第14話 対面
ショーズヒルドが出て行ってから数分も経たずにドアが開いた。
アウスゲイルが視線を向けると、そこには赤毛の少女――エイリーナが立っていた。
そして、彼女の後ろには先ほど食べ物を持ってきたショーズヒルドの姿が見える。
「気がついたんだね。よかったぁ」
「……改めて見ると、やっぱガキだな」
笑顔で声をかけてきたエイリーナに、アウスゲイルは吐き捨てるように言った。
彼の態度が気に入らなかったのか。
ショーズヒルドが身を乗り出そうと動いたが、エイリーナはそんな彼女を慌てて止めている。
「どういうことだ? なんで俺を助けたんだ」
「なんでって、危なかったからだよ。あの二人組はもう死んじゃってたけど、でもショーズヒルドがここへ運んでくれているよ」
「危なかったから……だと? 俺はお前を殺そうとしたんだぞ!? それなのに、そんな理由で助けたのか!?」
突然、声を張り上げたアウスゲイルに、エイリーナは笑みを崩さずに返事をする。
「そうだけど……。ねえ、ショーズヒルド。アタシ、何かおかしなこと言ったかな? この人、なんか怒ってるみたいだけど」
「いえ、お嬢はとても立派なことをしました。おかしいのはこの礼儀を知らない男です」
小首を傾げたエイリーナに訊ねられたショーズヒルドは、アウスゲイルを睨みながら答えた。
対するアウスゲイルは、そんな彼女から目をそらすことなく、互いに視線をぶつけ合っている。
今にも取っ組み合いでも始めそうな雰囲気だ。
そんな空気の中、エイリーナはコホンと咳払いすると、アウスゲイルに向かって言う。
「もうちょっと詳しく話すと、アタシたちの上に現れた飛空艇から喋ってる人がいたでしょ。それを聞いてあなたたちが仲間に見捨てられたんだなって思って、放っておけなかったの」
「惨めな奴らを放っておけなかったってわけだ……」
アウスゲイルは、冷たい笑みを浮かべながら
それはエイリーナのことを小馬鹿にするというよりも、情けなさのあまり、自分のことを笑っているようだった。
「お優しいことで、そりゃとても立派なことだよな。……甘いガキだ。
「やってごらんなさい。そんな真似をすれば、あなたの拳がお嬢に届く前に、私の蹴りが先にあなたの顔面を粉砕してあげますよ」
「おっかねぇ教育係がいたもんだな。安心しな。そんな気力はどこにも残っちゃいねぇよ」
冷笑を浮かべたままアウスゲイルは、体を引きずって移動し、壁へと背を預けた。
「仲間を守れず、組織からも見捨てられた……。もうお前たちと戦う理由なんてねぇ……。好きなようにしろ……」
「じゃあお言葉に甘えて、いろいろ教えてもらっていいかな?」
「ああ、知りたいことがあるんならなんでも喋ってやる。だが下っ端の俺が知ってることなんてたかが知れてるけどな」
エイリーナはアウスゲイルに多くのことを訊ねた。
まずは彼らの組織のことと、錆びた剣を持ってイスランに現れたスネービョルンとの関係。
そして、どうして錆びた剣に不思議な力があるのか、その正体はと。
訊ねられたアウスゲイルは、知っている限りのことを答えた。
まず組織の名がスヴォルド商会だということを話し、スネービョルンは組織が手に入れるはずだった錆びた剣をすり替え、追われていたことを。
「そのスネービョルンって男のことは俺もよくは知らねぇ。ただ上から聞いた話だと、どっかの国の戦士だったとか、そんなんだ」
「そっか。じゃあ、錆びた剣のことは? なんか魔法が使えたんだけど、この剣」
「そいつはエレメンタルとかいう魔法大戦以前からある魔導具ってもんらしい。組織はそいつを手に入れて何かしようとしていたらしいが、それ以上はわからねぇ。実際に組織の連中もスネービョルンって奴もそいつで魔法は使えなかったみてぇだがな」
「へー、この剣ってエレメンタルっていうんだ。たしか元素のような基本的なものとか自然界に存在する原始的な力とか、そんな意味の名前だったよね。うん、いいね、その名前。特に自然の原始的な力ってところが、アタシ気に入っちゃった」
エイリーナは腰にあった錆びた剣を手に取って、その外観を眺めた。
かつて鋭い切れ味を持っていたであろう刃は、風雨や時間の経過によってなのか凄まじく傷んでいる。
金属製の柄にも錆びや傷が見られ、もし店に売っても二束三文にしかならないだろう。
だが、この錆びた剣――エレメンタルの価値を知っているエイリーナにとっては、自分の夢を叶えることができる大事なものだ。
ただ彼女の場合、それが子どもらしい魔法への憧れではなく、故郷イスランを買い取るための道具というのがなんともおかしい。
「ずいぶん余裕だな。外には魔獣がいて、どこへも行けやしねぇのに」
「ああ、そうだったね。で、あの魔獣、魔鯨だっけ? なんであなたの仲間はあんなのを島に放ったの? そんなことをしたらエレメンタルだって壊れちゃうかもしれないのに」
状況が最悪だということを伝えても、エイリーナは表情一つ変えなかった。
アウスゲイルはそんな彼女の態度に、苛立ちながらも答える。
「んなこたぁ知らねぇよ。たぶんカルドゥールの野郎は、魔獣でもその剣を破壊できないと知ってて撤退したんだろ。奴はこの島にいる全員が死んだ後にでも、ゆっくり剣を回収するつもりなんだ」
「カルドゥールって誰?」
「飛空艇から喋ってた野郎だ。スヴォルド商会の幹部で、魔導具の開発部門の責任者をやってる人の心なんて持たねぇ冷酷な男さ。きっとカルドゥールは魔法についての知識があるから、蛇の道は蛇ってことでその剣の回収を上から指示されたんだろうよ」
「ふーん。じゃあ、魔鯨を倒してもずっと追いかけてきそうだね、そのカルドゥールって人。ありがとう、あなたのおかげで知りたかったことがそれとなくわかったよ」
エイリーナは礼を言うと、錆びた剣を腰に戻した。
それから彼女は、ショーズヒルドにアウスゲイルのことを世話してあげてと頼み、部屋を出ていく。
ショーズヒルドは、去っていくエイリーナの背中に頭を下げ、一方でアウスゲイルは両目を見開いていた。
「あのガキ……マジで魔獣を倒すつもりかよ……?」
そう独り言を呟いていたアウスゲイルを見たショーズヒルドは、思わずクスッと微笑んでしまった。
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