第11話 暗示にかかりやすいタイプ

 ふざけんじゃないわよ。

悪役令嬢のわたしを、みんなでコケにして。

こうなったら、魔力でも何でも使って、華々しい最期を遂げてやるわ。

決めた! わたしは、悪を極めた、魔王になる!

わたしこそ、魔王である!

悪役令嬢からバージョンアップするのよ。


ゴブリンらの町への破壊行動は収まらない。

人々は逃げ回り、町は大混乱に陥った。


ギャッ、ギャッ、ギャッ、ギャッ、……


うるさいわね! ゴブリンの存在でわたしに勝てるとでも思っているの?


「さぁ、ゴブリンどもよ、わたくしの声が聞こえて?」


ゴブリンたちは、動きを止めてわたしのほうを見た。

ゴブリンにはわたしの言葉が理解できるようだ。

なるほど、これが魔力なのね。

モンスターとの会話が成立する。

これを使わない手はないわ。

なぜなら、わたしは今、自称魔王にバージョンアップしたんですもの。


「【空中浮遊】!」


わたしの体は、教会前広場の中心から浮き上がり上空で停止した。


「聞け! 人間の町を破壊するとは、愚か者めが。

魔王の命令、ただちに愚かな行為をやめて、わたしの周りに集うのだ。

【緊急集合】!」


ゴブリンたちは、破壊を止めてわたしの周りに集合し始めた。

マジで?

本当に言うこと聞いちゃうの?

さぁ、ここからどうしてやろうか。

魔術を使えるんだから、えーっと、えーっと。

考えている間にも、モンスターはわたしの周りに集まり続け、大きな黒い塊になってきた。


ヤバい! この先、何も考えていないわ。

助けて、神様、女神様……そうだ、あの師匠、

ロベルトは女神女医って言ってたわ。

ここは、ちょっと癪だけど、師匠を呼ぼう。


「師匠! 助けてくださーい!」


「あんたねぇ、あれだけ啖呵を切っておきながら、

勝手に呼び出さないでくれる?」


師匠は、ゴブリンの山をかき分けて来てくれた。


「悪役令嬢なんでしょ。もっと威厳をもって!」


「今は悪役令嬢じゃないんです。魔王なんです」


「ああ、はいはい、わかった、わかった。

まさか、自称悪役令嬢から自称魔王にバージョンアップした。

とか、言うんじゃないわよね」


「はい、そのまさかです。バージョンアップしました」


師匠はわたしを見て一瞬あきれ果てていたが、とたんに厳しい顔になった。


「そう……師匠の命令は、なんでも聞く?」


「もちろん、聞きます! だから、助けてくだい」


「言っときますけど、わたしは悪役の女医じゃないからね。

女神だから! め・が・み!」


「嘘」


「嘘じゃないわ。ほら、このモンスターたちはわたしを恐れて近づかないでしょ」


「それは、師匠が大魔王だからじゃないですか?」


「このわたしが、大魔王って……、

そんなこと言われたのは初めてよ。

いい? あなたをこの世界に転生させたのは、

この世界を救ってくれると確信したからなの。

ロベルトとあなたなら、

魔素溜まりができたこの世界を救うことができる。

そう確信したからなのよ」


師匠はきっぱりと断言した。

ロベルトとわたしならできると言った?


「さあ、どうするつもり、このゴブリンたち。

あなたの話を聞こうと、素直に集まっているじゃないの」


「も一回いいですか? 師匠って、本物の女神なんですか」


「だから、そう言ってるじゃない。

師匠の命令を聞きなさい。

これは、あなたに与えた任務です。この世界を救うこと!」


「ロベルトとわたしなら、出来る……」


「あなたの力で、ゴブリンたちに命令をかけて、洞窟に戻しなさい。

そして、もう出て来ないように封印をするのです。

どう? 任務遂行できる?

魔王にバージョンアップしたんでしょう」



「……フフフ、ここで混乱を広げて、恐怖を与えてやろう!」


「あなたって、暗示にかかりやすいタイプなのね。

オッケー、じゃ、ゴーよ」


わたしは、出来るかどうかわからないけれども、ロベルトに脳内通信を試みた。


「ロベルト、聞こえるか? わたしは魔王である。

これから、ゴブリンたちを、この集合体のまましばらく空中浮遊してやる。

恐怖に震えるがよい。

現場で泣き叫ぶ子供たちや、怪我をした人々を見てみろ。

お前には、手を差し伸べてこの人たちを救護するのは無理だろうなぁ」


[イザベラか? 魔王になったのか、イザベラ]


「いかにも、わたしは魔王だ。このゴブリンの群れの中心にいる」


[あ、ああ、そうだな。恐ろしいな]


「ゴブリンたちに今から教育を行う。

もっと賢く強いモンスターにするつもりだ。

その間に、救護活動をしようなんて馬鹿なまねはしないことだ」


[わ、わかった。絶対にしない。救護活動なんかするものか]


「ゴブリンを教育する時間は、そんなに長くない。

短時間で怪我人をを救おうなんて無理だからな」


[具体的に合図になるものをくれないか。

王宮から来る傭兵の足も止めなければならないし]


「聖堂……そう聖堂の鐘!

正午を知らせる聖堂の鐘がなるまでの時間だ」


[あと五~六分しかないじゃん! わかった、絶対に救護活動はしないし、

傭兵の救援活動もさせない]


「さて、ターイム・アターック!」

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