第6話 剣を狙う者たち
その日の夜に、エイリーナとショーズヒルドは具体的な案を出し合った。
まず大前提としてあるのは、錆びた剣を売って大金を手に入れ、故郷イスランをロンディッシュから買い取るということだ。
そのためには、島をまるまる買える大金持ちを探す必要がある。
もちろんイスランにそんな人物はいないので、海を渡って他国へ行く必要があった。
「ではここで問題ですよ、お嬢。このイスランに一番近い国の名前をお答えください」
「はい! それはグリンヌークです!」
「お見事、正解です」
「やった!」
エイリーナがショーズヒルドの出した問題の答えを言い当て、その小さな両手を思いっきり高くあげていた。
彼女が口にしたグリンヌークとは、口にした通りイスランの側にある国である。
当然イスランと同じくロンディッシュに管理されているが、貿易立国として独自の経済的基盤を持つ国でもあり、そんなところならば大金持ちの一人や二人いてもおかしくない。
さらにショーズヒルドの話では、グリンヌーク周辺の海では海賊が多いらしいが、どういうわけか治安は守られているようだ。
「じゃあ、最初の目的地は決まったね」
「ええ、グリンヌークなら島から出ている連絡船で行けますので、難しいことはないでしょう。問題はむしろ到着してからになります」
そう――。
ショーズヒルドが言うように、一番の問題は魔法の剣を買ってくれる人物がいるかどうかだ。
今から二百年前に起きた魔法大戦後――。
魔法をタブー視する風潮がロンディッシュによって築き上げられているため、魔法の知識や関わりがあるだけで犯罪者として扱われている。
大金持ちならばグリンヌークにいると思われるが、そこまでの危険を冒してまで魔法の力を欲しがる者がいるのかは疑問だ。
たとえいたとしても、それはきっとエイリーナに剣を渡した父の友人だった男――スネービョルンを殺そうとした組織のような凶悪な連中だけだろう。
エイリーナはそんな連中に魔法の剣を売らないことを初めから決めていたのもあって、目標達成の難易度はさらに上がっている。
ショーズヒルドは、そんな彼女のことを誇りに思っていた。
自分さえ良ければ他人なんてどうでもいいという人間が多い世の中で、エイリーナはとても優しい人間に育ってくれた。
まあ、最初から故郷のために、世界を管理する武力組織から島を買い取ろうと考えるような子だ。
自分だけが得をすればいいなどと考えないことは、そのことからでもわかる。
「大丈夫、なんとかなるよ。それにショーズヒルドもいつも言ってるでしょ? まずは始めることが大事だって、何かあってもそれを解決しながらやればいいって」
「そうですね。では、早速旅の準備をしましょう」
「うん、目指すはグリンヌーク!」
かなり大雑把ではあるものの、こうしてエイリーナとショーズヒルドは、まず貿易立国であるグリンヌークへ向かうことにした。
――エイリーナたちが島を出る準備を始めた頃。
イスランの町を襲った二人組の男は、とある場所にいた。
それはイスラン周辺、しかも空の上――飛空艇の甲板だ。
「すまねぇ、兄貴。しくじっちまった」
二人組のうち背の低いほうが、目の前にいる男に頭を下げていた
その隣では背の高いほうが申し訳なさそうに俯いている。
「失敗は誰にでもある! 俺が怒ってんのは、テメェらが町に火をつけたことだ。いつも言ってるだろうが! 関係ねぇ奴らは巻き込むなってよ!」
二人組のリーダーであろう金色の短髪の男は、その青い瞳で睨むように怒鳴っていた。
その後ろでは、灰色のコートを着た紫色の髪をオールバックにした男が、手にしたシルクハットを被り直している。
「いつまでかかるんだ? アウスゲイル·ビエーレ」
シルクハットを被った男の言葉に、金色の短髪の男は顔を強張らせて近寄る。
彼らは見た目からして、年齢は同じくらい。
二十代の中盤といったところだ。
「もう少しだけ待ってくれよ、カルドゥールさん! 次こそは剣を取ってくるから!」
「アウスゲイル……」
カルドゥールと呼ばれたシルクハットの男は、金色の短髪の男の名を口にすると、彼に詰め寄った。
睨まれたアウスゲイルは、ただ歯を食いしばって見つめ返すだけだ。
冷たいブラウンの瞳で睨みながら、カルドゥールは言葉を続ける。
「さっさと手柄を得て出世したいんだろう? だが、このままじゃお前たちに任せた俺の責任にされる」
「も、問題ねぇよ。あんたに迷惑はかけねぇ」
「だったら結果で示せ。それが仕事というものだ」
「く……ッ!? おい、スツトゥル、ラングル! 来い、今すぐ出るぞ! 次こそ剣を取ってくるんだ!」
アウスゲイルは二人組の男を引き連れ、カルドゥールの前から去っていく。
そして、船内へと入って武器を手に取りながら、誰に言うでもなく呟いた。
「ここで決めなきゃ上にいけねぇ……。俺の……俺たちの夢のためにも、絶対にしくじるわけにはいかねぇんだ……」
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