第10話 教会前広場
「俺に好かれたくて、お前は悪役令嬢をやっていたんだろ?」
顏から火が出るほど恥ずかしくなるようなことを、ロベルトは何故王宮の大広間で言うの。
たとえ、他に聞かれないような小声だったとしても、国王陛下がいらっしゃる場で。
とにかく、おかしい。
この物語は間違っている。
ヒロインのリリカが、実は悪役令嬢ですって。
モブのロベルトが、実は行方不明だった王太子ですって。
もう、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうよ。
いつの間のか、教会前広場まで走ってきてしまった。
つい先日、ロベルトと一緒に掃除した広場だが、広場の様子が一変していた。
広場には、あちこちにモンスターのゴブリンがはびこっていた。
「いつの間に、小説のジャンルまで変わってしまったの?
異世界恋愛じゃなくて、これって異世界ファンタジーじゃない」
まさに、モンスターがはびこる世界になってしまった光景を見て、わたしは茫然とした。
「あ、イザベラお嬢様だ! お嬢様、助けてください」
「この町が、恐ろしいモンスターに占拠されてしまいました」
「あの、モンスターを退治してください」
何ですって?
わたしにモンスターと戦えとでも?
言っとくけど、わたしは悪役令嬢ですのよ。
勇者なんかじゃありません。剣も弓矢も使えません。
それにしても、この町の住人はこれだけ酷い被害を受けていながら、避難もしないのかしら。
「モンスター退治の前に、やることあるでしょう!
さっさと丈夫な建物の中か安全な場所に避難しなさい!」
「は、はい、イザベラ様が、避難指示を出したぞー! おーい、みんな避難だ!」
まったく、それくらい自主避難しなさいよ。
「あら、遅かったじゃないの」
「遅かったですって?
わたしを勇者か何かと間違えていませんか?」
遅かったと言った声のする方を睨み返してやった。
すると、その声の主は、
異世界召喚されたときにお会いした師匠だった。
「師匠! 性格の悪い女医師匠じゃありませんの?」
「性格の悪いは余計だから」
「師匠、聞いてください。この世界はどこか狂っております。
わたしが大好きな小説『フラグ回収はキスの後で』と、似ているようですが、
どんどん話がおかしな方向に行ってしまって」
「だから、頼んだじゃない。異世界で大事な仕事をしてほしいって。
この世界には「封印された闇」が存在しているのよ。
何故か、その封印が危うくなっている。
いろんな所に生じた魔素溜まりもそのせい。
ご覧通り、モンスター出現も当たり前のように起きているし」
「頼んだじゃないと言われても。
わたしに何が出来るんというんですか?
無理ですからね。
モンスターと戦うなんて、出来ませんから」
「誰が戦えと言った。
あなたには、水源地の修繕工事の時に魔力を授けたはずなんだけど」
「あ、そういえば、覚えがあるわ。
変な感覚がして、そのあとパワー使いまくったこと」
「その力があれば、モンスターたちを説き伏せて、
平和的に闇の向こうへ返すことぐらい、
あなたにはお茶の子さいさい、への河童でしょ」
「師匠、言葉が乱れています。しかし、そんなことが……」
そこへ、ロベルトが追い付いてきて、やっと教会前広場に現れた。
「いた、イザベラ! ってか、何だよこのゴブリンの群れは!」
「ああ、来た、来た。ロベルト君、やっと来たかー。
もう待ちかねて、わたしは帰っちゃおうかと思ったよ、もう!」
ロベルトに向かって、親しげに声をかける師匠だった。
「あ、女神ジョイ。どうして、こんなところに……」
「聞いてよ、ロベルト君。このイザベラの力が必要だって言っているのに、
彼女ったら、全然理解できないみたいなの」
「ロベルト、あなた師匠と仲がよろしいんですの?」
「し、師匠って誰だよ」
「まぁ! しらばっくれて。この性格が悪い女に決まっているでしょ!」
「お、おい。この方は、異世界転生を司る女神さまだぞ。
そんな汚い言葉でののしるな」
キーーーーーー!
「ロベルトったら、この女を庇うのね。
いつもわたしの味方でいてくれたのに、悔しいわ」
「イザベラ、あなたのカン違いはもう末期症状だわwww」
「なあ、いったん、置いておこう。女神さまの件は。
とにかく、早くゴブリンを討伐しなければ、町が破壊されてしまうぞ」
「わかっているわよ! そんなこと言われなくても。
こんなのわたくしの手にかかれば、お茶の子さいさい、への河童よ!」
「イザベラ……、どこでそんな言葉を覚えた」
師匠はしらを切った。
「さ、さあ、どこで覚えたのかしらね。そんな言葉」
「師匠、誤魔化したわね。
いいわ、見てらっしゃい。
わたしの魔力でゴブリンを一掃してご覧に入れます。」
「あら、ついでに教えるわね。ロベルトが好きなのは悪役令嬢じゃなくて……」
ロベルトは女神ジョイの口を手で塞いだ。
「いいんだ。このままにしておこう。そのほうがいい」
「あら、いいの? こじれたままで」
わたしは、教会前広場の真ん中に向かって歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます