第11話 なーんでこんなとこにいんだよクソトカゲ!!!

 あれからしばらく歩いた俺は森の奥の方までやってきていた。道中にも俺が倒してきたモンスターと何体も遭遇したが、ほとんどのモンスターは俺を無視して一目散に去っていた。


「これは…何かあることは確定だな、キラーベアについてた傷からなんとなく想定してたけど」


 森を歩いていくうちにモンスターの死体が目立つようになっていく。どれも俺が何かをしたわけではなく、明らかにモンスターにやられたであろう牙の傷や小型のモンスターであれば踏み潰されたもの。体の一部を食いちぎられたものや何かに溶かされた奴もいる。


「この足跡…薙ぎ倒された木々…何かを追いかけて左から右へ行ったついでにモンスターを殺している獰猛な性格…噛み跡や溶かされた死体からみて…間違いなくだな。それにしてもなんでこんな所に…?アイツの生息地はこんなところじゃないはずだ」


 俺が想像しているモンスターであれば、岩山や荒れた土地に生息しているはず…こんな森林に住んでいるようなモンスターじゃない。


「となると誰かが連れてきたか…何かを追いかけてきたのか……いずれにしろオスカーに【虫の知らせアラート】くらいは送っておくか。詳細はわからないにしても警戒態勢は敷いてくれるだろ」


 村の方まで行かれると…滅ぶな、間違いなく。キラーベアの時が例外だっただけで、本来であればキラーベア一体で壊滅する村だとしたら…アイツはそれより上位の存在。行かれる前に殺しておかないと…俺の家が無くなる、ホームレスは嫌だ!!!


 死体を調べていると、右の遠方から大きな鳴き声や何かがぶつかったような大きな音が聞こえた。


「…なんかと戦ってんのか……行くしかないな」


 俺は鉄剣をしっかりと腰に携え、音が聞こえた方へと走って行く。



 生い茂った森林をさっき聞こえた音を頼りに走っていると、木々を抜け岩肌が露出した大きな崖下に辿り着いた。


 そして俺が辿り着いた瞬間、俺の目の前に何か黒い物が左から勢いよく横切って飛んでいき…地面へと叩きつけられた。


「アレは…黒狼ブラックウルフか!?アイツもなんでこんな所に…って言ってる場合じゃないな、酷い怪我だ」


 俺の目の前を横切って地面に叩きつけられていたのは、普通の狼よりも大きな体格を持つ黒狼だった。

 その黒狼は全身にひどい怪我を負っており、叩きつけられた衝撃で意識を失っている。


『ギュラアアアアシャアアア!!!』


 俺が黒狼に駆け寄ろうとすると、左から怒り狂ったようなモンスターの鳴き声がする。左を向くと…俺が想定していたモンスターが走ってきている所だった。


「…なーんでこんなとこにいんだよクソトカゲが!!!絶対逃げられねぇからめんどくせぇんだよお前!!!」


 俺の方に走ってきているのは気味が悪いほどの毒々しい緑の体色、トサカや目は異常な程に赤く染まり、口からは猛毒の唾液を撒き散らしている大きなトカゲのようなモンスター…バジリスクだった。


 バジリスク。俺が元々いた世界に居た、噛みつかれればバクテリアの効果によってやがて死に至るコモドドラゴンを何倍にも大きくしたような体格、その唾液やびっしりと何重にも生え揃っている牙から滲みだす毒液は、非常に強力な溶解性を持ち…触れたものはなんでも溶かしてしまう。


 また自身は毒に対しての完全耐性を持っており、自身の毒で自滅しない進化を遂げている。

 バジリスクは異常なまで獲物への執着と持久力を活かして獲物を永遠と追いかけ続ける性質を持っている。


 バジリスクに狙われたのであれば、バジリスクを殺すかバジリスクに喰われるかの二択しかなく、逃げ切ることは不可能だ。

 その危険性から冒険者ギルドではバジリスクをC級中位モンスターとして認定している。


 …さて話を戻してバジリスクの体をよく見ると、この黒狼がつけたであろう傷が体中に大量についているものの…どれも致命的なものには至って居ない。

 所々人間の道具のようなハリやスティレット…?のようなものが刺さっているのが気になるが…今はコイツをなんとか黙らせないと煩い。


『キシャアアアアアアアア!!!!!!』


「うるせぇ!【跳躍強化】【聖鎧気纏いホーリーオーラ】!大人しくして…ろ!!!」


 ボゴォオオンッ…!!


『ギシャ…アア………ア…………』


 あまりに煩い声にイラッとしてしまい、空中に跳躍し上から戦技を纏わせた踏み潰しでバジリスクの頭を地面にめり込ませてしまった。


「ふぅ…スッとした。アイツの声うるせぇんだもん………っと!いけねえ。黒狼の手当てをしてやらねぇと…」


 バジリスクの血も猛毒なので、返り血を浴びないように全身に【聖鎧気纏いホーリーオーラ】を纏っていたお陰で、バジリスクの血は俺の身体に触れることなく地面へと弾かれて落ちて行く。

 血も猛毒なのもあって森にダメージがいかないか心配だが…今はそれどころじゃないしな。剣で首を斬り落とすよりはマシだろ…。


「まずは回復ポーションをかけて…よし、傷口はこれで塞がって行くはず。後は解毒のポーションもかけておくか、皮にも弱くはあるが毒があるからな」


 息も絶え絶えで今にも力尽きそうな黒狼に、万が一の事を想定してアイテムボックスに入れていたポーションを取り出し、ゆっくりと体にかけていく。

 すると傷口が少しずつ塞がり始め、解毒のポーションも効果があったのか苦しそうな表情が少し緩んだ。


「取り敢えず応急処置は済んだかな…失った血液とか折れた骨とかは治せねぇけど…黒狼には【自己再生】のスキルがあったはずだから大丈夫だろ…はぁ、バジリスクの死体を持って帰ってまた面倒なことにならなきゃいいけどな…。もうしばらくは酒なんざ飲みたくねぇし」


「かと言ってコイツの死体は放置できねぇし…そもそもなんで俺はこんなことに…」と黒狼に背を向けて考えていると、ガキィッ!!と俺の【聖鎧気纏いホーリーオーラ】に攻撃が当たった感触がしたかと思えば、俺が助けた黒狼がいつの間にか立ち上がっており、俺の首筋に飛びかかって噛み付いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る