第9話 俺はダラダラしたいんだ!!!!!
「ゼルン!まだ寝てるのか?早く起きろ!!外に行くぞ!」
キラーベアを俺が倒した翌日の朝、日がまだ低い時間に俺の部屋にやって来たオスカーの声で起こされる。
(うるせぇなぁ…まだ寝かせてくれよ頭痛い……このおっさんはこんな朝っぱらから俺に何の用なんだ…?昨日は散々村中で持て囃されて酒を飲まされたせいで、今も頭がいてぇんだよ…)
補足だがこの世界じゃ15から成人扱いされて酒も飲めるようになるんだが…それにしても昨日は飲まされ過ぎた…。こんな時に回復魔法が使えるアイツがいればなぁ…俺は使えねぇんだ。
「なんだ…親父?まだ…ふあぁ……寝かせてくれよ…」
「まだ寝たい気持ちは分かる、だが俺はお前に確かめねばならん事があるんだ。それが済んだら今日一日は寝てても―――「よっし行こう!いますぐ行こう!!親父どこ見てんだ?早く行こうぜ!!!」……手のひら返しが凄いな…ゼルン…」
オスカーの言葉に一瞬で飛び起きた俺は、一瞬で目を覚まして着替えすら済ます。その変わり様にオスカーは驚きながらも、俺の後ろに続いて階段を降りる。
そのまま日が登り切っていない静かな外に出て、立ち止まった俺を先導するように歩いて行くオスカーについて行く。
オスカーについて行った先は家の裏手、そこにあるのは俺がよく剣の鍛錬や筋トレに使っている小さな庭に辿り着いた。
庭まで歩みを進めると、オスカーは俺の方に振り返って話し始める。
「さて…朝早くにすまんなゼルン。長話はこんなところじゃアレだからな、単刀直入に聞かせてもらう。お前の強さを俺は知りたい」
「俺の…強さ?」
よく見るとオスカーはしっかりと武装をしており、質はそこまで高くないものの身につけている鎧は年季の入った
「そうだ、昨日のキラーベアの死体…アレは一撃で首を落とされていた。それでそのキラーベアを倒したのはお前で、木剣一本で即死させているときた…。俺も長い間戦士として戦ってきたから分かったが、戦場も死体もアレは実力の差がありすぎる痕跡だった…とな」
真剣な顔つきで俺を見てくるオスカー。オスカーは話しながら脇においてある木剣を二本取り、一本を俺に手渡す。
まぁ確かに昨日今日で圧勝できるような力関係になる事がないこの世界で、オスカーの疑問は当然だろう。
数日前には殺されかけたモンスターに無傷で圧勝、確かに怪しいと思うか…あるいは実力を隠していたと思われるかの二択ってところか…。
「お前は確かに昔から剣の努力をしていた。だがこの世界では努力だけでは必ず頭打ちになってしまう…才能を持った努力者には勝てないんだ。俺も現役時代に痛いほど痛感した事だ、B級でもそうだが…A級やS級のようなバケモノには逆立ちをしても勝てないとな」
確かオスカーは現役時代、C級パーティーの戦士を担当していた冒険者だったらしい。
だが14年前、オスカー以外のパーティーメンバーがモンスターの襲撃で全滅し、崖から転げ落ちて死にかけていたところで、一緒に崖下に落ちて壊れた馬車の中にいた俺を拾って引退した…と聞かされていた事が俺の記憶にはある。
全滅した理由は街から街へと移動する馬車の護衛任務、切り立った崖でワイバーンの群れに襲われた事が原因だった。
ワイバーンは単体ならC級上位のモンスターだが、群れとなればB級中位くらいの危険度に一気に上がる。
その自分以外が全滅した経験から、オスカーは俺がキラーベアに圧勝した事があり得ないと確信しているんだろう。
「だからこそ俺は知りたい、血は繋がっていなくともお前は俺の息子だ。お前の本当の実力を見せてくれ!ゼルン!!!」
俺に向けて木剣を構えてくるオスカー。オスカーはこの村では最強の戦士らしいので、はたから見ればオスカーが俺を訓練をしているように見えるだろう。
しかしながら俺はというと――――――
(めんっっっっどくせぇえぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!俺はダラダラしてぇんだよ!!!!!眠てぇんだわ!!!!!!!!!なんでわざわざ早朝なんだよ!KU・SO・HA・GE・GA!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
内心めちゃくちゃキレてた。だってしょうがなくない!?模擬戦なら普通に昼とかで良くない!?!?なんで朝なんだよ!!!!!
「…オーケーオーケー、そんなに見たいならちょっと真面目にやったるで???そんで俺はすぐ寝るからな!!!」
「あぁ、いつでも来い!俺も本気でやるからな!条件はそうだな…相手の体に一発でも当てられたらにしようか」
「わかったよ親父。さっきも言ったけど、すぐ寝るからな!俺は!!」
「そうやすやすと一本は取らさんぞ?ゼルン」
内心ぶちぶちギレだが、なんとか踏みとどまり剣を構える。そして―――俺は一瞬でオスカーとの間合いを詰める。
するとオスカーは俺の動きが見切れなかったのか、一瞬ものすごく驚いた表情をして…かろうじて俺の木剣を受け止める。
「―――くっ!?!?」
ゴンッと木剣同士がぶつかり合う音がしたかと思えば、俺は流れるように連撃をオスカーに叩き込む。
当たり前のことではあるが、お互いに身体強化や戦技は一切使っていない。素の肉体能力だけで攻撃し合っているが…お互い素の状態であればオスカーより俺の方が強いらしい。
ただ勘違いしないでほしいが、単純な筋力や馬力では圧倒的にオスカーの方が強い。互いに全力で両手を握り合い、手四つの状態で力比べをしたなら今の俺は負ける確信がある。
しかし戦いにおいて筋力は一つの要素にすぎない。剣技の練度やスタミナ、反射神経や適切な状況判断能力、相手と自分の能力や戦い方の相性などの要素の複合によって、戦況は決まる。
現に俺の連撃をオスカーはなんとか食いつき、数分は耐えていたが…オスカーは俺の早さについてこれなかったのか、ついに俺の木剣がオスカーの鎧に当たった感触がした。
「っしゃ!!俺の勝ちだぁ!!!!!」
「はぁ…はぁ……まさか…全力でやって…負けるとはな……俺も歳か………」
もちろんオスカーにダメージはないが、息は絶え絶えで汗もすごく出しながら地面に仰向けで倒れているオスカーと、余裕な表情をして立っている俺とでは勝敗は明確だ。
「大丈夫か?親父?」
「…あぁ、もう大丈夫だ。しかし驚いた、まさかここまでとはな…確かにこれならキラーベアに勝てるかもしれんな。今までは力を隠していたのか?」
「ま、まぁ…そんな感じ?後はその…全力を出す機会がなかったというか…?ほら、この辺って平和だし?キラーベア以外の危険なモンスターとか…盗賊とか山賊とかもいないわけで」
「………確かにそうだな。(ゼルンは村の外に出た事がない…今まではゼルンの両親を守れなかった負い目が理由で、村から出す気は無かったが…そうだな…)」
俺に差し出された手を取り立ち上がったオスカーは、何やらブツブツと小さな声で呟いている。
まぁいいや!さてさて俺は今日一日中ダラダラするとしますかねぇ!!!
「ゼルン、お前…冒険者になる気は―――「嫌だ!!!!!!!!!」
俺はダラダラしたいから即答で断った。
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需要があるかはわかりませんが、エタるまでは書こうと思います。
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