プロローグ2


「手を離しやがれ、木偶の棒……‼」


 天牙はイヴに腕を噛まれて、イルドと握っていた手を離した。


 イヴは不機嫌そうにため息を吐きながら、倒れているおっさんに視線を向けると、イルドに耳打ちする。


「(さっさと怪人に止めを刺して、ここから退散しよう)」


「あの変態、まだ生きてるのか?」


 聞き耳を立てていた天牙。彼は会話から不穏な情報を知り、驚愕に満ちた表情をする。


「喋るな、口臭排水溝」

「ちょっとイヴ‼ しばらくハウス‼」


 イヴはしょんぼりとしたようすでイルドに谷間に戻っていた。


「ごめんね天牙くん。イヴはちょっと過保護なだけで、根は素直だから」

「大丈夫だ、気にしないでくれ」


 あとで色々とする予定だから(笑)。

 イルドは怪人を指しながら、説明する。


「地面で倒れているのは、変態じゃなくて怪人。細かい説明は省くけど、悪いヤツっていう認識で大丈夫。怪人を倒せるのは魔法少女だけらしいけど、私以外の魔法少女は見たことも聞いたこともないんだ……」


 天牙はおっさんの尻に刺さっている、複数の鉄球が一つに繋がったものを指す。


「尻に刺さってるのはなんだ?」

「魔法杖だね。魔法少女専用のアイテムで、怪人を倒せる唯一のものなんだ。イヴが言うには魔法少女によって種類とか力が異なるみたい」


 イルドが説明する中、天牙はおっさんの尻に刺さっている魔法杖の形状に驚いていた。


 あれ、大人の玩具だよな。


 複数の鉄球が一つに繋がっているもの。どう見ても大人の玩具にしか見えない。


「この魔法杖は、対象の特定の穴に入れると、対象の動きを封じることができるのです!」


 話半分に聞いていた天牙。彼が適当に相槌していると、


「むむっ、その反応は信じてませんね。だったら……」


 イルドはおっさんの尻から、複数の鉄球が一つに繋がった魔法杖を引き抜く。


「試してみます?」

「え、遠慮しときます……」


 イルドが頬を膨れさせて抗議してくるが、天牙は断固として拒否する。


 さすがに、おっさんと尻穴兄弟になりたくない!


 それにしても魔法杖って凄いな……穴に入れるだけで、相手の動きを封じるなんて。穴に入れるまでが苦戦しそうだけど、一度でも入れてしまえば、抜かない限り無敵だもんな……ん? 抜かない限り?


「オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 脳が揺れるほどの音の振動。


 天牙は頭を押さえながら、おっさんに視線を向ける。

 倒れていたおっさんはゾンビのように立ち上がり、咆哮を上げている。


 おっさんは大きく口を開くと、イルドの手ごと魔法杖を咥えた。


「きゃあっ⁉」


 イルドは甲高い悲鳴を上げながら、おっさんの口から手だけ引っこ抜いた。


「イルドちゃん、魔法杖を離したちゃダメ‼」


 おっさんから汚い咀嚼音が鳴り響き、ごっくんと飲み込む音がした。

 おっさんの穴という穴から白い液体が噴き出し、おっさんの体が小さくなっていく。赤ちゃんサイズのおっさん――いや、本物そっくりの赤ちゃんになった。


「キャッキャッ」


 おっさんが地面を叩くと、空中に哺乳瓶がポンッと魔法のように出てくる。次々と哺乳瓶が出てきて、空中には百を超える哺乳瓶が浮いている。


 おっさんがイルドを指すと、全ての哺乳瓶が弾丸のように発射された。


 イルドは指を鳴らし、半球状の薄紅色の障壁を展開する。ドームのように広がった障壁はイルドと天牙を包み、降り注ぐ哺乳瓶を防ぐ。


「魔法杖が無くても、意外と大丈夫みたいね」

「……そうじゃないのよ、イルドちゃん」


 イルドの谷間から、イヴが切羽詰まったようすで告げてくる。


「イルドちゃんは残っている力を使っているだけなの。魔法杖が無いと魔法少女の力は引き出せない。このままだとイルドちゃんは魔法少女の力を失ってしまうわ」


 イルドは苦笑する。イルドは腕を伸ばして障壁を維持しようとするが、その腕はプルプルと筋肉痛のように震えている。


 障壁に亀裂が入った。

 すると、イルドの着ている服が、足先から少しずつ光の粒子となって消えていく。


 イルドは怪人から視線を外さず、天牙に尋ねる。


「天牙くん、一つだけ助かりそうな方法があるんだけど……」


 言い淀むイルドに、天牙は力強く告げる。


「俺が出来ることなら、何でもやってやる」


 天牙の拳は震えている。

 まだ怖いけど、これ以上女の前で怖気づくのは末代までの恥だ!


