第27話 正直者のアイバーン
「おい、知ってるか?」
「なんだ? 行商人」
「……いい加減、そのイジり止めろ。飽きたわ」
「イジり? 純粋な感想なんだが」
「それはそれで腹立つ」
「それで、またなんの情報を仕入れてきたんだよ?」
ある日のこと、今回はユリアの見舞いだけではなく物資も一緒に持ってきたアイバーンが、なんかの情報を仕入れたとのことでその話を聞いてみた。
「ワイマールが、アドモスに戦争吹っ掛けたぞ」
「へえ、今回はちゃんと対処したのか」
俺がそう言うと、アイバーンはガックリと項垂れた。
「やっぱお前のせいか……」
「まあな。俺がアドモスに攻め込んでも構わないって言ったんだけどよ、それだけはどうか止めてくれって懇願されたから、じゃあお前らでなんとかしろって言ってきた」
「……とんでもない脅し方するな、お前」
「そうか?」
「そうだよ。アドモスの狙いは、お前もそうだけど、メイリーンさんも入ってた。そんな相手にお前が躊躇するとは思えん。お前、アドモスのこと焦土にするつもりだったろ?」
「お、よく分かったな」
俺がアイバーンの言葉を肯定すると、アイバーンは苦笑した。
「……そりゃ、結構付き合いも長くなってきてるからな。ワイマールからしたら、アドモスは隣国だ。そんな国が無くなったら……」
「魔族に侵略されてワイマールが困るってか」
俺がそう言うと、アイバーンはジトッとした目を向けてきた。
「お前……分かってて……」
「いや? あの時は、マジで俺がアドモスを潰しに行こうかと思ってたんだけどよ、国一つ潰すのって結構体力いるじゃん? なんか面倒になったし、俺が国一つ潰したら、また世間から悪人呼ばわりされんじゃん。悪いのはアドモスなのによ」
「……それ、国全部対象に入れるから悪者にされるんじゃね?」
「そうか? ああ、そうかも。だから、俺が直接やるんじゃなくてワイマールにやらせたらヘイトはワイマールに向くかなって」
正直それくらいしか考えてなかったなあ。
「はぁ……まあ、ワイマールもお前に攻め込ませたらアドモスが焦土になるって思ったんだろうな。それなら自分たちで対処した方がと思ったんだろうけど……」
「けど、なんだよ?」
「残念ながら、ヘイトはワイマールには向かなかったみたいだぞ」
「はあ? なんでだよ?」
「なんか、出回ってる噂だと、ワイマールがアドモスに戦争吹っ掛けたのは、お前に命令されたからってことになってる」
「はあ?」
いや、なんでそうなる?
ワイマールがまたいらんことしたか?
これはまた、ワイマールにお仕置き案件か? と思っていると、アイバーンが事情を説明しだした。
「お前、衆人環視の中でヴィクトリア王女殿下を土下座させたろ」
「違えわ。アイツが初手で土下座してきたんだよ」
「そうなのか?」
「そうだよ」
「まあ、事実がそうだとしても、殿下が土下座してるところを何人も見てるわけだ。そんでそのあとワイマールがアドモスに宣戦布告した。民衆がそう思っても無理ねえ状況じゃね?」
「マジか? やっぱあの王家、碌なことしねえな」
やっぱ潰すか?
「おい、変な気は起こすなよ? そんなことしたら、今度こそお前を討伐するための世界連合が生まれるぞ」
「なにお前? 俺の心読めるようになったの?」
気持ちわり。
「そこそこ付き合いが長くなったって言ったろ。お前のその悪そうな顔見たら「ワイマール潰すか?」って検討してることくらい分かるんだよ」
「お、マジで当たってる」
「はぁ……嬉しくねー。ってか止めろよ? お前なら世界連合相手でも普通に勝ちそうだけど、そうなったらマジで世界終わるからな? そしたら、メイリーンさんや子供に物資が届けられなくなるんだからな」
「それは一大事だな。止めとくわ」
メイリーンや子供にひもじい思いさせるとか論外だからな。
「……マジで、お前を止めるなら家族を引き合いに出すのが一番効果的だな」
「それ、本人に言っていいやつか?」
アイバーンが正直者なのは分かってるけど、それは正直に言い過ぎじゃね?
「別に構わねえよ、俺は事実しか言わねえから」
「正直者が過ぎるな、お前は」
いつか馬鹿を見そうだ。
「いいんだよ。俺は正直に生きるって決めているんだ。嘘は吐きたくない」
「へえ」
なんか、アイバーンがこうして自分に正直に生きているのって、事情がある気がする。
まあ、下手に聞いて変なことに巻き込まれたくないから聞かないけど。
「で、正直者の俺は、もう一つの噂もお前に教えてやる」
「なんだよ。まだあんのか?」
少々ウンザリした気持ちでそう聞き返すと、アイバーンはニヤッと笑った。
「なんか、ワイマールがお前の軍門に下ったらしいぞ」
……は?
「はあ!?」
また面倒臭そうな噂が広がってんな!? おい!!
「ワイマールはその噂、放置してんのか?」
「戦争準備でそれどころじゃねえんじゃねえだろ」
「マジか……またお願いしに行こうかな?」
「お願いと書いて脅しと読むやつな。やめとけやめとけ。それに、その方がお前にとっちゃ都合がいいだろ」
「? どういう意味だよ?」
本気で分からなくてアイバーンに聞くと、なんか悪い顔しだした。
「ワイマールがお前の軍門に下ったって周りが信じ込んでいたら、お前のことを取り込もうとする国が減るだろ? なんせ、ここはワイマール国内。お前に接近しようとするならワイマールに侵入しないといけないんだ。ワイマールがお前の軍門に下ってると勘違いしていたら?」
「……ワイマールの顔色を伺って下手に手出ししてこなくなる、か」
「そういうことだ」
はあ、なるほどな。
間違った噂も、そういう利用方法があるってことか。
「よくそんなこと思い付くな」
俺は戦闘力特化だからな。
政治とか軍略とか、一個も分からん。
……あれ? これ、俺が脳筋になってね?
衝撃の事実に震えていると、アイバーンは話を続けていた。
「ここにはユリアがいるからな。ユリアを守るためなら、どんな手だって使ってやるさ」
そう言うアイバーンの顔は、覚悟が決まった顔をしていた。
「おお、なんかお前、悪の参謀みたいなこと言い出したな」
「それだと悪の首領はお前ってことになるけど、いいのか?」
「……スマン、言い過ぎた」
それは厨二が過ぎるわ。
ともかく、ワイマールに関する噂は放置することにした。
その方が色々と便利そうだし、そもそもその噂を流したのは俺じゃないからな。
勝手に勘違いしといてくださいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます