第17話 背負うのではなく一緒に

エイリーナはアウスゲイルを見つめながら、彼の傍へと近寄っていく。


そんな彼女の態度に、アウスゲイルは思わずたじろいてしまっていた。


「その話ってあなたのことでしょ? まだ終わってなんかいないよ。だってあなたはまだ生きてる。あの二人が、あなたを生かしてくれたから」


「な……ッ!?」


あの二人――。


エイリーナの言葉で、アウスゲイルは仲間のことを思い出していた。


スツトゥルとラングルの姿が脳裏に浮かぶ。


そして、彼らは笑みを浮かべていた。


「続けようよ。あなたのいう居場所を作る夢。ここで止めるなんてもったいない、そんなすっごいステキなこと」


「……お前は、どうしてそんなこと言い出すんだよ……」


「そうだ! ねえ、そのあなたのいう居場所ってイスランじゃダメなのかな?」


「はぁ?」


呆気に取られたアウスゲイルなど気にせず、エイリーナは話し続けた。


アウスゲイルの夢である居場所をイスランで作れないか?


もしそれが可能なら、互いの夢を叶えることになると。


「今ウチはね、えーとアタシの工房ロイザヘルズの話なんだけど、一緒に頑張ってくれる人を大募集中なんだ! あなたが働いていた組織ってたしかスヴォルド商会とか言ったっけ? もう戻るつもりはないんでしょ? だったらアタシたちの仲間になってよ!」


「マジで言ってんのか……? お前、俺が何をしたのか忘れたのかよ……?」


「あんなにステキな夢を聞かされたらそんなの小さなことだよ! あなたの夢、絶対に叶えよう!」


「……俺の夢まで背負うつもりか?」


「違う違う! 一緒に頑張るんだ! イスランを良くしてくれるんなら、あなたが島の王さまになってもいいよ!」


アウスゲイルは言葉を失っていた。


いや、そもそもエイリーナと出会ってからの彼は驚かされてばかりだった。


本音ではとてつもなく愚かな子どもと思いつつも、この少女とならば今度こそ夢を叶えられるかもしれない。


――と、そんな気持ちになっていく自分に気がつく。


「……あの女が命を預けるのもうなづけるな」


「え?」


「アウスゲイル·ビエーレ、それが俺の名だ。アウスゲイルと呼んでくれ」


「アタシの名前はエイリーナ。エイリーナって呼んでね」


アウスゲイルが差し出した右手を、エイリーナはニッコリと微笑んで握り返す。


「それと、ボスはお前しかいねぇだろ。いろんなもんを拾ってもらった身だ。俺の夢も命も、すべてお前に預ける」


「うん。一緒に夢を叶えよう、アウスゲイル!」


ガッチリと握手を交わす二人。


こうしてすべてを失ったアウスゲイルだったが、エイリーナによって再び夢に向かって走り出すのだった。


――それから二人はショーズヒルドを呼び、彼女と魔鯨まげいを倒す作戦を話し合った。


エイリーナの考えた作戦はこうだ。


まずこの島――マルクスンドの中心にある山の火口に魔鯨をおびき寄せ、身動きができなくなったところを攻撃する。


この作戦の意図するところは、たとえ空を自由に飛び回る敵でも、火口という深い穴の中では動きが制限されるからだ。


あとは頭上から飛びかかり、魔鯨の頭を集中して狙う。


いくら魔法大戦時に兵器として使われていた化け物であっても生き物だ。


脳を攻撃すれば仕留められる。


「では、魔鯨を火口まで引きつけるおとりになる人間が必要になりますね」


「それはアタシがやるよ。こういうのは言い出しっぺが責任を持ってやるもんでしょ」


「そんな危険な役をお嬢に任せられません。それに先ほど魔鯨の攻撃でおケガをなさっているでしょう。私がやります」


「うーん、でもアタシはまだエレメンタルを上手く扱えないし。もし魔法が失敗したらと考えると、ショーズヒルドのほうが攻撃役に適任だと思うんだけどなぁ」


エイリーナとショーズヒルドが、どちらが魔鯨を引きつける役をするかを揉めていた。


あくまで理屈で説明し続けるエイリーナに対し、ショーズヒルドは感情で反論し続けているといった状態だ。


「それならば問題ないです。私も火口までおびき寄せたら、魔鯨に攻撃を始めるので」


「でもショーズヒルドも教えてくれたじゃない。敵を倒すには位置取りが大事だって。確実に魔鯨を倒すなら、やっぱりアタシが囮になったほうがいいよ」


「そんなことは絶対にダメです! いくらお嬢でも今回は譲りません!」


そんな二人のやり取りがしばらく続くと、アウスゲイルが口を開いた。


「おいおいお前ら、もうその辺にしとけよ。大体その役は、誰がどう見ても俺が適任だろ」


アウスゲイルは二人を止めて、囮なら自分がやると言い出した。


たしかに彼が敵を引きつける役をやれば、エイリーナとショーズヒルドは二人で攻撃できるようになり、魔鯨を倒せる確率が格段に上がる。


作戦としては理想的な形になるだろう。


だが――。


「ダメだよ、そんなの!」


エイリーナはすぐに反対した。


それはアウスゲイルはケガの具合が酷く、囮役などすれば次こそ魔鯨に殺されてしまうと、彼女は思ったからだ。


しかし、ショーズヒルドは赤毛の少女とは違う。


むしろよく言ってくれたとでも言わんばかりに、その表情を緩ませていた。


「いえお嬢、この男に任せましょう」


「何を言うのショーズヒルド!? アウスゲイルはさっき死にかけたばかりなんだよ!?」


「本人が言い出したんです。それだけ動けるということでしょう。ですよね、アウスゲイル·ビエーレ」


ショーズヒルドがにらむように見つめながら言うと、アウスゲイルはコクッとうなづいた。


「俺のすべてはエイリーナに預けたんだ。囮役くらいやってやるさ」

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