第3話 輝く錆びた剣

現れたエイリーナの姿を見た二人組は首を傾げていたが、彼女が手に持っているものに気がつくと近寄ってきた。


その態度から想像できるが、二人組が探していたのはスネービョルンであり、その目的はおそらく錆びた剣だと理解できる。


「おいそこの赤毛のお前、その剣をどこで手に入れた? そいつは髭の男が持っていたもんだろ」


二人組の一人――短髪のブラウンヘアをした背の低い男がエイリーナに言った。


男の相棒である長い黒をした背の高い男が、それに合わせるかのように持っていた長剣を握り直していた。


そして、背の低い男もまた背中にあった二本の剣を手にし、エイリーナとの距離をさらに詰めてくる。


大人の男二人が武器を持って近寄ってきたら、エイリーナくらいの年齢の少女なら怖がってしまうところだが、彼女は違った。


錆びた剣を握り込み、近寄ってきた二人組に飛びかかる。


「がはッ!?」


「スツトゥル!? このガキ、いきなりなにしやがる!」


「うるさい! 今すぐイスランから出ていけ! こっちはすぐにでも火を消したいんだよ!」


エイリーナはまず背の低いほうに斬りかかった。


男は彼女の攻撃を持っていた二本の剣で受けたものの耐えきれず、側にあった建物へと叩きつけられ、気を失っていた。


まだ十歳になったばかりの少女に仲間を倒されたことで、背の高いほうの男は動揺していたが、彼はすぐに目の前にいるエイリーナへと長剣を振り落とす。


「死ね、このガキ!」


「だからさっさと消えろって言ってるでしょ! 話を聞け、バカァ!」


だがエイリーナは男の側面へと回り込み、錆びた剣を打ち返した。


それが胴体を振り抜き、背の高い男は体をくの字に曲げたまま、気を失っている仲間のもとへと吹き飛ばされていった。


もしエイリーナが使った剣が錆びたものではなく、磨かれた刃であったならば、確実に上半身と下半身が切り離されていたかと思うほどの威力だ。


敵を倒したエイリーナは、二人組のことなど気にせずに周囲を眺めていた。


激しい炎が次から次へと建物に燃え移っている。


「どうしよう……このままじゃみんな燃えちゃう……。ヤダよぉ、そんなの……みんな町にいれなくなっちゃうよぉ……」


火をつけた者こそ倒したが、肝心の火事を止められない。


今からロンディッシュがいる施設まで助けを求めに行こうとも考えたが、ショーズヒルドと話していたように、彼らはイスランのことには関わらない。


せいぜい事が済み次第もう二度と同じことが起きないようにすると口にしながらも、結局は何もせずに忘れるのだ。


「諦めちゃダメ……。アタシが、アタシがなんとかしなきゃ!」


錆びた剣を握りしめながら、エイリーナは考える。


彼女の頭に浮かんだのは、以前にショーズヒルドから教えてもらった火事の消火方法だった。


その一つはバケツリレー。


数人、数十人が協力してバケツに水を汲み、火元までリレー形式で水を運んでかけるものだ。


だが、すでに住民たちは避難してしまっているため、この方法は不可能である。


他には手動ポンプ――手動で操作するポンプを使って水を噴射する方法。


これにより効率的に水を火元に届けることができるが、もちろんそんな設備がイスランの町にあるはずもない。


「となると、やっぱりあれしかない!」


エイリーナは錆びた剣を手にし、まだ火のついていない木々を切り倒し始めた。


切れ味が悪いせいで狙い通りにはいかなかったが、彼女は腕力で無理やりに切り倒していく。


これは破壊消防といい、火事の延焼を防ぐために、火元周辺の建物を意図的に壊す方法だ。


これにより、火の広がりを食い止めることができるのだが……。


「くッ! やっぱり家のほうは無理か!」


子どもながら凄まじい腕力を持っているエイリーナであっても、木や石、レンガで造られた建物をすぐに破壊することはできなかった。


いや、むしろよく木を切り倒したといえる。


歯を食いしばるエイリーナ。


そんな中、煙と炎が空を覆い、通りにいる彼女の周りも囲み始めていた。


だがエイリーナは、それでもまだ諦めなかった。


見つけた井戸へと駆け出し、水を汲んでは側にある建物へとかけていく。


しかしたかが桶で汲んだ程度の水量では、いくら何度かけてもすぐに蒸発してしまう。


やる前からわかっていたが、当然、焼け石に水だった。


火は勢いを増し、もはやイスランの町はこのまま燃え尽きてしまうと思われた。


「もっと、もっと水がいる……。島にある川や海みたいな感じで、町に水を流せれば……」


井戸の水を汲んでいたエイリーナは、その手を止めて、火の海へと化した町中に立ち尽くしていた。


目に入る光景を見て、彼女は島にある広大な大自然を思い出す。


豊かな水源を誇るイスランの風景を。


「えッなに!? 剣が光ってる!?」


エイリーナが故郷の大自然を脳裏に浮かべたとき――。


突然、手にしていた錆びた剣が輝き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

機械工房のお嬢と魔法の剣~剣を売って故郷を買います~ コラム @oto_no_oto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画