勇者から再転生したので今度は気ままに生きようと思う。…なぜか上手くいかないのは気のせいだよな?
笹鬼
序章 死んだら別人に転生しました
第1話 勇者という人間
「はあぁぁぁ………………憂鬱だ…実に憂鬱だぁ……」
煌びやかでファンタジーチックな洋風の巨大な城のバルコニー。そこに一人、俺ことこの世界を魔王の脅威から救った異世界の英雄にして『勇者』の称号を持つシドウ・ユウジは、パーティーが終わった後の会場の外で夜風に当たっていた。
外はすっかり夜の帳が下りているにも関わらず、眼前に広がる大きな城下町には多くの生活の光が灯っている。
時刻は夜の10時半くらいだろうか、まだ寝るには早いもののこの世界の多くの人たちは自分たちの仕事の為、また治安が俺がいた世界の国ほど良くないから自衛の為にも外に出たりする人は減る時間帯だ。
しかし今日に限ってはそのようなことも忘れているように、今も尚この国の人間たちは俺たちが成した偉業を称え、祭りを続けているようだ。
改めて自己紹介をしよう、俺はシドウ・ユウジ。本名は
この世界に来る前に俺は多分一回死んでるんだ、召喚される前の最後の記憶って言ったら家へ帰る途中のアパートが火事になってて、外でだれかの母親っぽい人が『中にまだ私の子が!!私の子が取り残されてるんです!!!放してください!!!!』って叫んでるのを聞いていてもたってもいられず……後先考えずにバケツの水を頭から被って燃え盛る炎の中を走って…二階の燃えてる部屋の中で倒れてる男の子を担いでから出ようとしたんだ。
後一歩で出られるってところで焼け落ちた天井が一部俺の背中に崩れてきて、身動きが取れなくなったんだ。それで飛び込む前にあった大きなマットみたいなところ目掛けて男の子を投げたまでは覚えてたんだが………それからの記憶が無い。
なんか女性の声が聞こえたような気がして、気がついたらこの国の王様たちの前に勇者として召喚されてたって訳。
そこで国王様に勇者として魔王を討って欲しいっていうお願いを断りきれず、その話を受けてからもう5年くらい経つのか…。紆余曲折あって無事俺たちは魔王を討伐し、その祝いとして王都の住民に限らずこの世界の人間たちは喜んで祭りを開き、俺たちもここ最近ずっとお偉いさんとの会食やらパーティーやらで…心身ともに疲れはてている。
「この窮屈な服装と佇まいやらマナーやらを気にしなくてもいいってんならまだ良いんだが……そうもいかねぇんだなコレが」
一応俺は魔王を倒した英雄なんだ、だからこそ俺が祝いの席にいないというのはおかしな話になる訳で…毎回毎回勇者パーティーのアイツらに口うるさくちゃんとしろと言われながらも戦争後の勇者として役目を果たしている。
「はあぁぁぁぁ…………もう休みたい…。一日中ベッドでゴロゴロして自堕落な生活をしたい…もうしばらく外でたくない……」
「なにを言っているのですかユウジ殿、むしろこれからが本番なのですよ?明日は王都の民たちの前で凱旋パレードが行われますし、暫くは休んでいる暇などありませんよ?」
「ん………なんだレイラか…もうお貴族様との話は良いのか?」
「何だとは…ふふっ、相変わらず貴方はおかしな人ですねユウジ殿。私を前にそんな態度を取るのは、仲間たちと貴方しかいませんよ?……それに話はもう終わりましたよ、全て縁談や求婚のお話でしたので全てお断りしてまいりました」
紅色の綺麗なドレスに身を包み、月明かりを受けて綺麗に光る美しく長いブロンドの髪を夜風になびかせながら、俺の後ろから声をかけてきた翡翠色の瞳を持つ非常に美しいこの女性はレイラ・ミルヴァ。俺が率いる勇者パーティのホーリーナイトという希少なポジションを担っている参謀的な役割の俺の仲間だ。
その美しい容姿と頭の回転の速さに加えて圧倒的な実力、戦闘では自身の身体から天使のような大きな4枚羽根を生やして、他の追随を許さない機動力を誇る彼女はその戦いぶりを見た人々から『天姫』と呼ばれている。
俺がこの世界に来て一番最初に仲間として迎え入れた人物であり、俺も知らなかったんだが貴族の中でも随分と位の高い令嬢様なんだそうだ。
彼女には最初から最後まで俺の右腕として、そしてパーティの頭脳として貢献して貰った分俺は彼女に頭が上がらない。態度は変えないけどな。
「またそういう系の話か、もうこれで何回目だよ…100回は確実に超えてるよな?」
