おなかの中のサナダムシが言うには、どうやら私は勇者になれるらしい
スケキヨに輪投げ
真田左薙はサナダムシに転生する
プロローグ
ガランという音が頭上から聞こえた。遅れて「危ない!」という誰かの叫び声も。
わたしが頭上を見上げると、目の前に赤茶色の構造物が迫っているのが見えた。その後大きな音がして、気づいた時にはわたしはやけに低い位置から横向きの視点で景色を眺めていた。
——ああ、わたしは事故か何かに遭遇して、もう助からないんだな。視界の半分は血に塗れたアスファルトらしい。わたしは倒れ伏しているんだろう。遠くで大騒ぎしている人々の姿が見える。
中学3年生になって、ぼんやりと自分の将来について考え始めた矢先に、わたしは死んでしまうのか。自分の将来なんて後回しでいいから、もう少し親孝行するべきだったな。
瞼を閉じつつあるのか、視力が失われつつあるのかは分からないが、徐々に目の前が薄暗くなっていき——。
⬛︎
意識が戻った時、目の前には丸い球体が浮かんでいた。球体はわたしに向かって語りかける。
曰く、わたしは死んでしまった。曰く、来世は勇者候補の手助けをしてもらう。曰く、無事勇者を育てれば人の体を与えると。
その為の力を授けられた。『言語を理解する力』『魔法を使う才能』『思念による意志伝達能力』『透視能力』etc。
わたしには拒否権も賛成権も与えられていない。わたしに口はないし、『思念による意志伝達能力』が与えられた後も、聞こえているのかどうか分からないが、球体はなんの反応もしてくれない。ただ淡々と来世の説明をするばかりだ。
『あなたには勇者候補、エイナルの補佐をしてもらいます』
わたしの意識に直接、映像が入力される。桃色の髪の色をした、ツーサイドアップの可愛らしい女の子。身長は160センチくらいだろうか。この子がエイナルという子なんだろう。剣を片手に、影のような異形の化け物と戦っている。剣を振っても、すり抜けてしまって何の痛痒も与えていないように見える。
『彼女は勇者候補として神託を受けましたが、剣技以外は特に優れたところがなく、魔法も使えません。現に今、剣技の通用しない相手と戦っていますが劣勢に立たされており、一刻も早い救援が必要です。あなたは与えられた魔法の才能を活用して彼女を補佐するのです』
一通り説明が終わったようだ、聞く気はあまりなかったけれど、知識としてわたしの脳に入力されたのはなんとなく分かった。わたしの意思は尊重されないようだ。
でももう一度人間として生きることが出来る可能性があるのであれば、ただ死んでしまうよりかは希望があるのだと思うし、とりあえずは言われた通りにやってみるしかないのだろう。
それにきっと、可愛いキツネとか、ネコとか、イヌの使い魔的なポジションになるんだろう。この可愛い主人公の女の子に膝の上でなでなでされるのも悪くはなさそうだ。
『では行きなさい、魔法を使えない勇者候補の、最も身近な協力者として』
球体にそう言われた瞬間に、わたしはどうしようもない現実を理解してしまった。わたしの脳に欲しくもなかった情報が入り込んでくる。新しい人生に希望を持った途端に、こんな仕打ちはあんまりだ。
日本人の
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