第10話 お父様とお母様との話し合い①

 無事?、あたしとお父様パパは帰宅した。


 お父様パパは疲れ切った様子で、お母様ママを呼んだ。そんなお父様パパの声を聞きつけて、ムサルトが花束を持ってやってきた。ありがたく受け取る。可愛いやつめ。次回は、つまみセレクションで頼むぞ。





「お帰りなさい。あなた。ミシェルちゃん。お話はいかがでしたか?」


 出迎えたお母様ママはどこか疲れていたから、あたしたちが出かけている間に何か調べてくれていたのだろう。


「あの公爵イケおじは悪いことしないと思う!」


「それは、ミシェルの主観だろうが! ただ、確かにとても立派なお方だった」


「そうなのね……あなた。お茶でも飲みながら、今までのお話を聞かせてくださる?」


 お母様ママにそう言われて、お父様パパとあたしは、食堂ダイニングルームへと向かった。









 鼻腔をくすぐる芳醇な香り……。


「今日はアールグレイだ!」


 自信満々に胸を張るあたしを、みんなが残念な物を見る目で見てきた。あれ? 違った?


「……記憶力はいいはずなのに、もったいないわ」


「マナー、文化、芸術、嗜好品……貴族女子として必要な物の知識が、こんなにも身につきにくいのはなぜだろうか……」


 ため息をつくお父様パパお母様ママ。あっちでは、かぶりを振るメイド。何この空気。まじ遺憾。……記憶はしているけど、匂いの記憶と書物で読んだ記憶が一致しないだけだもん。記憶はしてるもん! 家庭教師には褒められたんだから!



「ミシェル様。今日のお茶は、アッサムです。甘く華やかな香りがするでしょう? アールグレイは、ベルガモットの香りがする、こちらです。……ミシェル様は、うっかりなところまで可愛いな」


 そう言いながら、手早く紅茶を用意するムサルト。え、ムサルトってそんなことまでできたの? 有能じゃん!


「ムサルト、そんなこともできんの? まじ有能」


 あたしの笑顔でムサルトは固まって無効化した。あたしの信者がまた増えちゃったかな〜。





「……あのムサルトが、中身も全て知っている、あのムサルトが……この言動のミシェル阿呆娘に夢中になるとは……。王家に嫁に出してみるか? もしかしたら、あの王子殿下もこうなるかもしれないな」



 がちゃーん!


 お父様パパの言葉を聞いて、ムサルトは盛大に茶器を落とした。


「こら、ムサルト! ……旦那様、大変失礼いたしました」


 ムサルトのお父様パパである筆頭執事が慌ててムサルトの頭を下げさせるが、ムサルトの視線は必死にあたしに訴えかけてくる。捨てられた子犬みたい。まじウケる。可哀想だから、フォローしておくか。


「え、お父様パパ。あたしが王家に嫁入りして、自由に振る舞っていいの?」


「……お父様は、お母様の命とお父様の首は大切だと思う。前言撤回しよう。ムサルト。我がミシェル阿呆娘をよろしく頼むぞ」


「はっ!」



 真剣に悩んだお父様パパと、尻尾をブンブンと振っている犬のような勢いで跪いたムサルト。いいところに落ち着いたけど、あたし遺憾。








「で、国王陛下のあげた、容疑者の皆様とのお話は終わったのですよね? 事件当時、皆様はどちらにいらしたのかしら?」



 冷静に話を戻したお母様ママにつられて、咳払いをしたお父様パパは人払いをして、説明を始めた。




「国王陛下のお隣に、王妃様がいらしただろう? 陛下を挟んで反対側が側妃様のお席だ。会場である大広間の前方の人々の中心に、大臣がいらっしゃったそうだ。公爵は大広間前の廊下で休んでいらしたらしい。ただ、近くに会場警備の護衛騎士たちがいたとおっしゃっていた」


「公爵様はなぜお外にいらしたのでしょう? これから国王陛下たちのご挨拶の始まる時間でしたよね? ……裏どりをなさい」


 手をパンパンと叩いたお母様ママは、影に命じた。なにそれ、かっこいい! あたしもやりたい!


「……早く会場におつきになられたとおっしゃっていたから、お疲れになられたのではないか?」


「そうですか……。皆様、ピンクメイドが王妃様を刺した現場を見ていないのですよね? 王妃様が声を上げられるまで。なぜ、皆様気が付かなかったのでしょうか?」


「確かに! お母様ママのいう通り、王様と話してたあたしでさえも、王妃サマが倒れるまで気が付かなかった! 犯人として、逃げていくピンク頭を見たから気が付いただけで……刺した現場は見てない」


「それに、ピンクメイドは、手に血がついていたという理由で拘束されたのでしょう? 服は? 返り血がかかっていないのは、どうしてでしょう?」



 怒涛に飛び出すお母様ママからの疑問。お母様ママが何か言う度に小声でお父様パパがたしかに、そうだな、と呟いている。まじキモ。



「あの日、服に血がついていた人物は、自身の鼻血で血塗られた王子殿下と王妃殿下を助けたミシェルと宮廷治療師、ミシェルに触れたお父様くらいか……」


「それと、側妃様も血塗られたみたいな真っ赤なドレス着てたよね」


 あたしが思い出したように言うと、お父様パパがすごい勢いでこっちを見た。顔の動き、こわ。



「…………ミシェル、憶測で物を言うでないぞ?」

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