第8話 戦闘後、そして新たなる出会いの兆し
「はぁくっせぇ…これの処理済ませたら川で洗濯しねえと…って硬てぇし重てぇな!!」
何事もなくキラーベアを倒した俺は、大木にぶつかり倒れていたキラーベアの体をやっとの思いで村の方向にある訓練場の入り口に持ち上げて運び、キラーベアの死体の血抜きや解体を進めていた。
この辺の知識は元々知っていたわけじゃなくて、この世界に初めてやってきた俺の勇者だった時代、メンバーの一人にやり方を教えて貰ったのだ。
どうやらこのやり方は彼女の種族伝統のやり方だそうで、獲物の解体は女性の仕事。その解体方法などは決して男には教えてはいけないという決まりがあると聞いたことがある。
しかしその解体方法を男に教えていい場合があって……なんだったかな…思い出せないけど確か親愛の証だったか…?まぁいま気にしても仕方ないしいいか。
「よしよし、首が切れていたから血抜きはすぐ終わったな。あとは内臓を抜き取って…毛皮は初期装備にでも加工するかな、出来ても外套とかくらいだけど」
キラーベアを木に吊るし、血抜きを終えてから腹部を切り開き内臓を取り出す。コレもまたくせぇ…、俺がいなかったらモンスターがよって来る事間違いなしだな。
解体で取れた骨と皮は村に帰ってから作業をする予定だが、まずやっておかなければいけないことをしておく。
「あーそうだった。『
足元に落ちていた石ころに魔力を付与し、近くにおいてあったキラーベアの頭のツノに軽くぶつける。するとさっきまで持ち上げられていた頭の重さを支えていたツノは根元から崩れるように簡単に折れ、手頃な大きさのツノがドロップする。
ただの剣の攻撃や魔法攻撃ではビクともしない硬さを誇るキラーベアのツノだが…実はこのツノ、魔力が付与された物理的物質からの衝撃を受けると簡単に折れる特性を持っている。
これはキラーベアが生きていても有効な手段であり、今の様に魔力を込めたや石の打撃や投擲、剣の攻撃をツノに当てられたなら、キラーベアは魔法を使えなくなり、それだけでなく肉体的にも大幅に弱体化する。
攻撃力は変わらないものの、敏捷性や持久力などが低下するため楽に仕留められる様になるが…この事を知らず真正面からやりあったなら強敵となる。そこでついたあだ名が『
そのためキラーベアは冒険者ギルドランクではD級上位に位置するのだろうが、それは真正面からやりあった時の話で、対処法さえ知っていればD級下位くらいのモンスターだ。要するに馬鹿正直に戦わず、相手の弱点を調べて搦め手を使うことが攻略の鍵ってことだな。
王都などではよく知られている情報なんだが…偶にいる妙に自信過剰でモンスターについて調べていない奴はすぐに餌食となってしまう。
この世界では相手の力量を見抜く能力、モンスターの知識などを熟知していなければ即座に死に直結する厳しい世界だ。
生き残るためにも知っていることは重要なんだよなぁ……怠惰で面倒臭がりな自覚がある俺でさえ、この部分だけはこの世界で初めて死にかけた時から怠ったことはない。
「知識は力なりってな。それと
俺がキラーベアについていた傷を見ていると、後ろから全力で走ってきたのは…俺の父親のオスカーを筆頭に何人かの武装した村人だった。
「おいバケモン!ゼルンから離れろ!!!俺が相手になって……って…なんだぁ!?コレは!?!?!?」
背に大きな大剣を背負い、訓練場までずっと走ってきたのか息を弾ませながら山を駆け上がってきたオスカーは、目の前の光景を見て動きを止める。
当然といえば当然か、目の前には屈強な戦士のオスカー自身でさえ苦戦すると言わしめたモンスターが首を落とされ、木に吊るされていると思えば解体され、奥では大木が一文字に斬り倒されているんだからな。
そしてキラーベアの生首を手に持ってその場に立っている、返り血で血まみれの息子…そりゃ困惑もするか。
『お、おい…アレってキラーベア…だよな?』
『あ、あぁ…間違いねぇ…それで立っているのはオスカーんとこのせがれか…?』
『もしかして…ゼルンがこれをやったのか…!?』
呆気に取られているオスカーの後ろから現れた村のおっさん達は口々に話し始める。
「ゼ、ゼルン…これは……全部お前がやったのか…?」
「あー…まぁ…そうなる…のかな?戦ったつもりはなかったんだけど…」
俺としては向かってきた虫を叩いたくらいの感覚なんだが…オスカーからすれば息子の強さが爆発的に上昇したと見えているはず。
ましてや一度やられている相手に完勝しているという事に理解が追いつかないんだろう。まぁ木の方は全力でやったけどな。
「…そうだ!ゼルン!!怪我はしてないか!?その血は…」
「安心してくれ親父、これ全部返り血だから俺は怪我してない。無傷の勝利だ」
「そうか…お前にはこの状況のことで聞きたいことが山ほどある…が、その前に川に行って洗ってこい。おいみんな!とりあえず
『『『『『おうっ!!!』』』』』
おっさん達の声と共に俺は村まで帰還する事になった。あぁ…こんな事になるなら氷結魔法でも使って冷凍しとけばよかったかな…(クンクン…)……くっさ!!!?
