一四話


「……元に戻ったけどさ、色々と距離感がバグってね?」

「前よりも仲良くなったんだし、天牙くんに近づくのは当たり前でしょ?」


 天牙の腕をはイルドの双丘に挟まれていた。

 心地よさそうに喉を鳴らすイルドを見て、天牙は緩む口元を抑え、イルドから視線を外した。


 このときばかりは、俺のアレが無くて良かった……。

 周囲の視線を集めながら、天牙とイルドが次に向かったのは、


「天牙くん、今度はここに行きたい」

「ド○キ・ホーテか……さっきから中古店だったり激安店だったり、金があんまり無いのか?」

「大企業の令嬢に喧嘩売ってる……?」


 イルドが懐からブラックカードを取り出したため、天牙は頭を下げた。

 ドン○・ホーテとは激安の殿堂で有名な店である。


 入口にあるペンギンの銅像を通り過ぎ、天牙とイルドは店内に入る。ブックオフと同じように色々な物が売っている。


 天牙はイルドに引っ張られるまま進んで行き、階段を上る。

 二階には家電や衣服などが売っており、天牙達は奥に進んで行く。


「……この流れ、嫌な予感がするんだが?」

「何度やっても飽きないのが、えっちなことの良い所だよね‼」


 イルドの引っ張る力が弱まらないので、天牙は辺りを確認し、周囲に人がいないのを確認する。そして数字と英語が書かれている暖簾をくぐった。


「年齢確認されたら、どうするんだ?」

「さっきの店のこと忘れたの?」

「……まさか、この店も顔見知りだったりするのか?」


 イルドは無言で監視カメラにダブルピースをした。

 天牙は察した。二人は棚に陳列している商品を見る。


 美少女とR18コーナーで二人きり。何も起こらないはずもなく……、


「見て見て、天牙くん! この新発売のヤマタノオロチンチンって凄くない⁉」

「そんな満面の笑みで見せつけないの。かなりカオスだから」


 バナナのようなキュウリのような太くて長い棒。それが八本ついている機械を見せつけてくる。天牙はそれを見て、


 ……俺の方がデカいな。


 天牙は棚に陳列してある物を見る。玩具やコスプレグッズもあるが、天牙の目を引いたのは、赤と白の縞模様のやつ、通称オナホである。

 噂では知っていたが、直で見るのは初めてだ。

 

