第18話 魔鯨退治
――それぞれの役割を決め、エイリーナたちは地下倉庫を出た。
それを見ていた連絡船の船員や乗客たちは、彼女らのやろうとしていることを自殺行為だと思っていた。
中には、必死の形相で止めてくる人間まで現れた。
おそらくは、エイリーナがまだ子どもだったいうこともあったのだろう。
空を飛ぶクジラなどという現実ではあり得ない化け物の相手など、まだ幼さが残る少女にさせたくなかったのだ。
だがエイリーナは止めてくる人間や、地下倉庫で震えている船員、乗客たちに向かってこう言った。
「大丈夫ですよ。アタシたちは外にいる
まるで野良犬でも追い払いに出かけるくらいの気安さで言ったエイリーナに、その場の誰もが開いた口が塞がらなくなった。
それも当然だ。
この場にいる誰も、二百年前に起きた魔法大戦のときにはもちろん生きてはいないが。
魔獣の存在とその恐ろしさは、歴史から学び知っている。
それが実際に目の前に現れたことで、もはや自分たちは助からないとさえ思っているのだ。
だが突然、魔獣を倒すと言い出した赤毛の少女は、怯えるどころかあの化け物と戦うと言い、さらにはその後のことまで考えていた。
これには誰もが言葉を失ってしまっても仕方がない。
その様子を見ていたショーズヒルドは、頭を抱えながら深いため息をついた。
「お嬢……。もう少し自分の発言が相手にどう受け止められるかを考えてから口にしてください。皆さん固まってしまっています」
「えッ? アタシ、そんなにおかしなこと言ったかな?」
何もわかっていないエイリーナの返事を聞き、ショーズヒルドはまたもため息をつく。
一方でアウスゲイルはというと、口元を右手で覆って笑いを
「別におかしくはないですが……。まあ、そういうところがお嬢の長所でもありますからね。さあ、参りましょう」
「よくわかんないけど、うん、行こう。魔鯨退治だ」
エイリーナたちは外へ出るための階段を上がり、静かに外へと出た。
地下倉庫のある施設の空では、魔鯨が獲物を探すように飛び回っている姿があった。
これから行う作戦は敵を引きつけ、この島――マルクスンドの中心にある火口へおびき寄せて仕留めるというものだ。
そのため、アウスゲイルが自ら進んで囮役を買って出た。
彼は早速、魔鯨の注意を引こうと身を乗り出したが、ショーズヒルドがサッと手で制す。
「そんなバカ正直に出ていったら、とても火口へたどり着くまで持ちませんよ。あなたはケガ人なんですから」
「わかってんよ、んなことたぁ。だが、そうは言っても他に方法がねぇだろ。一度あいつに姿を見せねぇと、追いかけて来ないじゃねぇか?」
アウスゲイルは、いきなり止めてきたショーズヒルドにそう言い返した。
遠くから注意を引こうにも、こちらには弓矢も銃もないのだ。
手持ちの飛び道具といえば、ショーズヒルドの義手に仕込んである大砲と、武器にはならないが、アウスゲイルがスヴォルド商会の幹部であるカルドゥールに連絡するための信号弾がある。
しかし、エイリーナがエレメンタルの魔法を失敗する可能性があるので、残り一発しか撃てない大砲はできるだけ温存しておきたい。
信号弾のほうは、発射したらカルドゥールが現れる可能性があるので、できるなら撃たないほうがいいだろう。
そうなると、多少の危険を伴っても、魔鯨の前に姿をさらす必要がある。
「いえ、飛び道具ならあります」
「まだなんか隠し武器を持ってたのかよ!?」
「いいから魔鯨がこちらを向いたら、あなたは火口へと走ってください」
ショーズヒルドはそう言うと、背負っていた槍を手に取った。
そして、できるだけ物音を立てずに助走を始めると、腕を大きく振りかぶり、タイミングを見計らって槍を放った。
手首を使って回転を加えた槍は、凄まじい勢いで魔鯨の背中へと突き刺さった。
「ブオォォォンッ!?」
それを見たアウスゲイルは建物の陰から飛び出し、島の中心へと走り出した。
するとクジラの魔獣は、奴が犯人かと言わんばかりに彼のことを追いかけた。
「ハッハァ! 大したもんだぜ、あの教育係! まさか
アウスゲイルは大声で笑いながら駆けていく。
その背後からは、槍が突き刺さった魔鯨が空から地面すれすれに近づき、怒りの表情で向かってきていた。
魔鯨の怒りの様子から、ショーズヒルドの槍がかなり深く突き刺さったのがわかる。
「さあ、お嬢、私たちも急ぎましょう」
「オッケー! アウスゲイルが頑張ってくれてるんだ。アタシも絶対にエレメンタルの魔法を成功させなきゃ!」
そしてエイリーナとショーズヒルドも、彼らの後を追いかける。
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