第12話 てんせいしてもまほうがつかえるなんてすごいなぁ!!!

「うわビックリした!!!落ち着けって!俺は敵じゃねーよ!」


「グルルルルルルッ……フゥー…フゥー………」


 俺が黒狼に気がつき、振り返ると黒狼は俺に攻撃が当たっていないことに一瞬驚いた顔をしていたが、俺が瞬きをした瞬間には既に剣の間合いから離れた場所に立ってこちらを睨みつけていた。


 しかし傷はまだ治りきっておらず、足もフラフラとしていて今にも倒れそうな状態だ。息も荒く、明らかに動いていい状態ではない。


「もうフラフラじゃねぇか…無理すんなって、俺にお前を攻撃する意思はない」


『黙れ人間!はぁ…はぁ……またそうやって私を騙そうなどと…はぁ……どこまで我らの一族を愚弄するつもりだ………っ!!!忌々しいこの枷をつけた報いは…受けてもらうぞ!!人間!』


 急に何処からか女性の声が聞こえたと思ったが、おそらく目の前にいる黒狼が話しているんだろう。普通のモンスターが話すことは無いが、知性の高いモンスターや獣人族なのであれば意思の疎通は可能だ。


 確か昔にもおんなじようなことがあったような…勇者時代の話だから詳細は忘れちまったけど、確かあの時も黒狼だったような?…そんなことを考えている場合じゃ無いか。


 それにしても何やらこの黒狼は人間に対して恨みがあるみたいだな…めんどくせぇ……帰りてぇ………。


 よく見たらアイツの右前脚に付いてるのって…【隷属の腕輪】じゃねぇか…しかも違法なヤツ。

 まだ奴隷化はしてないみたいだが…もうね、明らかにめんどくさい香りがしますねハイ!


「待てって!っていうかお前喋れるなら俺の言葉もわかんだろ!?俺はただの村人だ、別にお前を攻撃する気なんざねぇっての!!!殺す気ならとっくに殺してる!」


『殺す気なら殺しているだと…?はぁ……はぁ……たかが人間如きに私が負けるとでも!?…それに貴様その纏っているもの、何故貴様のような者がと同じ戦技わざを扱える!!!』


 俺の言葉に耳を傾けようとしない黒狼は、グルルルルと唸り声をあげながら全力で俺を警戒している。

 それに俺のこれを見て更に怒っているような…もう何が何だかわかんねぇよ。


「【聖鎧気纏いこれ】は俺だから使えるんだよ。それに俺の後ろを見てみろよ、ボロボロのお前じゃ勝てなかったアイツを俺は一撃で倒せるんだ。アイツより弱ってるお前を殺せない道理はないだろ?」


『惚ける気か!それにバジリスクを無傷でただの村人が倒せるわけが…………なっ…!?』


 俺がスッと横にずれ、黒狼に頭が半分地面にめり込んでいるバジリスクを見えるようにすると、黒狼は目を見開いて動揺している。


『あ…ありえない!熟練の冒険者パーティーでも苦戦するモンスターを…一瞬で…?……貴様…何者だ…その強さ、ただの村人ではないだろう!!やはり貴様もの追っ手か!!』


「わっかんねぇヤツだなぁ…そもそも俺はお前のことなんて知らねぇし、今はただの村人なんだって―――『ギ…ギュラララ……キシャァアアア!!!』」


 俺と黒狼が再び言い合いになりそうになったかと思えば、俺の後ろからさっき殺したと思っていた瀕死のバジリスクがゆっくりと地面から体を起こし始めた。


『…っ!?』


「っと…まだ生きてやがったか、やっぱまだ力加減に慣れてねぇなぁ…小突くくらいじゃこんなのでも殺せねぇか…。……そうだ、リハビリがてら魔法でも使ってみるか?流石に高位の魔法は俺のMP総量的に使えないから…あれにしよう。ついでにアイツにこれを纏わせてっと…」


 俺は黒狼にスキルを使用し、その後ゆっくりとバジリスクの方へと歩いていくが、バジリスクは一度狙った獲物にとことん執着する性質がある。ゆえにヤツの視線は黒狼に向いており、俺の方を見向きもせず黒狼の方へと走り始める。


「さて俺は面倒ごとが嫌いでね。いまでも十分すぎるほど面倒臭いんだが…これ以上動かれると更に面倒なんで、使えるかわかんねーけど少し拘束させてくれぃ。⦅第六氷結魔法 氷の枷フロスト・バインド⦆」


 魔法を唱えた瞬間、バジリスクの足元から大小様々な氷で出来た鎖や首輪のようなものがヤツの巨体を一瞬で拘束する。

 それによりバジリスクは身動きが取れなくなり、ジタバタと暴れようとするが一切動けなくなっている。


「おお!マジか!今の俺魔法使えるのか…」


 流石に前のように連発はできない感覚はあるが…バジリスク一体を完全に拘束できるくらいの出力は出せるようだ。てんせいしてもまほうがつかえるなんてすごいなぁ!!!


 勝手に俺が感動しているうちにバジリスクは自分が動けない事を悟り、俺が想定していた攻撃方法に切り替えはじめ…口から強酸性の毒液を吐き出し、黒狼に向かって飛ばす。


『む、無詠唱だと……!?いや…今はそれどころではないな…その程度の攻撃が私に当たると―――うぐっ…!?』


 黒狼は一瞬驚いた顔をしたかと思えば、すぐに切りかえて回避をしようとするものの、先程負った傷が回復し切れていない。それが原因でガクッとその場に崩れ落ちる。―――しかし俺はそれも想定していた。


 毒液はそのまま黒狼に直撃したが、肝心の黒狼には一切ダメージが入っていない。それどころか攻撃が当たってすらいなかった。


「俺のスキル【聖鎧気纏いホーリーオーラ】は他人にも付与できるんでね、俺が纏っていたものを黒狼お前に付与させて貰った。…さてさてコイツの体に刺さってた道具の回収も出来たし、コイツにもう用は無いな。そのまま氷像になってくれぃ」


『ギ……ガガ……………ギ…シャ…………………』


 驚いている黒狼を尻目に俺は魔法の進行を進めると、拘束していただけの氷の枷を起点にバジリスクの体を氷が一気に覆っていき…数秒でバジリスクの体は骨の髄まで氷結された骸となった。


「さて…もう邪魔は入んねーからゆっくり話そうや、黒狼よぉ」


 何故か先程まであった黒狼の敵意が消えていることに疑問は感じたが、俺は近くまで歩み寄ってから座り込み、話を続けることにした。

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