第8話 ざまぁ展開……のはず
「イザベラは新入生のリリカにマナーや身だしなみを教え、
ドレスを与え、失敗した刺繍を美しい刺繍にすり替え、
話し方を教えたがその対価は受け取らず、
足のケガを薬草バームで治してやった。
これが真相だ。そうだな、イザベラ」
「はて、可笑しいですわ。
わたくしがやった行為が善意にとられているようですが。
真相は、リリカ様のおっしゃった通りでございますのに」
「何、お前はリリカを庇うというのか、
こんなひどい仕打ちを受けていても」
「だって、もうアホガード王子はリリカ様を選ばれましたし、
それが結論でございます。
もうこれ以上、
わたくしがアホガード王子様にすがる理由などございません」
「すがる理由が無いと……」
「はい、少しも」
「まことに?」
「ええ、これっぽっちも」
「なんと、アホガードも見限られたものよ。
では、聞くが……イザベラはリリカが憎くはないのか?」
「憎い? そのようなうすっぺらい感情が、
わたくしにあるはずございません。
それは、大きな勘違いですわ。
どうか、婚約破棄をなかったことにするのをなかったことにしてください」
「な、何だって?
ややこしいな……婚約破棄の破棄の破棄か」
陛下は頭を抱えた。
そこへ、ひとりの青年が颯爽と現れて、国王陛下の前に膝まずいた。
「陛下、突然で失礼とはぞんじますが、
わたくしから、説明申し上げてもよろしいでしょうか」
いきなり現れた不審者を、王宮の警備兵たちが取り囲んだ。
「ふむ、そなたは何者だ。面(おもて)を上げなさい」
その青年は顔をあげて、まっすぐと陛下を見つめた。
「ロ、ロベルト! ロベルトではないか!」
王妃も驚きの声をあげた。
「ロベルトなの? 今までどこへ……」
アホガード王子も
「お兄さん!!」
何? お兄さん?
そこにいるのはモブのロベルトでしょ。
アホの王子は正真正銘のアホになったんかいな。
どういうこと?
警備兵らは慌ててその場にひれ伏した。
大広間はざわざわし始めた。
「まあ、今まで行方不明になっていた王太子じゃありません?」
「生きていたのか、暗殺されたと聞いていたが」
「まさか、あのロベルト王子が生きて戻って来たのか」
ちょい待ち、ちょい待ち……
わたしの理解が追い付かない。
えーーっと、リリカが実は悪役令嬢で?
モブだと思っていたロベルトが、実は王太子で?
こんなに物語の内容ががぐちゃぐちゃになってもいいの?
じゃあ、わたしは一体何者なのよぉーーーー!?
「父上、今まで姿をくらませておりましたことを、
深くお詫び申し上げます。
わたくしは、一般庶民になって、民の声を聞いておりました。
民の気持ちがわからなければ、
将来国を治めることはできないと思ったからです」
「ロベルト……、
お前は身分を隠し、
庶民として生活していたのだと、そう言うのか。
今まで、お前を探していたわしの家臣たちの目は節穴だったようだ。
一体どこを探していたのか!
しかし、ロベルト……、よくぞ城に戻って来てくれた。
もう戻って来たのであれば、何も言うまい。
そうか、そうであったか」
国王陛下と王太子との感動の再会シーンだ。
大広間に居る人々は皆、感動に涙した。
もしもーし、陛下―、何かお忘れですよぉー。
わたしの主張はどうなったんですか。
わたしとアホの王子は、完全に放置プレイされているんですけどぉー。
「陛下、ここでアホガードの婚約について、イザベラの主張との相違。
わたくしからご説明したいのですが」
そう、そう!
ロベルト、言ってやってちょうだい。
わたしがいかに恐ろしい悪女なのか。
この場で証言してちょうだい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます