第7話 この程度圧勝できなきゃ勇者は務まらねぇ
「随分と肝がすわってんなぁ、普通の野生動物やモンスターなら今の音にビビって逃げ出すと思うんだがな?」
目の前にズシズシとやって来たキラーベアにそう問いかける。するとキラーベアは俺の問いかけに呼応するように『グオオオオオオッ!!!!!』と四足歩行から二足歩行になって大きな咆哮をあげた。
目の前で立ち上がったキラーベアはとても大きく、推定四メートルほどの巨獣となる。俺の身長が170ちょいなことを差し引いてもその体格の差は明白。
立派に生えた真紅のツノは返り血を浴びて着色されたような不気味さを感じさせ、大きく発達した黒い爪や肘から生えたトゲは、そのまま武器に利用できそうなほどの鋭利さが見て取れる。
口元から覗く尖った牙、俺を今にも襲いかかって来そうな獰猛な目つき、大きく発達した筋肉に硬質化した体毛…まさしく前世で俺が初めて出会った強敵、キラーベアで間違いない。
普通ならば出会った時点で死を覚悟するべきだろう、しかし俺にはそれが全くない。何故なら―――戦う必要すら俺には無いからだ。
「さて…なんか傷があるだろお前。ゆっくり調べたいところだが…調べる為にも村の為にも、お前はここで駆除しておかないとな」
個人的な恨みはないと言いたいところだが、この胸の傷をつけてくれたのも…この身体の持ち主を殺したのもコイツだしな。殺す理由には十分だ。
「ほらこっち来いよ、今日の晩飯にしてやるから…よっ!!!」
『グアァアアアアアッ!!!』
俺は手に持っていた木剣の切れ端をキラーベアの顔面に叩きつける。するとキラーベアは大声をあげて激昂し、腕を思いっきり俺が立っていた場所を叩きつける。
しかしキラーベアが振り下ろした場所に俺はもういない。普通の村人なら避けられないくらいのスピードだろうが、あいにく俺は元勇者。コイツ以上の強さの魔物なんてごまんと見ているし戦って死線をくぐり抜けて来ている。
何度も何度もキラーベアはその攻撃を繰り返し、その度に俺はひょいと軽やかにかわす。
「おいおい…いつまでお手してんだ、ここはサーカスじゃねぇんだぞ?ちったぁ頭使えよ、あ・た・ま。今のままじゃ一生当たんねぇぞ?」
俺の言葉を理解したのかしてないのか、再び怒り狂った雄叫びをあげたかと思えば、奴の真紅のツノが光り始める。
「やっと使ったか『
距離が空いていたせいか、体に肉体強化魔法特有の赤いオーラを纏ったキラーベアは身を屈めて四足歩行に戻り、大きな唸り声をあげて俺に突進して来た。
「肉も旨くしたところで…もうお前に用はねぇな。じゃあな『
俺はその場から一歩も動く事なく構えていると、四方八方から風の刃がキラーベアに襲いかかる。
その風の刃はキラーベアの片目を切り裂いたりツノに当たったり、全身くまなく切り傷を負わせたかと思えば、奴の片腕が一本斬り飛ばされて鮮血が飛び散る。
『グラアァアアッ!?!?』
「さっき木を斬るときに一緒に飛ばした斬撃だ。まぁ流石に命中精度に難ありだからな、それだけじゃお前を殺せはしない。だからこその―――三段構えだ。『
片目を潰され、片腕を斬り落とされて怯んだキラーベアは再び二足歩行に立ち上がる。それを狙っていたかのように俺は自身に強化魔法を3つ付与し、キラーベア目掛けて走り出す。
そしてその勢いのままキラーベアの胴体部分をドロップキックの要領で蹴り飛ばす。この身体じゃ普通ならキラーベアみたいな巨体は吹き飛ばせない、しかし強化魔法を施せばこの身体でも可能になる。
強化した俺に蹴られてキラーベアの体はくの字型に曲がり、苦悶に満ちた声をあげながら俺が斬り倒した大木の切り株がある場所まで吹き飛んでいく。
そしてキラーベアが切り株の上を通過した途端、何もない場所でキラーベアの首がザクっと斬り飛ばされた。
「『一点集中』…この技は文字通り一点に力を集中させる時の戦技なんだが…普通に使えば貫通力が上がったり、切断力が上がったりするだけだ。でも俺の場合はそれで終わらん、一定時間『一点集中』で斬った場所は近付いただけで斬れる設置型の不可視斬撃になる」
ドゴオォオオオンッ!とキラーベアの胴体部分が大木にぶつかり、首だけは軌道を変えて俺の方へと飛んで来る。
俺はキラーベアを吹き飛ばした場所に佇んだまま、飛んで来るキラーベアの首についたツノをしっかりと掴んでキャッチする。
「じゃあなキラーベア、
訓練場の入り口の近くでキラーベアの斬り飛ばされた首を持った俺は、血の匂いが臭すぎてそう叫んでしまった。
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