第9話 ああカン違い

「そうであった、忘れるところであった。

それで、お前はこの件について、どんな説明をするというのだ」


「今、ここで起きている件につきまして、

わたくしは一部始終を見ておりました。

イザベラがリリカに対して善き行いをしてきた事は事実です」



おっとー、そう来たか。

違うでしょ、違うでしょ。

ロベルト、今まで何を見てきたの?



「わたくしが見てきた事と、

父上がお調べになった内容とに、相違はございません。

それだけでは、ございません。

わたくしはイザベラと共に、

町のボランティア活動に参加しておりました。

教会広場の清掃や、聖堂内の清掃。

先日は水源地施設の修繕工事まで、イザベラは一瞬にして終わらせました。

父上、民の声をお聞きください。

『イザベラ様はさすが高貴なお嬢様』と

国民は尊敬の眼差しを送っております」


「それは誠か」


陛下は、従者に尋ねた。

陛下の耳元に、従者は何かを伝えた。


「なるほど、民の声は事実のようだ」


「イザベラは、町の奉仕活動では、労を惜しまず進んで参加し、

人々からは慕われております」


「ほう、民に好かれておるのか」


そうかぁ?

それは違うわ。

わたしは、町の人々を恐怖の底に陥れるかめにやったのよ。

わたしは、悪役令嬢なのよ。



「わたくしは、イザベラに教えられたことがございます。

『何も学ばず、何も努力もせずに、夢ばかり叶うなんてつまらない』

彼女は、わたしにそう教えてくれました」



そんなこと言いましたっけ?

そういえば、わたしは彼に偉そうにそう言ったような気がする。



「わかった。

では、アホガードとリリカの婚約はなかったこととする。

アホガードとリリカは三か月間、

別々のダンジョンで修行すること。

三か月後にお互いの気持ちが変わらずにいられれば、

そこから、もう一度やり直しなさい。

わかったか」


「「こんなはずじゃなかったー!」」


アホガード王子とリリカは叫んだ。

いやいや、それわたしのセリフですから。

ざまぁされるのはこのわたしのハズよ。

酷いわ、どこまでわたしの役目を奪えば気がすむのよ。



「アホガードの件は以上だ。

さっさとアホガードとリリカをこの場から引きずり出してくれ」


あのバカップルは、ロベルトの登場により、すっかり影が薄くなってしまった。

薄くなったどころか、大広間から追い出されるなんて。


でも、あれは、わたしがざまぁされるシーンじゃないの。

ロベルト、よくもわたしを裏切ってくれたわね。

わたしはロベルトを睨みつけた。


「ところで、お前の言いたいことは何だ。

この騒ぎを納めるためだけに、わしの前に姿を現したのではなかろう」


「さすがは陛下、その通りでございます」


「申して見よ。今まで行方をくらましていたことはもう責めないから」


「その前に、少しだけお時間をください」


そう言うと、ロベルトはわたしに向かってゆっくりと近づき、

他に聞かれないように小声で言った。


「突然驚かせて、悪かったな。

でもさ、これだけは言っておかないと」


「何よ、裏切り者の言い訳なんか聞きたくもないわ」


「前々から言いたかったんだけど、

お前さ、勘違いしているぞ。

あの小説のどこが面白いと聞かれて、

お前は俺が言った言葉を最後まで聞かなかったろ。

俺が悪役令嬢を好きだと、勘違いしているだろ」


「え、違うの?」


「その勘違いこそが、この世界を歪めているんだ。

でも、それってさ、俺のためだったんだろう?

俺に好かれたくて、

お前はわざと悪役令嬢をやっていたんだろ?」


「ちょっ……ちょっと待って、ロベルト。意味がわからない」


「俺の気を引くために、

悪役令嬢になり切っていたんだろ?」


ひぇー! なんてことを。

わたしは、顔から火が出るほど恥ずかしくてその場から消えたくなった。


あり得ない、あり得ないわ!

恥ずかしさのあまり、わたしは大広間から逃げ出してしまった。


「イザベラ! どこへ行く」


わたしは、王宮のなかを抜け、外へと走り出していた。

ロベルトがわたしを呼び止めようとしている。


「イザベラ! おい、待て! 落ち着け」


勘違いしてた? このわたしが?

ロベルトこと呂部徹は、悪役令嬢が好きなのだと。

違ったのかーーーーー!



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