはお願いされたことを行動に移すのだった。


――甲板を出たエイリーナとアウスゲイルは、すでに乗り込んできていたソフベルディとその部下たちから船を守るために、それぞれ武器を構えた。


エイリーナは心の中で決意を固め、アウスゲイルは冷静に周囲を見渡していた。


船の上はすでに戦場と化していた。


ソフベルディの部下たちと武装商船団ギュミルタックの船員たちが激しく刃を交え、双方が入り混じった混戦状態だ。


血と汗が飛び交い、叫び声が響き渡る中、エイリーナとアウスゲイルは一歩一歩前進していった。


斬りかかってきた敵を打ち倒しながら、アウスゲイルがエイリーナに向かって叫ぶ。


「エイリーナ、あのソフベルディが乗ってる機械人形はスヴォルド商会製のマジック·マシンだ! 正直いって魔鯨並みにヤバいぞ!」


エイリーナは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な顔つきに戻った。


「そんなにヤバいの、あの機械人形!?」


「ああ、マジック·ソルジャーと同じ力がある上に、動かしてるのが人間だからな。それに加えてこの敵の数だ。一度引いたほうがいいかもしれねぇ」


アウスゲイルは機械人形の脅威を知っているようで、エイリーナに忠告した。


だが、彼女は錆びた剣――エレメンタルで敵を振り払いながら叫ぶように言い返した。


「逃げるわけにはいかないよ! アウスゲイルの言う通り、あの機械人形がそんなにヤバいものなら、絶対に放っておけないもん!」


アウスゲイルは一瞬顔を引きつらせたが、すぐに笑みを浮かべた。


「そう言うと思ったよ……。わかった、とことん付き合ってやるぜ、相棒!」


エイリーナも笑みを返した。


「いいね、その相棒って!」


二人は、互いに背中を合わせながら敵を打ち倒し、ソフベルディを目指した。


彼女たちの心には、この港を守るための強い決意が宿っていた。


エイリーナたちがなかなか進めずにいる中――。


問題のマジック·マシンの前には、武装商船団ギュミルタックのキャプテン――ロアール・バレンツが立っていた。


「これ以上はやらせん!」

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