第24話 遭遇
しばらく部屋でぼんやりしてみたものの、むしろ状態が悪化していくと感じたエイリーナは、宿を出て散歩することにした。
すでにお昼は過ぎているというのに、町はまだ賑わっている。
エイリーナは気持ちを切り替えるために、故郷のことを考えていた。
それは、このグリンヌークの活気をイスランにももたらしたいという思いだった。
ずらりと並んだ屋台を横目で見ながら、エイリーナは島の購入後のことをどうしようかと思いを巡らせる。
まだ叶ってもいない夢の後のことだが、気持ちを切り替えるのには、楽しいことを考えるのが一番だ。
「屋台かぁ……。そうなると、何かイスランの目玉になりそうなものを置きたいよね……。島に来た人がビックリしちゃうようなヤツ……」
偶然通りかかったいくつかの屋台には、アザラシの皮製品やトナカイの角、セイウチの牙などで作られた彫刻があった。
エイリーナは屋台の店主が客に向かって叫ぶ声を聞き、それらがグリーンヌークの名物なのだということを知った。
ならば自分の故郷の名物はなんだろうと、彼女は他国にはないイスランならではのものを思い浮かべる。
「やっぱり羊かな? イスランの羊は大自然の中で自由に暮らしてるから、肉とか毛皮、乳製品も、他の国よりも質がいいんだよね。あッ、あと溶岩塩とかもめずらしいかも」
やはり好きなことを考えていると変わるのか。
エイリーナはブツブツと独り言を口にしながら、いつの間にか笑みを取り戻していた。
いつもの覇気にあふれた彼女の表情だ。
とはいっても、その考えたことが役立つのはまだまだ先――というか、叶うかもわからない夢の後の話なのだが……。
エイリーナは、ショーズヒルドの教育や早くに両親を亡くしていることもあって、年齢のわりにかなり大人びている。
それと、若くして機械工房ロイザヘルズの代表になっているのもあって、少女とは思えないほど対話の技術も
だが、やはりこういうところはまだまだ子どもである。
いや、むしろまだそういう幼い妄想ができることは、彼女にとって喜ばしいことかもしれない。
なぜならば、こうした想像力がエイリーナを突き動かす原動力になっているのだから。
もし彼女が大人びているだけの子どもだったら、いくら故郷のためとはいえ、ロンディッシュやスヴォルド商会を相手に命懸けの行動など起さなかっただろう。
ある意味ここまでの行動力は、幼いが故の無謀さと成人した者の思考を学んでこそのものである。
これもひとえにショーズヒルドの教育の賜物だ。
そんな風に妄想をふくらませていたエイリーナが、ふと前を見ると、見覚えのある人物が歩いているのに気がつく。
「あれは……船を襲っていた子!?」
見覚えのある人物とは、グリンヌーク到着前に出くわした海賊の一人――魔法のような不思議な力を使う少女だった。
服は黒ずくめではなかったが、あの特徴的な顔が隠れるほど長い前髪は見間違えようがない。
海賊少女は黒い髪をなびかせながら、傍にいる小さい子どもたちと屋台にある食べものを眺めていた。
時間的に遅めの昼食を買いに来たといったところだろう。
「ちょっとあなた!こんなところで何してるの!?」
「お前は!?」
海賊少女はエイリーナの姿に驚愕すると、傍にいた子どもたちを自分の背後に隠した。
そして激しく睨み返し、身構えた。
「どうしたの、ヘリヤ?」
「この赤毛のお姉ちゃんは誰?」
「ヘリヤのお友だち?」
傍にいた子どもたちは、海賊少女の態度に小首を傾げていた。
エイリーナは訳がわからないままだったが、とりあえず呼吸を整えると、彼女たちに向かって声をかける。
「驚かせちゃってごめんね。ちょっとそこの子に訊きたいことがあって」
「……こんな町中でやろうっていうの?」
「違う違う! そんなつもりはないよ!ただ、ちょっとあなたと話がしたいだけだって」
相手に敵意がないと判断した海賊少女は、子どもたちを先に帰すと、ついて来るように言った。
ひとまず話をしてくれると思い、エイリーナはその後をついていった。
二人は屋台が並ぶ大通りから裏道へと入り、そこから人気のない路地裏へと出た。
「それでなに?ボクになんの用があるの?」
「どうして海賊なんてやってるの?」
「なんでお前に教えなきゃいけないんだ」
明らかに話し合いをする態度ではなかった相手に、エイリーナは諦めずに言葉を続ける。
「まあ、そうだけど。そういえば名前をまだ言ってなかったね。アタシはエイリーナ。イスランにある機械工房ロイザヘルズのエイリーナだよ」
「……ボクはヘリヤ。はい、もういいでしょ。じゃあね」
背を向けて歩き出したヘリヤ。
エイリーナはそんな彼女の背中に、言葉をぶつける。
「船で会ったとき、あなたは生きるために、未来のために頑張ってるんだって言ってたよね!? でも、今のやり方じゃ未来なんてないよ!」
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