第28話 真実を知る

地下室に行くには、屋敷にある別の部屋へ行く必要がある。


ヘリヤがその部屋に入ると、そこにはソフベルディの部下の男たちがいた。


男たちは酒瓶や肉の乗った皿があるテーブルを囲み、トランプカードを手にギャンブルをしている。


「おッ、なんだよ、ヘリヤじゃねぇか」


「お前もやるか?」


男たちは煙草をふかしながら、ヘリヤに声をかけてきた。


かなりの量の酒を飲んでいるのだろう。


上機嫌で真っ赤な顔をゆるませている。


ヘリヤは男たちのいるテーブルに着くことなく、地下室にある積み荷を運ぶと答えた。


明日奪った積み荷を売りに出すため、前もって外に出せるようにと考えてのことだ。


話を聞いた男たちは「相変わらず真面目だな」と言うと、ヘリヤのことなど気にせずに、再びトランプを始めた。


彼女はソフベルディの部下たちに対して、特に仲間意識はなかった。


なぜならば彼らは船を襲うときに現場にいるものの、危ない仕事はヘリヤたちに任せ、いつも何もしないからだった。


商船を追う船の操作なら彼女たちでもできるのに、一体男たちは現場で何をしているのか?


ヘリヤはいつも疑問に思っていたが、それがソフベルディの指示ならばと考えないようにしている。


部屋にあった地下室へと向かう扉を開け、彼女は階段を降りていった。


下は当然、真っ暗だったため、壁にかけられた松明に火をつけ、地下室内を見渡す。


そこにはこれまで奪った積み荷が山積みにされており、ヘリヤは早速運ぼうとした。


「へー、地下室に別の部屋なんてあったんだ……」


積み荷を運びやすいように動かしていると、これまで知らなかった鉄の扉があった。


ヘリヤは興味本位で開けようとしたが、鍵がかけられているようで開けることができなかった。


きっと使っていない部屋だろうと、彼女が再び作業を始めようとすると、扉から物音が聞こえてきた。


「誰か……いる?」


中から何か聞こえたヘリヤは、扉に顔を近づけて耳を澄ました。


ドンドン、ドンドン――と、たしかに物音が聞こえてくる。


しかもその音に交じって、人の声も微かにだが耳に入ってくる。


間違いない。


この扉の向こうに誰かがいる。


そう確信したヘリヤは、右手に意識を集中させる。


「マジック·アドバースト……」


その呟きの後、彼女の手に魔力が宿った。


この技は魔力を全身へ張り巡らせ、身体能力を向上させる――魔法大戦でマジック·ソルジャーが使っていたものだ。


ウィザード·システムの施術が成功した者ならば誰でも使用でき、この技こそヘリヤが船の上でエイリーナの剣を受け止めても無事だった理由だった。


だがあまり長く使用すると魔力の負荷に体が耐えられず、穴という穴から血が噴き出し、最悪の場合は何かしらの後遺症(神経などに障害)が残るものでもある。


魔力で身体能力を上げたヘリヤは、鉄の扉を強引にこじ開けた。


当然、中は真っ暗だったので、壁にかけられた松明を手に取って室内を灯した。


そこで彼女が見たものは、なんと人間だった。


両手両足を縛られ、口には猿ぐつわ――誰がどう見ても捕らえられ、この部屋に押し込まれているといった感じだ。


さらには、そのほとんどがヘリヤよりも年下の少年少女ばかりで、これは一体どういうことだと、彼女は驚かずにはいられない。


そして、しばらく放心状態だったヘリヤは理解する。


もしかしてこの少年少女は、自分がこれまでに襲った商船にいた子どもたちではないのかと。


そこから導き出される答えは一つだ。


つまりヘリヤは命令とはいえ、積み荷だけでなく子どもたちまでさらい、どこかへ売り飛ばそうとしていたのだ。


「……う、嘘だ。ソフベルディさんがこんなことさせるはずない……。だってあの人は……奴隷だったボクたちと一緒に未来をつかもうって言ってくれた人で……」


「あぁ~見ちまったか」


背後から声が聞こえ、振り向けばそこにソフベルディが立っていた。


さらに彼は部下まで引き連れており、全員がその手に刃物や棍棒などの武器を手にしている。


「ソフベルディさん!? この子たちはなにッ!? なんでこんなとこに閉じ込められてるの!? こ、これじゃまるで――ッ!」


「お前が想像している通りだよ。ここは貿易を生業とするグリンヌークだ。売れないもんなんて存在しねぇ。それがたとえ人間でもな。いや、むしろ喜んで買う連中のほうが多いくれぇだ」


「なんで……? ソフベルディさんはボクらみたいな奴隷に手を差し伸べてくれたのに……なんでこんなことするの!?」


ヘリヤは訴えかけるように叫んだ。


その瞳は涙で潤んでおり、今にも滝のように流れそうだった。


彼女は疑問を持ちながらも、どこかでまだ信じていた。


いや、実際には信じていたかったと言ったほうが正しいだろう。


ソフベルディが、自分たちのような居場所のない者たちを助けてくれる救世主なのだと。


だが、そんなことはなく、ヘリヤの恩人は人身売買にも手を出す男だった。


彼女がもっとも嫌悪する人間は、人から尊厳を奪い、その命をもてあそぶ者だ。


それがずっと恩人だと思っていた男がそうだったと知った今――。


ヘリヤの絶望は言葉では表せないだろう。


「人攫いなんてやらせて……。よくも……よくもボクたちを騙したなぁぁぁッ!」


吠えたヘリヤは泣きながら全身に魔力をまとった。

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