第28話 アドモス王の皮算用

◆◆◆


 ワイマール王国とリンドア王国、そして魔族国と国境を接している国、アドモス王国。


 その王国は、現在混乱のただ中にあった。


「ワイマールが宣戦布告だと!? 一体どういうことだ!?」


 アドモス国王は、官僚から上がってきた報告に仰天し、報告を持ってきた官僚を怒鳴りつけた。


「そ、そう仰られましても……先程ワイマールの使者が突然そう言ってきたのです」

「一体どういうことだ!? 我が国とワイマールは険悪な関係などではなかっただろう!?」

「そ、それが……」


 官僚は一旦言葉を切ると、ワイマールの使者が告げてきた言葉を国王に伝えた。


「アドモスは、ワイマール兵を惨殺し、尚且つワイマール存続の危機に晒した。この件に関して断じて許すことはできない。ワイマールはアドモスに宣戦を布告し、ワイマールの正当性を主張するものである……とのことです」

「い、意味が分からん……」


 アドモス王は、本気で意味が分からず、混乱して頭を抱えてしまった。


 アドモス兵がワイマール兵を殺してしまったことに関して許せないのは、まあ分かる。


 だが、その後だ。


 ワイマールを存続の危機に晒した? 一体なんの話なのか?


 そして、宣戦を布告することで正当性を主張するとは?


 文脈の前後が繋がっていない。


 まるで、無理矢理こじつけたような理由だ。


「ワイマールは一体なにを考えているのだ……ところで、我が軍の兵士がワイマールの兵を殺したのは本当のことなのか?」

「それはどうやら本当のようです」

「……なぜそのようなことになったのだ……」


 アドモス王が頭を抱えていると、官僚が恐る恐る進言した。


「実は……ワイマール兵を殺したという兵士の首が送り付けられています……」

「なんだと!? ワイマールで処刑したというのか!?」

「は、はい。私の方でも確認しました。間違いなく我が軍の兵です」


 アドモス王は、その官僚の報告に疑問を持った。


「ワイマールは、それほど好戦的な国であったか? 自国の兵が殺されたとあっては怒りもあろうが、今までなら精々身柄と引き換えに賠償金を請求してくる程度だったであろう?」

「……分かりません。とにかく、我が軍の兵が首だけになって帰って来たのは事実です」

「はぁ……それで? その兵は、なにがどうなってワイマール兵を殺したのだ?」

「詳しくは答えてくれませんでしたが……処された兵は、例の作戦に従事していた者でございます」


 例の作戦とは、ケンタを取り込むために、身近な人間を人質にして交渉するという作戦である。


 その官僚の報告に作戦の失敗を悟ったアドモス王は苦い顔をしたが、すぐにまた別の疑問が湧いてきた。


「例の作戦を執行するうえで、どうして我が軍の兵がワイマール兵を殺すことになるのだ? ワイマールは、奴の身辺警護でもしていたのか?」


 アドモス王の言葉を聞いて、官僚はあることを思い出した。


「そう言えば……ワイマールだけ奴の指名手配を取り下げていましたね……」


 そこまで言って、アドモス王と官僚はハッとした顔になった。


「ワイマールめ……奴の軍門に下ったか!!」


 アドモス王は、そう大声をあげた。


 取り下げられた指名手配。


 ケンタを取り込むための作戦中に起こったワイマール兵との交戦。


 それはつまり、ワイマールはケンタの軍門に下り、ケンタの身辺警護をしていた兵と交戦となったのだ。


 全ての謎は解けた! とアドモス王は確信した。


「ということは、此度のこの宣戦布告は、ケンタ=マヤによって命令されたものと見るべきだろうな」

「恐らく、それで間違いないかと」

「ちっ! ワイマールめ、簡単に奴の軍門に下るなど情けない! おい!! すぐに全閣僚を呼び出せ! 戦争準備だ!!」

「は、ははっ!!」


 官僚は返事をすると、一目散に部屋を出て行った。


 それを目で追っていたアドモス王は、椅子に深く座り直した。


「ワイマールめ。いくら強かろうが高々一個人に尻尾を振るとはな。そこまで落ちぶれていたとは思いもしなかった」


 そこまで言ったアドモス王は、ニヤッと笑った。


「まあいい。そんな落ちぶれた国など、逆に我がアドモスが侵略し併合してやるわ。そうすれば国力は二倍になる。魔族国とも対等以上にやり合えるというものよ。そうすれば……」


 アドモス王は、この戦争によってもたらされる輝かしい未来を想像し、王の執務室で一人ほくそ笑むのだった。


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