第27話 エイナル 初キスは便意に耐えながら

「キシェアアア!!!!!」


「邪魔すんなっての!」


 怒りのままに剣を振るう。スケルトンの膝から下が崩れて倒れる。


 まずは足を削って後衛のパルマの安全を確保しなければならない。1度に5体の相手をするのはこれが初めてだ。囲まれないような立ち回りをする必要がある。


 状況把握だ。武器有りが4体、今の1体は武器無しだった。さて次はどいつにしようか。


 剣が2、槍が1、杖が1。殺傷能力が高いのは剣と槍。間合いが広いのは槍。まずは槍を潰すべきか?


「あしっどらんす!」


 そうこうしているうちに剣持ちが1体、パルマによって攻撃された。呪文を唱える声がいつもより張っている。パルマも邪魔をされて怒っているようだ。魔石の回収を考慮しない酸の魔法で、骨は跡形もなくなった。魔石は回収できなくなったけれど、酸の水溜まりは有効利用できる。


「パルマっ!水たまりを間に挟むように立ち回って!大分楽が出来るはずだからっ!」


 パルマが頷いて指示に従ってくれた。これで余裕が出来た。私は槍持ちに向かう。


 スケルトン相手だとサナのお喋りが通用しないので、一方的に奇襲を成功させるのは難しい。だから初手を誘ってその隙をつく。


 意図的に槍の間合いに入る。スケルトンは考えなしに槍を上から振り落としてくるので、剣で外側に受け流しながら懐に入る。ギャリ、と音を立てながら剣の刃で槍の柄を滑らせる。私は前蹴りを放って、受けた槍持ちはタタラを踏んだ。姿勢を崩したスケルトンの胸を目掛けて細剣を差し込む。バキンと音が鳴った。魔石は砕けたようだ。


 剣を抜こうとしたところで横から杖持ちがガムシャラに杖を振り回しながら突っ込んできた。避けようがない!私は腕で頭を庇う。杖が腕に直撃したっ!


「っっつぅ!」


 対した威力じゃないのは分かっていたけれど、それでも痛いものは痛い。これが杖で良かった。剣ならこの程度では済まなかった。


 槍持ちに刺さったままの細剣が、槍持ちが崩れたことにより自由になった。私を殴りつけて来た杖持ちに、怒りを込めて剣を振るう。足を奪った。ざまあみろ!


 ジンジンと痛む腕を押さえながら、周囲の状況を確認する。残りのスケルトンは3体。うち2体は足を失って戦力外。優先するべきはパルマに付き纏っている剣持ちだ。


 パルマは酸の水たまりを中心に立ち回っている。スケルトンは酸を気にすることなく足を踏み入れている。徐々に足が溶かされ背丈が小さくなっていく。身長が低くなったスケルトンに後ろから突きを差し込み魔石を砕いた。これで残すは地を這いずる雑魚が2体だ。後ろから忍び寄って順番にトドメを刺す、戦闘が終了した。


「エイナル!エイナル!」


 腕を押さえた私に、心配そうにパルムが駆け寄る。不安にさせてしまったみたいだ、情けない。


「大丈夫だよ、それほど痛くないから」


 口ではなんとでも言えるけど、実際には腕は腫れ、既に青くなっている。剣で受けるのと、腕で受けるのでは感覚が違うみたいだ。当たっても大丈夫だろうと高を括っていた自分に嫌気がさす。未熟を実感した。


「でもっ!」


 パルマの取り乱し様が酷い。普段の物静かさとは打って変わって焦りを隠そうともしていない。それだけ愛されているなんて私は幸せだな、なんて場にそぐわないことを考えていると、例によっておなかから声が聞こえて来た。


『エイナ、我慢してね、ヒールウォーター』


 グギュルウル。


「がっんんっ!」


 我慢って、何を?そう言う間も無く唱えられた回復魔法で、私はおなかにダメージを受けた。膝をつき、そのまま横倒しになる。なんでこんなことになっているんだろう。魔法で回復するために、お尻に力を入れて魔法に耐える。意味が分からない。おなかの中から魔法を受けるのは初めてだ。いつもとは違った、内部で広がるような圧迫感が私を襲う。


「う、あ、ぁ……」


 腸が、膨らむ。


 早く外に出たいよと言っている。


 広がりが、出口を求めて腸内を散歩する。1歩2歩3歩。軽快な足取りで出口へ向かう。


「エイナル大丈夫!?ぽんぽん痛いの?撫で撫でするから頑張って!」


 パルマが私のお腹を抑える。待って、今はダメ、やめっ……。


「おっ、ほ、おぅ」


 外に出ようとする力を、外側から押さえつけられる。出口は1つしかないというのに、そんなことをされたら……。ああ、意識が……。


『パルマ、流石にそれは鬼畜だ。手を離してあげて』


「でも、でも」


 ギュ、ギュ。


「ふぉ、ふぉっ!」


 落ち着け、集中しろ、私なら耐えられる。諦めるな、勇者になるんだ。勇者は漏らさない。漏らすようなやつは勇者にはなれない。漏らした瞬間に、。パルマの手でお漏らしさせられるなんてとんでもない。でも気持ちよさそうだ……いや惑わされるな!それだけはダメだ!何か、何か手は、そうだ!


「ぱ、るま、おいで……」


 ひとまずはパルマをおなかから引き離すのが最優先だ。このまま攻撃を受けていては、じわじわと防壁が崩れてしまう。私は涙を流しながら、同じく泣いているパルマを誘う。


「うん、うん。頑張って、エイナル……」


「ねえ、あの時とは……逆だけど、パルマと、したいな。おっ……私は、こっ、んなだからさ、パルマからっ、してくれる?」


「うん、するよ、私からする。だから死なないで、エイナル」


 パルマが私の頬に両手を添える。パルマの涙がこぼれ落ちて私の涙と混ざり合った。それと同時に、互いの唇も合わさって1つになる。


 あの日と同じ場所で、逆の立場で。お互いのファーストキス、本当のファーストキスを私たちはやり直した。私の腹痛が治るまでそれは続いた。おなかが釣ろうと、腸が痙攣しようと、繋がっている間は耐えることが出来た。そしてこれからも、私は耐えることが出来るはずだ。


 パルマは私にとってのになった。





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