 天牙はイルドにチラっと視線を向ける。イルドは棚に並べてあるコスプレグッズに目を光らせていた。


 少し触るだけだ。店員が女性だったら買わない。イルドと別行動するまでは買わない。

 と、天牙は心の中で言い訳をする。


 天牙がオナホに手を伸ばし――触れてもないのにオナホが半回転――オナホに人の口が生えてるのを見て、動きを止めた。


「……最近のオナホって、変な装飾がされているのか?」


 オナホについている口が開き、渋めの声で告げてくる。


「ヘイ、そこのボーイ! 俺様とドッキングするつもりはないかい?」

「最新の技術ってすげぇな」

「天牙くん、それ怪人だね」


 イルドは天牙の横に立ち、懐から魔法杖を出す。光の粒子が集まってきて、如意棒の形になる。


「力が弱すぎるから、全然気づかなかったけど、まさかこんな所に潜んでいるなんて……」


 イルドがオナホに向かって魔法杖を振りかぶると、オナホに手足がにゅっと生えて魔法杖を避けた。オナホは飛び上がり、天牙の股に突っ込んでいく。


 オナホは天牙の股間と合体しようとするが、


「このボーイ……ない?」


 空振りに終わり床に落下する。

 オナホの怪人は床に倒れる。


「言っておくが、君達よりも前に数人の客が来ている。そして俺様は本体じゃなくて分体だ。この意味が分かるか――」


 天牙は怒りを滲ませた笑顔を浮かべ、ドスの効いた声で言う。


「一人で自由に性欲を発散することが出来ないこの気持ち、貴様に分かるか?」


 ブチッ。天牙はオナホの怪人を踏み潰した。


「……どっちが悪役なのか分からないね」

「魔法少女と怪人。正義は俺達にあるっ‼」


 ひと段落した所で、天牙とイルドは暖簾の外が騒がしいことに気づいた。

 天牙とイルドがR18コーナーを出る。


 店内では悲鳴と奇声で溢れていた。


 奇声を発しているのは男性の店員や客。彼らは下半身がすっぽんぽんで、股の間にオナホを装着していた。オナホには口がついてあり、そこから奇声が出ている。


 悲鳴を上げているのは女性の客や店員。彼女達が二階から一階へ逃げていき、男性達が追いかけていく。一階から悲鳴と奇声が聞こえてくる。

 そんな中、光の粒子が風のように流れてきて、小さな人の形になっていく。


 イヴが姿を現した。 


「大丈夫、イルドちゃん‼」

「イヴ⁉ 用事があるんじゃなかったの⁉」

「それはもう終わった。それよりも、この怪人をなんとかしないと……」


 イルドはコクリと頷き、魔法少女に変身した。赤紫色のドレスを靡かせながら、天牙と共に一階に降りる。


 一階ではオナホ怪人に寄生された数人の男が、近くにいる女子高生に襲い掛かろうとしていた。


 イルドが魔法杖をぐっと握ると、背後から拡声器のような形をした魔法杖が出てきた。


「天牙くん、耳閉じて‼」


 天牙は耳を塞ぐ。イルドは深く息を吸い込み、思い切り叫ぶ。


 店内中に響く音。店内にいた人々が一斉に倒れる。

 天牙は耳から手を離し、イルドに問う。


「何したの?」

「全員えっちな夢を見るようにしただけ。かなり性欲を使うから、あんまり使えないけど……」


 天牙はオナホの怪人を一瞥する。


「これで終わったらいいんだが……」


 イルドと天牙は店から出た。


「……そうはいかないよな」


 ショッピングモールは大パニックになっていた。逃げ惑う人々。それを追いかける下半身裸の男達。彼らに捕まった男が一人、また一人と股の間にオナホを装着し、逃げ惑う人々を襲い始める。


「イルド、このままだとオナホに寄生された男達によるパンデミック。略してオナホパンデミックになっちまう‼」


 イルドは魔法杖を地面に叩きつける。


 叩きつけた部分を中心に、光の粒子が波紋上に広がっていく。ショッピングモールを包むようにした出来た結界は寄生されていない人を通し、寄生されている男を通さない。


「これでショッピングモールから外に出ることは無い。……天牙くん、あとは任せたよ」

「ん? 何を任せんだ?」

「寄生するタイプの怪人は、本体であるオリジナルを倒さない限り永遠に増殖し続ける。本体はこのショッピングモールのどこかにいるはず。私が分体を何とかしている間に、天牙くんは本体を探して欲しい……」

「俺が他の奴らの注意を集めればいいんじゃないのか?」

「今回ばかりは数が多すぎる。私が出来る限り分体の注意を引き付けるから、天牙くんは本体を探して、私の方に持ってきてほしい」

「……分かった。だが、無茶はするなよ」


 天牙とイルドは互いの顔を見る。


「それじゃ、頼んだよ! ……あっ、それと魔法杖には私の性欲を多めに入れて、天牙くんとの感覚を消しておくから、安心してねっ!」


 イルドはショッピングモールの二階から一階に飛び降りる。周囲にいたオナホの怪人達がイルドに寄ってくる。イルドは幾つもの魔法杖を生成し、操作。怪人を一方的に蹂躙する。


 イルドの派手な大立ち回りに、ショッピングールにいるオナホの怪人達が次々と酔ってくる。イルドは額に流れる汗を拭い、不敵に笑う。


「さて、どうやって処理しようかな……」

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