一七話
天牙達が家に着くと、イルドが笑顔で言ってきた。
「汗を流したいからシャワーを借りるね。覗いてもオッケーだし、乱入してきてもいい。また浴びた水を美少女の出汁として飲むのは……アリだからね」
イルドは靴を脱ぎ捨てて風呂場へと駆けて行った。
天牙は散らばったイルドの靴を揃える。
「……そもそも飲む発想すらねぇって」
風呂場に行く足をぐっと堪えて、天牙はベッドがある一室へと移動する。
天牙はベッドに腰かけると、そのまま寝転んだ。
男がベッドで待っていて、異性が先にシャワーを浴びているこの状況。中々に気まずい。
シャワーの音が止まり、天牙はむくりと上体を起こす。
イルドが風呂場から出てきた。
「天牙く~ん、これって誘ってるみたいだね」
イルドはバスタオルを胸元まで巻いており、それ以外の服は着ていなかった。首にタオルをかけており、体から少し蒸気が出ている。
イルドはキッチンへと移動し、冷蔵庫から牛乳を取り出すと、コップに注いだ。
「ふぅ。風呂上りにはやっぱり牛乳だよね。白くて濃いし、牛の乳から出ている所もポイントが高い」
口の端から白い水滴がツーと垂れ、イルドは舌で舐めとった。
湿っている髪は妙に艶っぽく、白くてもっちりとした肌は欲情をそそる。
「……お~い、天牙くん?」
ぷるっとした唇。造形の整った綺麗な顔。僅かに赤らんでいる頬。
天牙はごくりと喉を鳴らした。
やべぇな。
普段であれば「牛乳でも下ネタにいけんのかよ」などツッコミをする天牙であったが、イルドの妖美な姿に、抑え込んでいた欲望が溢れそうであった。
天牙は歯を食いしばり、視線を下げた。
もう、いいかな……?
欲望の限界がきた天牙。彼の瞳はギラギラとしており、昂っているのが分かる。
イルドは天牙の前に立ち、顔を覗き込んでくる。
「さすがに無視されると、私だって寂しいんだけど」
頬を膨らませて抗議の視線を向けてくるイルド。そんな彼女に天牙は手を伸ばす。
ゆっくりとした動作。イルドの首筋に天牙の手が近づいていく。
イルドは僅かに肩を震わすと、目を閉じて顎を少し前に出す。
天牙の指先が、イルドの肌に触れた瞬間。
天牙に激痛が走った。
「ぎやあああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
神経を直接針で刺されたような痛み。
天牙はイルドから手を離して仰け反ると、そのままベッドに背を預けた。
こ、これはっ、一体っ……⁉
冷静さを取り戻した天牙。彼は感覚を研ぎ澄ませると、痛みの原因を理解する。
「お、俺のアレに何かしてないか?」
「……え? 別に何もしてないけど」
イルドは胸元から魔法杖を取り出す。棒状の部分に金輪がついていた。
「何これ?」
イルドが金輪を外そうとすると、再び天牙に激痛が走る。
イルドが慌てて外すのを止めると、天牙が感じた痛みはピタッと止まった。
天牙は息が荒くなりながらも、首を起こして魔法杖についている金輪を確認する。
「それ、孫悟空がつけられてたやつじゃねぇか……?」
天牙はアニメや漫画などで、その金輪に似ているものを知っていた。
中国の古典文学である西遊記。
その主人公である猿、孫悟空につけられた金輪は、緊箍児とも称されて、呪文を唱えると締め付けられるため、孫悟空は悪さが出来なくなったという。
「これ外せねぇのか?」
「私には無理だね。これも魔法杖の一種だと思うけど、つけた本人じゃないとダメっぽい」
「それじゃあ誰が――いや、アイツだな」
天牙の脳裏に毒舌親バカ妖精の姿が過る。
「たぶん、それで合ってると思うよ」
イルドは「あはは……」乾いた笑いをした。
「とりあえず、イヴが帰ってくるまでお預けだね。残念だけど」
ふと、イルドは試すような口ぶりで、
「これって、私が触った場合はどうなるのかな」
イルドは天牙の着ていた服をまくり、ゴツゴツとした腹に手を置く。
天牙は反射的に目を閉じて、
「い、いた……くない?」
恐る恐る開ける。
イルドは妙に艶っぽい口調で、
「私から触れるのは大丈夫そうね」
ボソッと呟いた。
どうやら、天牙から触れるのはダメらしいが、イルドから触れる分にはセーフのようだ。
イルドは悪戯っぽく笑うと、両手で天牙の腹をさわさわと触り始める。
最初は腹だけだったが、徐々に上へと滑らせていき、天牙の胸に触れる。
「はぁはぁ」と艶めかしい吐息をしながら、天牙の胸筋を揉みしだくイルド。
そんな彼女を見て、天牙は思った。
立場逆じゃね?
少しでも動けば天牙からイルドに触れたことになるので、天牙は全く動けない。
天牙がイルドの淫靡な手の動きに耐えていると、どこからともなく風が流れてきて、イルドのバスタオルが床に落ちる。天牙は目を見開いた。
モザイクがかかってる……?
イルドは裸になった。美しい乳房が露わになるが、先端の部分が光の粒子で隠れていた。しかも股の部分も光の粒子で隠れており、イルドの大事な所が見えなくなっている。
イルドはバスタオルが無くなったことに気づき、
「きゃっ」
と、可愛らしい声を漏らした。慌てて落ちてあるバスタオルを回収し、体に巻いた。
イルドの局部を隠していた光の粒子は、イルドから離れて一つにまとまっていき、
「……《亜種》が……いた」
唖然とした表情をするイヴが姿を現した。
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