第32話 これまでしてきたこと
パーティーも終わり、片付けも終えた頃。
ようやくショーズヒルドも目を覚まし、彼女は真っ青な顔で頭を抱えていた。
おそらく二日酔いだろう。
たった一口アルコールを飲んだだけで後に響くとは、彼女も難儀な体を持ったものだ。
「よし、取れたよ。これでもう大丈夫」
ソファーから体を起こしたショーズヒルドの前では、エイリーナがヘリヤの手に付けられたブレスレットを外していた。
「うん、ちゃんと魔力が使えるようになったみたい。ありがとう、エイリーナ」
「なんのなんの。これくらい朝飯前だよ」
試しに全身に魔力を行き渡らせ、力が戻っていることを確認したヘリヤ。
それから礼を言い、エイリーナは大したことはしていないと、笑みを返していた。
(マジで取っちまったのかよ……? こいつはいつもあり得ねぇことばっかやりやがる)
エイリーナが魔力を封じることができる腕輪を外すことができたことに、アウスゲイルは驚いていた。
なんでも彼女の話によると、似たような物の図面が実家の工房にあったらしい。
その話を聞き、アウスゲイルはエイリーナの両親がやっていたロイザヘルズが、普通の機械工房ではないと思っていた。
普通の機工師ならば、機械製品の制作や機械のメンテナンスが主な仕事だ。
細かくいえばもっとあるのだろうが、魔力を封じることができる道具――魔導具の図面がある工房など、聞いたこともない。
第一に現在の世界は、武力組織ロンディッシュによって魔法に関わることはすべて禁忌となっているのだ。
もし魔導具やそれに関わる技術があるとすれば、アウスゲイルが所属していたスヴォルド商会が裏でやっている仕事くらいだ。
それなのにどうして魔導具に関する技術があるのか――。
アウスゲイルはエイリーナの両親について深読みしようとしたが、今はそんなこと考える必要はないと結局はやめた。
「では、話し合いを始めましょうか」
ブレスレットを外すのを待っていたショーズヒルドは、ソファーから立ち上がった。
まだ頭痛が酷そうだったが、彼女はピンと背筋を伸ばして話を切り出した。
これからするべきことは、まず捕らえたソフベルディたち海賊をどうするか、そして本来の目的であるグリンヌークの王――イスビョン·グリンヌークと会うことだ。
前者は簡単な話で、このままこの国に滞在しているロンディッシュに引き渡せばいい。
問題は後者で、ヘリヤたちの救出で先送りとなっていた王と会うための作戦は何も話が進んでいない。
酒場で情報収集していたショーズヒルドも大した話は聞けず、アウスゲイルも捕らえたソフベルディから王と会えるような情報を得ようとしたが、結局二人とも空振りだった。
「このまま考えていても良い案は浮かびそうにないですね。では、まずはできることから致しましょう」
ショーズヒルドは黙ったまま時間だけが過ぎていくのを止め、ひとまずは明日の朝にでも、ソフベルディたち海賊をロンディッシュに引き渡そうということになった。
話もひと段落し、エイリーナがヘリヤに声をかける。
「ねえ、ヘリヤたちはこれからどうするの? もしよかったらイスランにあるアタシの工房に来ない?」
「イスラン?」
「グリンヌークの一番近くにある国! アタシの故郷、イスランだよ! アタシはこの魔法の剣を売って、故郷をロンディッシュから買い取って、島を今よりもステキなところにするんだ!」
「えッ? 国を買うつもりなの? ロンディッシュから?」
ヘリヤは驚いて目を丸くしていた。
しかし、そんな顔になっても仕方がない。
なにせ自分と同じくらいの年齢の少女が、島をまるごと買おうとしているのだ。
これまでソフベルディにいいように使われ、その日その日をなんとか生きてきたヘリヤにとっては、まるでスケールが違う話だ。
しかも、せっかく手に入れた特別な力を手放してまで叶えようとしているエイリーナの情熱に、彼女は少し悔しささえ覚えていた。
驚いて言葉を失っているヘリヤに、エイリーナは両手を大きく広げながら話を続ける。
「そう! 世界から忘れられたイスランを、誰もが足を運びたいと思える国にしたいんだ! そのためにはたくさんの人手が必要でしょ。だから、ヘリヤたちもぜひ
ヘリヤは、無邪気に夢を語ったエイリーナに笑みを返した。
出会いが最悪だった相手を、どうしてこんなふうに誘うことができるのか。
人としてのできがまるで違う。
それは頭の悪い自分でも理解できると、彼女はそんなことを考えながら胸が温かくなっていくのを感じていた。
「とってもいい話……だけど、ボクは……」
彼女はグッと拳を強く握ると、表情を引き締める。
そんなヘリヤを見つめるエイリーナは、当然イスランに来てくれると思っていたが――。
「自分のやってきたことにケジメをつけたいんだ」
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