八話


 天牙は誰もいない海水浴場を見渡した。

 潮の匂いが香る海。不法投棄されたゴミが散らばる砂浜。薄汚れたベンチ。


「……こんなところに怪人はいるのか?」

「天牙くん、あそこに落ちているのってラヴドールじゃない?」

「イルドちゃん、あれはワカメまみれのカーネ○サンダースだよ」


 イルドとナホは落ちているデカめの人形に興味を示している。


「ナホは怪人退治に来ないのか? 魔法少女について知ってるみたいだし……」

「ナホは怪人にトラウマがあるからね。それでも役に立ちたいって土下座されたから、情報収取を任せてるんだ」


 イルドは深呼吸をすると、神経を研ぎ澄ませる。スッと水平線を指す。


「海の中に怪人がいるね。だけど、広すぎるからこっちに気づいてない」

「……怪人を誘き寄せることは出来るのか?」

「怪人の性欲を刺激すればいいはず。海に出る怪人なんだから、やることは何となく分かってるよね?」


 天牙達は砂浜を進み、波が足元に届くくらいまで海に近づいた。

 イルドは水たまりで遊ぶ子供のようにぴちゃぴちゃと波を踏む。


「さて、天牙くん。ここからえっちな展開にするにはどうすればいいんだろう?」

「知らねぇって」


 イルドは頬を膨れさせながら、不服そうに天牙をじーと見る。イルドは屈むと、天牙に海水をぶっかけた。


「これが本当の濡れ場だぜっ‼」


 ドヤ顔を浮かべるイルド。彼女は天牙に海水を浴びせ続ける。

 全身がびしょ濡れになっていく天牙。

 彼は穏やかに笑いながら、淡々と告げた。


「……やり返される覚悟はあるよな?」


 天牙は両手を下げて海に突っ込むと、勢いよく振り上げた。

 小さな津波が起きる。イルドは波に流されることは無かったが、頭から海水を浴び、全身がびしょ濡れになった。


 天牙は自身の肉体の変化に驚きつつも、溜まっていた鬱憤を少し晴らせて満足したが、すぐに後悔した。


 イルドは濡れたことで下着が透けていた。黒と白のレースによる大人なランジェリーな下着を見てしまい、天牙はゴクリと喉を鳴らす。


 イルドは耳を少し赤くしながら、満足したような笑みを浮かべていた。


「ま、まあここまでやれば怪人も来るでしょっ!」

「イルドちゃん、あとで魔法杖を千切りにしましょうね」


 イルドは魔法杖を取り出すと、魔法少女に変身する。

 イルドの背後に魔法陣が展開され、大人の玩具の形をした魔法杖が幾つも生成されていく。イルドは期待するように言う。


「さて、今回の怪人はどこかな?」


 イルドの言葉に反応するように、海から怪人――いや、無数の触手が生えてきた。

 イカのようでタコのような触手はぬるぬるしており、人間くらい簡単に捕縛できそうなほど巨大で、海の怪物であるクラーケンを彷彿とさせる。


 にゅるりと全ての触手が天牙達の方に向かってきた。


「今回は触手の怪人みたいだね。だけど、これは《亜種》じゃない。さっさと終わらせましょう」


 イルドは魔法杖を構えると、半球状の障壁を展開する。

 大人の玩具の魔法杖が宙に浮き、縦横無尽に飛び回って、触手を破壊していく。だが、海から次々と触手が生えてきて殲滅することは出来ず、障壁に触手がまとわりついてくる。


「天牙くん、ちょっと頭を下げててねっ」 


 イルドは如意棒型の魔法杖のサイズを物干し竿くらいの大きさにすると、障壁を解除した。


 イルドは一回転する勢いで魔法杖を横に薙ぎ払う。天牙は咄嗟に頭を下げる。

 円を描くように振られた一閃は、まとわりついていた触手を消し飛ばした。

 光の粒子が魔法杖に吸収されていき、天牙は股の間にムズムズと妙な違和感を覚えた。


「あのさ、俺のアレがムズムズするんだけど」

「怪人の性欲を吸収すると色々とパワーアップするからね。感度が敏感になってもおかしくないよ」

「……マジかよ」


 イルドは再び障壁を展開する。障壁に触手がまとわりつき、再び障壁を解除して触手を消し飛ばす。何度も繰り返しながら、少しずつ生えてくる触手が減ってくる。


