勇者復活

第3話 ここはどこで、ゼルンって誰ですか???

「…―――ン!…… ―――ルン!!しっ―――ろ!!!」


 ん…なんだ?なんかオッサンの声が聞こえる様な…騎士団長のおっさんでもないし…国王……でも無いよなぁ…。


 でもなんとなくだけど聞き覚えがある様な無いような…でもどうせあれだろ?もう朝だから早く起きてくれっていうお城の騎士さんかなんかだろ?

 でもそれこそ変な話だ、こういう時は決まって俺の仲間が最低でも一人は起こしに来るはずだ。しかもメンバーのうちの一人は部屋に不法侵入してくるどころか、俺の横でグーグー寝てやがった事もあったな。


 それでレイラに2時間正座させられた時は理不尽だ!って訴えた事もあったね、まぁ「起こしに行って横で寝ていたあの子も悪いですが、そもそも私たちに起こされないと自分で起きれないユウジ殿が全て悪いんですよ?」ってニコニコしながら言われた時には何も言い返せなかったけどさぁ…?


 さて話を戻そう、起こしにきてくれた騎士さん(?)には悪いが俺は非常に身体中が痛い。特に前面の胸から横腹にかけてズキズキと…。

 眠いからかしらねぇけどマジでピクリとも動かせんわ、なんかに拘束されてたりする?眠いとはいえ俺が引きちぎれないって相当よ?神器級くらいのやつじゃ無いと無理だと思うんだけど???


 …はぁ、そういや凱旋だったっけ?気分は乗らないけど、俺だけの都合で参加しないわけにはいかねぇよなぁ…。仕方ねぇ、めちゃくちゃ眠いけど起きるか…。


「うぅ……」


「おぉ…ゼルン!?ゼルン!!!意識が戻ったのか!!!!おい!神官はまだなのか!?早く回復魔法を!!!」


 ゼルン…?ゼルンって誰だ?っていうか回復魔法って…そのゼルン君とやらが怪我でもしたのかね?お大事に…。

 さて俺も起きないと―――いっっっっっっっでぇ!?!?!?


「馬鹿野郎!動こうとするんじゃねぇゼルン!動ける様な怪我じゃ無いんだぞ!?」


 目を閉じたまま身体を起こそうとすると、俺の身体にとんでもない激痛が走る。こ…このレベルの痛みは…昨日の夜も似た様な激痛に苛まれた様な…。

 ま、まさか…―――尿路結石!?!?この歳でか!?!?!?


「ニョーロ…ケッ…セキ…?何言ってるんだゼルン…?……マズイな、まだ意識が朦朧としてるのか…?あっ…おーい!!!こっちだぁ!!!!!」


 やべ…口に出てたか…まぁいいや。俺はゆっくり目を開くと、俺の視界の端々には大きな青い空、いつも通り照らしてくる太陽の光を遮る様に誰かが俺の上に覆い被さっている。


「お待たせしてしまい申し訳ありません!その子ですか?オスカーさん?」


「あぁ俺の子だ!すぐに頼む!!」


「承知しました!天の女神よ…この者の傷を癒したまえ…『中級回復ミドルヒール』!!」


 俺の横に走ってきた神官らしき若い男の人がそう唱えると、俺の身体の痛みがスッと消え、代わりに多少の倦怠感が身体に押し寄せてくる。


「よかった…これでもう大丈夫だぞゼルン!立てそうか?それともおぶってやろうか?」


 回復魔法をかけられてちゃんと目が開く様になった俺がもう一度目を開けると、そこには如何にも厳つく、片目に古傷がついていて…色黒で…筋骨隆々で……ついでにハゲてて顎ヒゲが凄いおっさんが俺のことを見ていた。


 …いやうん、何この状況……。レイラとかの美少女からの床ドンならともかく、こんな筋肉髭ダルマにされても嬉しかねぇよ!!!アイツら起こし方のバリエーション増やしてきやがったな!?


 にしてもこんなおっさん城にいたか…?服装もこう…騎士が着る様な鎧じゃなくて冒険者とかが着けてる防具っていう感じだけど…?


「いや大丈夫…。わざわざ回復魔法まで使ってくれなくても自分で起きれましたよ…?」


「何言ってるんだゼルン!今さっきまでお前は致命傷を負ってたんだぞ!?!?」


「ゼルン…?誰のことですか?それ…?それに…ここはどこですか?城の近く…じゃないですよね?」


 おっさんを手で軽く押しのけ、寝転んでいた硬い地面から上半身を起こして周囲をキョロキョロと見渡す。

 すると俺たちのことを遠巻きに見ていた村人の様な人たちが俺を見て喜び、俺の近くにはもう一人…おそらく俺に回復魔法を使っていたであろう聖職者の若い男がひざ立ちをしている。


 そして周囲はまさしく田舎の村!という様な木造の建築様式の家に囲まれており、おそらく俺はその村の中心にある広場に寝かされていたのだろう。


 …なんなんだ?ここ…見たことのない場所だよな…?


「…ハンス……これは怪我の影響なのか…?なんか口調も変わってるみてぇだしよ…安静にしていれば大丈夫なのか…?」


「私にはなんとも…ですがおそらくキラーベアに襲われた傷の影響の可能性が高いと思われます…。私の魔法では傷を治せても精神を癒すことはできませんから…」


「そうか…いや、ハンスは悪くねぇんだ。むしろ俺の息子を助けてくれてありがとよ。とりあえずはゼルンを休ませることにするわ」


「えぇそうしてください。私が使える魔法では失った血液や蓄積した疲労、精神ダメージまでは元に戻せませんから…今日ゼルン君は安静にしてあげてください」


 俺が呆然としていると深刻そうな顔で何かを話し合っているおっさんとお兄さん。


「とりあえずアレだ、お前もゆっくりしないと本当の意味で回復したとはいえないからな。家まで運ぶぞ?ゼルン」


 俺の返事を待たずにおっさんは俺の身体を軽々と持ち上げ、初めてのお姫様抱っこをされる側になってしまった…。しかもこんなムキムキのハゲオヤジって…………。


 っていうか本当にここはどこなんだよ!?!?

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