「そうですね、私の記憶が正しければ783回程でしょうか。勿論全ての求婚や交際の申し出を足せば…ですが」
「お、おう…大変そうだな…?」
しれっと物凄い数字を聞かされた気がする。にしてもモテる奴はどこの世界でもモテるらしいな、俺なんて世界を救った英雄だってのに全くモテない。
モテたと思えば俺と縁を持ちたい貴族が下心ありきの縁談しか送ってこないし、その手紙なんかも気が付けばどこかに消え去っている始末。
故に実年齢22になるくらいだと言うのに俺の生活は戦闘と人助けのみ…。この世界に来ても恋愛とは無縁の非モテ勇者ですよ…。
俺の目の前にいるレイラは俺よりも4つ程年下だというのに落ち着いた雰囲気で、さぞ経験も豊富なんだろう。世界が変わってもこういう所は不公平だよな……。
勇者としての能力もチートで最初から最強!なんてことは一切なかったし、何ならこの世界に来た当初は一番下の兵士の人にもボコボコにされるくらい弱かった。…思い出したくも無いわ、あんな地獄の訓練の日々なんざ。
「何だ、レイラはそういう話に興味ないのか?もう勇者パーティとして戦う必要も無くなったんだし、俺以外のメンツは全員女子だったからそろそろ結婚を見据えてもいいと思うんだが…」
「興味がない訳ではありませんし、むしろ私たちの望みが叶うのなら今すぐにでも結婚をしたいくらいですよ?赤ちゃんも沢山欲しいですし…その前に世界中を旅するなんていいかもしれませんしね」
そう言いながら俺の横まで歩いて来たレイラは暫く城下町を見てから、ニコッと俺の方に笑顔を向けた。
「ほーそうか、随分と理想が高いんだなウチのパーティ女性陣達は。いいよなぁモテる側の存在は、俺だって可愛い女の子とイチャイチャしたりした―――って…いてぇ!?何すんだレイラ!?本気で痛い!いででででっ!!!」
俺の横にいるレイラはニコニコと笑顔を浮かべてはいるが、背後に鬼の顔が見えるほどの気迫を発しながら俺の耳を引っ張っている……何で怒ってるんだよ!?
「はぁ…全く私たちがどんな思いでいると思って………コホンっ…それはそうとしてユウジ殿?明日は朝が早いですからね?しっかり起きてくださいよ?」
「わ、わかってるよ…正直絶対凱旋に出たくないけど!ずっと寝てたいけど!!ちゃんと起きるよ…」
「それならいいです、では私は仲間達にも情報を共有してまいりますので、ユウジ殿もある程度休息なされたら屋敷に戻って来てくださいね?あ、あと私さっきのこと許してませんからね?」
「さ、さっきのこと?」
「わからない事はもうわかってますから、暫く悩んでから帰って来てくださいね!それでは!」
そう言い残してレイラはやって来た方向にある扉を開けて帰っていった。取り残された俺は一人、再びバルコニーの手すりにもたれかかり城下町を見下ろす。
「はぁ…レイラはいつもおっかねぇなぁ…。俺以外には完璧超美少女って感じなのに…まぁそれだけ俺に気を許してくれてるってことかな」
彼女は俺の仲間の最古参だ、冒険の初期からともに行動している事もあって互いに迷いなく背中を預けられる相棒でもある。勿論他のメンバーでもできるが、一番最初にできるようになったのは彼女だ。
「さて俺も帰りながらレイラの言葉を考…がえ…………ぐぅっ………ごはっ……な…なん…だ………?」
突如として俺の身体中に無数の刃で貫かれ、内部から焼かれながら串刺しにされるかのような痛みが駆け回り、口からは大量の吐血をして前向きに倒れ込む。
(お、おかしい………お…れは……ありと…あらゆる…………状態…異常の………完全耐性…が……………あ…あ…これは……死ぬ…な………)
激しい痛みと朦朧とする意識の中、倒れこんだ地面から見上げて映った霞む視界に3つもある光り輝く満月。それらを最期の景色と確信しながら俺は心の中で謝罪する。
(すま……な…い………レイ…ラ…………みん…な…後は…………もう…俺が…いなくても… なん…とか………―――)
そこで俺の意識は消え去り、後に勇者シドウ・ユウジの訃報が世界中を駆け巡った。
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ちゃんとした異世界ファンタジーものの執筆は初めてです。続くかはわかりませんが、続いたならよろしくお願いします。
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