◇
【ディロード王国 某街 冒険者ギルド内】
『…おい見ろよ、あそこにいる女!鎧を着て顔を隠しちゃいるが…ありゃ随分な上玉だぜ?顔は隠せても鎧越しでもわかるくらいの豊満な身体は隠しきれてねぇ…たまんねぇなぁ…♡』
『おいやめとけ…昨日声を掛けたこの街最高ランクのB級冒険者が、たった一撃で伸されたんだ。ここらじゃ見ない冒険者なのにとんでもねぇ強さだぜ…』
『ま、まじかよ…あの『蛇剣』を…!?とんでもねぇじゃねぇか…』
『噂じゃ王都から来たS級冒険者なんじゃねぇかだと。もしそれが本当なら…D級の俺たちがどう足掻こうと勝てる相手じゃねぇ…関わらねぇ方が得策だ……』
とある街の冒険者ギルド、その酒場で昼から酒を飲んでいたとある冒険者二人はギルドのカウンターに立ち、受付嬢と話している一人の女性冒険者を見る。
カウンターには白銀に輝く部分鎧とヘルムを身につけ、立派で大きな片手剣と盾を装備している女性冒険者が何やら受付嬢と話している。
その隠れている頭部を覆っているヘルムの隙間からは美しくも長いブロンドの髪がサラサラと靡いており、部分鎧の隙間から見えるボディスーツのように密着しているインナー型の薄鎧によって、強調された女性的なボディラインや大きな胸部は見るものの視線を惹きつける。
また身につけられている鎧を始め、籠手や脚甲などの装備、剣や盾などの武器は勿論…首飾りやイヤリングなどの装飾品に至る全てが高位の
「そうですか…新しい冒険者はいない…と」
「えぇ…ここ最近は平和になったこともあり、モンスターの被害も魔族との戦争が終わってからはマシになりましたからね。それにここは辺境のギルドですし…迷宮都市などでない限りは新しい方が増える方が珍しいくらいですよ。なのでクインさんがこの街に来られたことはとても喜ばしいんですよ!!それにすごくお強いですし!」
「(…私よりも強い方がいらっしゃったのですけど…ね)」
「え?クインさん、何かおっしゃいました?」
「いえ…では私はこれからまた別の依頼をこなしてきますので、新たに冒険者登録もしくは別の街からやってこられた冒険者の方が来られましたら、私に連絡をお願いします」
「かしこまりました!行ってらっしゃいませ!」
受付嬢に見送られ冒険者ギルドから外に出た女冒険者は、街の中でまだ陽の高い空を見上げる。
「…もう貴方がこの世界からいなくなってしまった事は私たち全員、十二分に分かっています。…分かっているのですが…何処かに…私たちがこの5年間探し求めていた彼を感じるのです。ユウジ殿…―――貴方は今何処にいるのですか…?」
全身を白銀の鎧で固めた女戦士は光り輝く太陽に手を伸ばし、突如失った愛する異性に思いを馳せていた。
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一応読み切り的な感じの書き出しは以上です。要望が強そうであれば、また続きを書くつもりですが…最近色々とバタついているので、更新頻度はそんなに早くないです。
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