 その間、天牙は徐々に魔法杖の感覚が分かるようになってきた。


 意識を集中させれば、何となく握られているのが分かる。色々と溜まってるから、これくらいの刺激でもマズい気がする。


 障壁を展開するのが10回を超える頃、天牙は肩で息をしながらイルドに問う。


「あ、あとどれくらいで倒せそうだ?」

「このままいけば一時間くらいかな。触手の性欲を吸収してるから、こっちの性欲が尽きることはないし……」


 天牙が頭を抱えながら屈むと、背後から妙な気配を感じた。後ろを振り返ると、砂浜から触手が出てきて、イルドに迫っているのに気づく。


「イルド、危ない‼」


 天牙はイルドを突き飛ばす。イルドが海に尻餅をつく横で、天牙は触手に拘束された。全身にローションを塗られたような感覚に、嫌悪感を覚える。


 触手に捕まった天牙は宙に持ち上げられる。高所恐怖症でない天牙も、十数メートルほどの高さには体がすくんだ。


 天牙が上下逆さになって、触手でぬるぬるにされている中。イルドは触手を薙ぎ払いながら、天牙の元に向かっていた。


「天牙くん‼」


 だが、魔法杖を持っていた方の手首を触手に拘束され、勢いと衝撃が殺される。触手は消し飛ぶことはなく、そのままイルドを拘束した。


 触手で全身がぬるぬるになったイルドは魔法杖を奪われ、光の粒子と共に変身が解除されていき、大人の玩具の魔法杖も消えていく。


 イルドの胸から顔を出したイヴ。


「イルドちゃん、アイツを生贄にしてひとまず退散しましょっ‼」


 イヴも触手に捕まり、イルドと同じように触手で拘束される。

 触手は魔法杖をにゅるにゅるとしごく。魔法杖のサイズが小さくなっていく。


 天牙は悶絶する。


「おふぅ」


 久しぶりに味わう下腹部の快楽。そして初めて味わるぬるぬるのしごき。


 天牙は痙攣しながら、必死に堪える。血が滲むほどに下唇を噛みしめて、全身に力を込めていると、触手でぬるぬるされているイルドが視界に入った。


 イルドは顔を真っ赤にしながら喘いでいた。


「あっ、もう、らめっ……」


 天牙は我慢の限界を迎えた。


 絶頂。


 天牙の全身に快楽が走り、それと同時に小さくなっていた如意棒型の魔法杖が輝きだして――白い光線が発射された。


 光線を浴びた触手はドロドロに溶けていき、光の粒子となって消えていく。

 光線が斜線上にいたイルドにぶっかかる。白い液体でベトベトになったイルドの元に、萎んだ魔法杖が落ちてくる。


 イルドは無言で小さい魔法杖を両手で握りしめた。


「魔法杖・生成――《独りよがり・慰めるもの・幾たびの夢》――」


 触手だった光の粒子も集まってきて、イルドは魔法少女に変身する。

 背中には白い液体で生成された羽が生えており、宙に浮いている。


 イルドは魔法杖を構えるち、勢いよく振り下ろした。

 海が割れる。


 触手の怪人の本体が露わになる。イカやタコが合体したような怪人で、気持ちの悪い口をしている。獰猛な叫びをあげており、イルドを捕食しようと触手を伸ばしてくる。


 イルドが如意棒型の魔法杖に力を込めると、触手の怪人を囲むように魔法陣が無数に展開され、大人の玩具の魔法杖が生成される。


 魔法杖は一斉に触手の怪人に降り注ぎ、おっさんの絶叫が響き渡る。

 海の割れが消えると大きな波が起き、天牙は砂浜に流される。


「い、一件落着だな……」


 天牙が安堵の息を吐いていると、浮いていたイルドが下りてくる。

 白い液体でベトベトになっているイルドは顔を真っ赤にしながら、近づいてくる。


「イルド、お疲れ様――」


 天牙はイルドにボディブローを喰らった。

 腹を押さえて膝をつく天牙。そんな彼を見るイルドは涙目であり、乙女のような初々しさがあった。

 


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