第6話 水源地の修繕

 「イザベラお嬢様、おはようございます。

 本日のご予定ですが、

 アホガード王子様のご来訪予定がキャンセルになりました」


「あらそう、これでキャンセルは三回目ですわね」


「まことに残念でございます。

お嬢様、どうか気落ちなさいませんよう……」


「わたくしが気落ち? 

するわけないでしょう。そんなこと」


「ですが、悪い噂を耳に致しまして」


「悪い噂? 気になりますわ。

セバスチャン、はっきりとおっしゃいな」


「アホガード様が、

別のお嬢様と楽しそうにしてらっしゃる姿を、見た者がおります」


「本当ですか、それは」


「はい、それも一回だけではなく、

何度も目撃されておりまして」


「フフフ、そう。そうなのね」


「お嬢様、笑っていらっしゃいます?」


いけない。うっかり笑ってしまった。

わたしは婚約破棄される側だった。

しかし、物事が計画通りに進んでいる喜びが溢れてきて隠せない。

あわてて扇子で口元を隠した。


「笑う? セバスチャン、そんなわけないでしょう。

涙をこらえるのに必死ですのに」


「申し訳ございません。失礼なことを申し上げました」


良い、良い。それで良いのだ。


「ところで、今日の町の困りごとを教えてちょうだい」


「はい、町の中心にある重要な水源なのですが、

長年の使用で傷んでしまい、

町民たちは定期的にその手入れを行っています」


「水源? それは共同の井戸みたいなものですか?」


「わがエリシオン王国では、他国と違い水道の施設がございます。

地下水をくみ上げる装置から地域ごとに水が流れるシステムが、

この国土を潤しているのです。

しかし、それが経年劣化が進んでおりまして、

ここの町民たちは、自らその手入れをしております」


「そう、知らなかったわ」


「この水源の修繕は、

エリシオン王国で大きな問題になっております」


「セバスチャン、

その水源地にわたくしを連れていって」


「お嬢様、

まさかまたボランティア活動をするつもりですか?」


「対価はいただきます。

タダでするわけがないでしょう」





 水源地は山の高いところにあった。

馬車では途中までしかいけず、一旦馬車を置いてから徒歩で向かわなくてはならない。


町の人々が水源地に集まっている中に、ロベルトの姿があった。


「あなた、どこにでも現れるのね」


「お前こそ、こんなところに何しに来たんだ。

お嬢様が来るような場所じゃないだろう。

その服装で山を登って来たのか」


「当たり前じゃないの。

わたしは悪役令嬢ですのよ。

いつでも気品を大切にしてますの」


「修繕工事に、気品もひったくれもないだろ」


「実はね、水源を破壊して町の人たちを困らせてやろうと思いましたの。

わたくしこそ、真の悪役ですから」


「イザベラ、それはやりすぎだ。水源を破壊するなんて。

リリカのヒロイン化大作戦だけで十分だろう」


「この国に魔素溜まりが出来ているって、ご存じ? 

ヒロインのキャラが変わっているのもきっとそのせいだわ」


「いやいや、魔素溜まりの件は知ってはいるが、

ヒロインのキャラの変化は、本当にそのせいなのか?」


「なんとなく。そうなんとなく。

とにかく、悪行の限りを尽くさないと気が済まないのよね」


「そんな、なんとなくという理由で、

悪さをされたらたまったもんじゃない」


「なんとなく。この直感こそが大事なのよ」


「訳わかんね」


「いいから、そこどいて」


わたしは町の人々と一緒に修繕工事に参加した。

地下から湧いて来る清水に、わたしが手を触れた時だった。

突然、雷に打たれたような衝撃が走り、わたしはその場に倒れてしまった。


「お嬢様! 大丈夫ですか?」


「イザベラ! どうした? 大丈夫か」


ふと目を覚ますと、わたしはロベルトに抱きかかえられていた。

わたしを心配しているロベルトの顔。

そして、町の人々も心配そうにわたしの顔をのぞきこんでいる。

何なの、このシチュエーションは。

同情ですか?

同情なんていりません。


「大丈夫です。さ、修繕工事を続けましょう」


わたしはロベルトの腕から離れ、すぐに立ち上がった。


「おい、無理するな」


「同情は結構です。

ほら、わたくしはこの通り元気ですわ」


そう言って、腕まくりをして小さな力こぶを作ると、不思議な力が全身にみなぎってきた。

そして、手を水源地の施設に当てると、魔法が発動した。

なんと、壊れかけている壁がみるみるうちに直ってしまったのだ。


「「「おおおおおお」」」


町の人々が驚きの声を上げる。


「イザベラ! 凄いぞ。お前、魔力まで手に入れたのか」


「そ、そう、そうらしいですわ。

オホホホ……これでこの水源地はお終いですわね。

もっと、この魔力で破壊させますわ」


わたしが手を当てた部分は、ことごとく綺麗に修繕されていった。

町の人々は


「さすが高貴なお嬢様」


「本当に、尊敬に値するお方だ」


フフフ、わたしへの恐怖でみんな萎縮しているわ。

さあ、もっと恐れおののくがいいわ。


「イザベラ、もうやめてくれー、もう十分だー」(棒読み)


「ロベルト、あなたに言われたらしょうがないね。

今日のところは、これくらいにして差し上げますわ」


「「イザベラ様のおかげで、水源地の修繕工事が成功しました!」」


と、町の人々は歓喜した。


「はぁ? 感謝されるようなことなんて、これっぽっちもしていませんから。

バカにしないでくださる? 

あ、そうそう! 対価は当然いただきますわ。

とびきりのスマイルをね」


「「「おおおおおおおーーー」」」


「わたしらの笑顔でじゅうぶんだとおっしゃる」


「なんというお方だ。こんなお嬢様は見たこともない」


ふん、

とりあえず、わたしの力を見せつけることができたようね。

わたしがどれだけ恐ろしい人物か、町の人々はこれで思い知ったことでしょう。



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