第50話 この世界でずっと

 俺たちが目覚めたのは、朝の光どころか、陽が空高く昇ってからだった。

 目覚めた時には体はさらりと綺麗になっていたけれど、服は何も着ていなかった。俺を抱きかかえたまま、ジードは目を閉じている。


「……ジード、おはよ」


 小さな声で言えば、キスが返ってきた。いつから起きてたの、と聞くと少し前からと答える。


「ユウが起きるのを待っていた。寝起きの可愛い顔を見たら、見せたいものがあるから」

「何?」

「この屋敷は一階に、広い厨房がある」

 

 ジードの言葉に目が丸くなった。

 

「厨房……」

「ユウを迎えに行こうと決めてから、考えたんだ。今までは年に半分も王都にはいないから、騎士団の寮で十分だった。でも、ユウには作りたいものがあるだろう? レトやスフェンに聞いて、広い厨房のある屋敷を探していたら、ちょうど王宮に近いここが売りに出た」

「……家まで買って、俺がこっちに戻らなかったら、どうするつもりだったんだよ?」

「戻らないことなんか、考えなかった」


 ジードが俺の手をぎゅっと握った。


「絶対、取り戻すと思っていたから。自分が無理だと思ったら、きっと何もできはしない」


 目の奥が熱くなって、必死で頷いた。


「すごく嬉しい。この厨房で最初の菓子はジードの為に作る」

「……楽しみだ」


 ここからまた、始めよう。

 大事な人たちの為に、一つずつ。心を込めてスイーツを作ろう。


 異世界で初めて作った菓子ピールは、ジードの役に立てたらと思った。ジードがいてくれたら俺は、この世界でずっと、何かを作り出すことが出来る。


「必要なものがあるなら、幾らでもってくる」

「……魔林から?」

「どこからでも、ユウの望むままに」


 真剣に呟く騎士に、思わず吹き出した。


「頼りにしてる」


 抱きついて、好きだよとキスをする。

 誰よりもイケメンな俺の騎士は、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。





 【騎士とスイーツ 完】


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【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました 尾高志咲 @sisa_0403

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