第34話 目撃者①同室のメイド

「はじめまして……」


 王サマに城の一室をあてがわれて、目撃者の話を聞くことになった。おどおどした様子で入ってきたのは、城の洗濯係のメイドだという女の子。ツインテールの赤毛の髪にそばかすだらけだけど、かわいい顔。男心をくすぐる、庇護欲をそそる顔っていうべきか……ごくり。


(ミシェル! 獣のような目でメイドを見るな! 怯えているだろう)


(どちらかというと、あたしの美貌に圧倒されてない? ちょっとだけ、ちょっとだけだから、あの子に触ってきていい?)


(お前はセクハラオヤジか! いいわけないだろう!)


(いいじゃん! 女同士だし、減るもんじゃないし)


(阿呆娘ー!!!)


「お仕事でお忙しいところ、ごめんなさいね? どうぞ、おかけになって」


 お父様パパとあたしでメイドチャン争奪戦をしていたら、お母様ママがメイドチャンに声をかけた。


(な!? お父様は別に争奪戦なんてしていないぞ!? お父様はフライア一筋だ!)


「あなた……」


(きも)


(ぐすん)


 お父様パパの愛の告白を受け流したお母様ママに促され、お父様パパがメモを取る準備をする。


「女性同士の方がいいでしょう? わたくしがいろいろ聞かせていただくわね?」


「は、はい……」


 あー小刻みに震えちゃってかわいい。こんなかわいい子がけだものの巣窟、王宮でメイドしてて大丈夫なん? 手籠めにされね?


(ミシェル……お前は王宮をけだものの巣窟だなんて、不敬だぞ? それにどこでそんなこと覚えてくるのか……)


お父様パパの部屋の戸棚の引き出し上から三段目の箱を裏返すと……)


(うわぁぁぁぁぁ! お前、なんてものを読んでいるのだ!?)


「あなた?」


(違う、違うんだ、フライア! 話を聞いてくれ!!!)


(なんてものを読んでいるんだ!? って……。お父様パパの愛読書じゃん。『王宮メイドの秘密』ってやつ、好きなんでしょ? きも)


(……お父様は、今日は戦力外となることを申告します)


お父様パパが戦力だったことって、あったっけ?)


(ぐすん)


 

「お待たせして、ごめんなさいね? ちょっと主人が使い物にならなさそうなのだけれど……続けさせていただきます。いつどこで何を見たか、聞いてもいいかしら?」


「は、はい。あれはひと月前、わたしが自室に戻った夜のことです……」








「あー、今日も疲れた」


 そう言って自室のドアを開きました。すると、そこに彼女がいました。……え、ピンク髪のメイドと呼んでくれって? それって死者への冒涜じゃ……。いえ、では、ピンク髪のメイドと呼びます。

 わたしとあの子は同室だったんです。だからなんでも秘密を話していました。ここだけの話……あ、ミシェル様。そのぉ、聞かなかったことにしていただけます? あの子、殿下と恋人同士だったんです。メイドには持てないアクセサリーも持ってましたし。


「それは、ネックレス……とかですか?」


「よくわかりましたね。黒真珠のネックレス。あんな大粒の黒真珠、王族じゃないと手に入れられないじゃないですか? だから、あの子が殿下の恋人だと私も信じました」


 それで、ピンク髪のメイドは、ちらりとこちらを見て、引き出しを指さし微笑んだと思ったらスーッと消えていきました。だから、わたし、彼女の幽霊がいるんだと思って、叫び声をあげました。


「その時間、あなたの叫び声を聞いたメイドたちが多くいて、騒ぎになってますね」


「だって、幽霊ですよ? 叫ぶに決まっているじゃないですか!」


「そうですね。何かおかしなことはありましたか?」


「はい。彼女の指さしたわたしの引き出しに、黒真珠のネックレスが入ってました」







 そう言って、メイドチャンが差し出したネックレスは、ピンク髪のメイドのものと同じものに見えた。


「そちらは……」


「身に覚えはありませんが、彼女からの贈り物なのかなと思って……。一応、報告したら、わたしが持っていていいことになってます」


 そう言って、ネックレスを大切そうに見つめたメイドチャン。


「そのネックレス、結構使い込まれていますね」


「はい。あの夜からずっと身に着けていますから。わたしが目撃したことは、以上です。……あれ以来、城内でピンク髪のメイドの幽霊が目撃されていて、少し怖いですね」







 最後にそう微笑んで、メイドチャンは出て行った。……あの子の部屋ってどこ? 調べに行かない?



「ミシェル! あのメイドに近づくことを禁止するからな!?」

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