 イルドは天牙に視線を向け、頬を赤らめながら問う。


「本当にいいんだね?」

「男に二言は無い」

「イルドちゃん、いったい何を……?」


 イルドは天牙に手を伸ばして――天牙が履いていたズボンをパンツごと破り――モロ出しになった天牙のアレを掴んだ。イルドは生々しい体温を感じながら、力強く握りしめる。


「あふっ⁉」「イ、イルドちゃん⁉」


 天牙は初めてアレを他人に握られた感覚に声を漏らす。イヴは絶叫する。


 イルドは呼吸を整えると、勢いよく天牙のアレを引っ張った。


「ちょっと失礼」


 きゅぽっ。


 トイレの詰まりを解消したすっぽんのような音。


 イルドは「これならいけるっ……」と自信ありげに呟くと、壊れる寸前の障壁を解除し、おっさんと対峙する。

 イルドの手には、天牙の股から離れた天牙のアレが握られていた。


「魔法杖・生成――《独りよがり・慰めるもの・幾たびの夢》――」


 天牙のアレが光の粒子になっていき、形を変えていく。


 二つの玉と一つの棒が融合し、如意棒のような形になった。

 一メートルほどある太くて長い棒。その両端には金色の玉が一つずつ装飾されている。


「一か八かだったけど、魔法杖に出来た‼」


 イルドは如意棒の形をした魔法杖を掲げると、どこからともなく光の粒子が集まってきて、ボロボロだったイルドの服を新たに生成する。


 リボンやフリルが装飾されたドレス。先程のようなピンクではなく、赤紫を基調としており、血管が浮き出たような模様がされている。禍々しいオーラを纏っており、魔法少女よりも悪の怪人側といったほうが似合う風貌だ。


 天牙は恐る恐る下半身を触り「~~⁉」と声にならない叫びを漏らす。

 震える天牙。そんな彼を見て爆笑するイヴ。


 イルドは両手で如意棒の形をした魔法杖を持つと、相手に向けて構える。


「一気に片付ける‼」 

 

 イルドの背後に魔法陣が展開される。魔法陣に光の粒子が集まっていき、次々と魔法杖を生成していく。鞭や手錠など、大人の玩具をしている魔法杖がおっさんに降り注ぐ。鞭の形をした魔法杖はおっさんの尻を叩き、手錠の形をした魔法杖はおっさんの動きを拘束する。

 

 他にもボールギャグや首輪などの形をした魔法杖がおっさんを襲う。

 

 おっさんは手錠で拘束されたため地面を叩けず、哺乳瓶が出せない。おっさんは一方的に嬲られていく。


「オギャギャギャギャギャ‼」


 年齢制限に引っかかりそうな状況の中、天牙は何もない股の間を見つめていた。


 覚悟はしていた。命を懸けるつもりだった。だけど、男の象徴をとられるとは思ってもなかった。


 虚ろな瞳を浮かべる天牙。


「助かって良かったな、一生未使用品」


 イヴは腹を抱えて笑っていたが、


「……いや、待てよ。よくよく考えればイルドちゃんが持ってるのって……」


 愛してやまないイルドが、天牙のアレを握っている事実に気づき、イヴは発狂する。


「イルドちゃあああん‼」


 そんなイヴの声を聞き流しながら、イルドは如意棒型の魔法杖で怪人の頭を潰し、止めを刺す。おっさんは光の粒子になっていき、イルドの持っている如意棒型の魔法杖に吸収されていく。


 イルドは恍惚とした笑みを浮かべながら、体をビクビクと震えさせる。


「んっ、やっぱりこの快感を味わえるのは、魔法少女の特権だね」


 如意棒型の魔法杖は光の粒子と共に形を変え、二〇センチほどのサイズになった。  


 天牙は妙な違和感を感じた。


「イルドちゃん、アイツのチ○コから手を離しなさい‼ ばっちいから‼」


 イヴがイルドの手をはたくと、イルドの手から魔法杖が落ちた。魔法杖は勢いよく地面と衝突し――天牙に激痛が走る。


「うッ⁉」


 下腹部を殴られたような感覚。全身の毛穴から汗が噴き出る。


 まだ、感覚がある……⁉


 天牙は膝をつき、前屈みになる。ボディブローを喰らったような体勢で、悶絶する。徐々に意識が遠のいていき、それに伴って痛みも感じなくなっていく。


「天牙くん、大丈夫⁉」「そのままくたばってもいいぞ、クソガキ」


 そんな二人の言葉を最後に、天牙は意識を失った。


 

 

 

 

 

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