第2話 勇者の訃報 side:レイラ・ミルヴァ
「今…何と……おっしゃいましたか?」
ユウジ殿とバルコニーで話した翌日の朝、私たち勇者パーティメンバーは国王様より呼び出され、衝撃の事実を玉座の間にて国王様側近の近衛騎士から伝えられる。
『はっ…もう一度お伝えさせて頂きます…。我々の世界を魔王の脅威より救ってくださった異世界の勇者シドウ・ユウジ様がつい先程、城内のバルコニーにて殺害されているのを発見致しました…。あまりにも突然の事で自体が把握できておらず、この事態は現在城の一部のものしか知っておりません…』
(ユウジ殿が…死んだ……?あのユウジ殿が…??私たち勇者パーティの中でも最強の彼が…?何故…?どうして……?昨日会話をしたばかりなのに…………そんな…)
あまりに受け入れられない現実を突きつけられ、私は膝から崩れ落ちる。気がつくと私の頬には一筋の涙が伝い、胸の中から何かが消えてしまった喪失感に埋め尽くされる。
現在玉座の間に勇者パーティのメンバーは私ともう一人だけ…。残りの二人は一度目にユウジ殿が亡くなったと聞いた途端に遺体の場所を聞き出すと、決死の表情で走って行ってしまいました…。
「ふ…ざけんな……」
感情の整理がつかず呆然としている私の後ろから少し低い女性の声が聞こえ、私の横をズカズカと足音を鳴らしながら近衛騎士の方に向かって歩いていく音がする。
その足音の主は近衛騎士の胸ぐらを片腕で掴み、圧倒的な筋力で全身を強固な鎧に包まれた近衛騎士を軽々と持ち上げる。
「ふっっっざけんなっ!!!そんな事ある訳ないだろっ!!!アイツは…ユウジはなぁ!!俺に真っ向から勝てる唯一の男なんだぞ!?!?そんなアイツが…俺たちを置いてあっさり死ぬわけ無いだろうが!!!!」
『ひっ…し、しかし事実として勇者様は―――』
「それにさっきなんて言った…?殺害だと…!?アイツは転移魔法が使える!ピンチになる前に逃げることも出来たはずだ!!そもそもアイツ以外の勇者パーティが束になってやっとユウジ一人に勝てるくらいだぞ!?俺たち全員ですら無傷で勝てるわけもなく、しかもこの辺り一帯が更地になるくらいの大規模戦闘でだ!武装をしてなかったとは言え、そんなアイツが殺されるなんてあり得るものかああぁっ!!!!!!」
玉座の間に私たちのパーティメンバーの一人、全身を黒色のフルプレートで武装した女戦士―――グラディスの怒号が響き渡りました。その声を聞いて私も少しだけ意識を取り戻すことができましたが、目からこぼれ落ちる涙を止める事はできません。
普段なら『王の御前で不敬だぞ!貴様!!』と叫ぶあの宰相は不在で、本来であれば止めにかからなければならない他の近衛騎士たちも動こうとしない、むしろ彼らも硬く拳を握りしめています…。
彼らが止めに入らない理由は1つ…グラディスはあの騎士に向かって怒っているのではなく…溢れ出して止まらない行き場のない感情を嘆いているのが、この場の全員理解できているからでしょうね……。
「アイツが…どんな困難を乗り越えて……魔王を倒したと………なのにこんな…………報われねぇじゃねぇか…っ!!俺は…アイツに…何も返せてないのに……………」
グラディスの語気はどんどんと小さくなっていき、持ち上げていた近衛騎士をゆっくりと地面に下ろし「…すまない」と言い残して玉座の間から出て行ってしまいました。
「…余からも少しいいかね?レイラ殿」
「も、申し訳ございません陛下…私の仲間たちもあまりに突然の事で取り乱してしまいまして……」
先ほどまで呆然としていた私は慌てて片膝をつき、騎士として正しい佇まいに座り直す。…今も尚どうしようもなく悲しい、寂しい…私も今すぐに彼の元へといきたい……しかしそうも言っていられない。
◇
『もしさ、レイラ?俺がいない時とか…後はなんかあってそばにいてやれない時はさ、レイラにこのパーティのことを頼みてぇんだ。って言っても、全員自由に見えてもしっかりしてるし大丈夫だと思うけどな』
『…そんなことが起きない様にして欲しいですけどね、でもわかりました。ユウジ殿の相棒として…貴方が不在の時には私が皆の舵を取りましょう』
『おう、頼むぜ?俺の相棒兼サブリーダーさん』
◇
いつの日だったか…ユウジ殿が私に笑顔でそう言ってくれた事を忘れていない…。彼が私に課してくれた願いを…今こそ果たさなければ……今はもうこの世にいない彼のためにも…。
「よいのだ、この場は非公式なもの…それにそなたらは数え切れない程この国を…この世界を救ってくれた大恩人。その最たる勇者ユウジ殿が亡くなってしまったのだ…取り乱す事は当然のこと。…余もこう見えていまだに整理がついておらぬのだ…。彼には何も返せておらぬというのに………」
陛下は玉座に座ったまま天を仰ぎ、目元を手で覆って暫く経つと陛下の頬に一筋の涙が流れた様に私には見えた。
普段は威厳に満ち溢れている陛下も今は少し涙声が混じったもので、陛下も私たちと同じなのかもしれませんね…。
「…とにかくレイラ殿、本日行われる予定であった凱旋パレードであるが…設備の不備ということで民たちには中止を伝えるつもりだ。………レイラ殿も今とても辛い事は想像に難くない…暫くはゆっくりと自室で休まれるといい」
「…お気遣い感謝致します、陛下。では私はこれにて失礼いたします…」
ゆっくりと私は玉座の間から退室し、フラフラと城の廊下を歩きながら涙を流し続けました。
(ユウジ殿…今は……今だけは…私も貴方の死に向き合わなくてもいいでしょうか…。明日にはまた貴方が普段のおちゃらけた笑顔で…私たちの前に現れてくれるでしょうか…?)
そんな私の問いかけに答えてくれる声は、いつまで待っても聞こえる事はありませんでした。
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