第4話 ヒロイン発見

 王立学校でやっと見つけた。

物語のヒロインであるリリカを。

ロベルトから、ヒロインは地味な田舎娘だとは聞いていたが、

実際に見つけたヒロインのリリカは、わたしの想像をはるかに超えていた。


ほら、あの廊下でおしゃべりしているのがリリカだ。


「嫌ですわ、リリカ様。またそのようなご冗談を」


「あんやー、嫌だと言われても本当に知らねかったっスよ、オラは」


マジか。訛っている。

父親が大地主になって、平民から貴族の仲間入りをしたというリリカ。

どんな田舎から来れば、こんなに訛るわけ?

これじゃあ、アホガード様の目に留まる機会が無い訳だ。


服装もダサいし、メイクも下手だし、どこから手を付けて修正したらいいのかしら。

これじゃあ、わたくしと対等に戦えるわけがないでしょ。

これも、セバスチャンが言っていた魔素のせいなの?

だとしたら、本当に恐ろしいわ。

魔素は登場人物のキャラまで変えてしまうのね。


わたしは勇気を出して、リリカの前に立ちふさがった。


「あなた、リリカ様ね。

最近、王立学校に入学してきた地主の娘でしょう」


「はぁ、んだんす」


うっ、意味不明の方言攻撃。

わたしは一瞬めまいがした。


「あなた、もう少しおしとやかにした方がいいわ。

王立学校の生徒にふさわしい言葉使いと、

マナーを身に着けるべきだわ」


「何だべ? オラがここにふさわしくねぇと、

そういう意味だが?」


リリカの友人たちが、心配してリリカに寄り添った。


「リリカ様、イザベラお嬢様には逆らわない方がいいわ」


「あの方に目をつけられたら、

この学校では生きて行けなくってよ」


「なして?」


「あの方は、有力な伯爵のご令嬢で、

アホガード王子さまとの婚約も決まっていらっしゃるの。

言い争っても、勝てる相手ではないわ」


「んだなが!」


ふん、お友達の方がよくわかっているようね。

いいお友達をもって幸せね。


「まず、手っ取り早く形から入りましょう。

第一に、そのドレスがダメ! かなり流行おくれのデザインだわ。

それじゃあ、どんな殿方にも見向きもされなくってよ」


「ほう、んだなが」


「それから、その言葉遣い。

これは時間がかかるから徐々に直すしかないわね」


「直るベが?」


「知らないわよ! 

それは、あなたの努力次第でしょ。

甘えてんじゃないわよ!」


「努力…かぁ」


「ここに、わたくしのお古があります。

フリルのドレスなんですけど、

これでも着たら少しはマシになるんじゃないかしら。

王子様は明るい黄色がお好きみたいよ」


わたしは、ロベルトから聞いていた情報で、ドレスくらいは準備しておいた方がいいと思い、いつも持ち歩いていた。


「これを、オラにくれるんだが? 

もらってもいいんだが?」


「リリカ様、ここは大人しく言うことを聞いた方がいいわ」


「イザベラ様からの親切を、断ったら怖いわよ」


ふふん、友達のほうが怯えてるでねぇが、って、わたしまで方言が移っちゃってどうするのよ。


「さっさと、受け取りなさいよ!」


「へい」


「へい、じゃない! はい!」


「はい」


「今度あなたを見かけたら、どれだけきれいになったか、

ちゃんとチェックしますからね!」


「へ……はい!」


どう? この悪行。

リリカったら、ヒロインのくせに恐れおののいているわ。

そう、その顔よ。その顔が見たかったのよ。

くーーーーっ、快感!




そのあと、

わたしは、リリカと別れて廊下を歩いていた。


「おい、イザベラ。また、悪役令嬢のつもりか?」


ロベルトだった。

騎士団候補生のロベルトは、王立学校にも現れる。


「ロベルト、言葉に気を付けて。

悪役令嬢のつもりではありません。

わたくしは、悪役令嬢そのものなのです」


「そうでした。

でも、俺が言っていた通りだったろ。

あれで大丈夫かな」


「さすがに、想像以上の強者でしたわね。

ああ、わたくしはまた悪に手を染めてしまいましたわ」


「どこが悪なんだ」


「だって、王子の目に留まるように身だしなみを整えてやったのよ。

どう? 戦慄が走りますでしょう?」


「お、おう。恐ろしい女だな(棒読み)」


「ロベルト、この物語を原作通りにもどすには、

主人公が苦悩する姿が必要なのよ。おわかりでしょう」


「まあ、それはそうだが……」


「ですから、わたくしは悪役令嬢の役割を完璧にこなすの。

悪役令嬢あってのハッピーエンドなのよ。

だいたい、ただの平民から貴族に成り上がって、

最終的には王子と結婚するってどうよ。

何も学ばず、何も努力もせずに、夢ばかり叶うなんてつまらない物語。

誰が喜んで読むかしら」


「いや、最近はそういうのが流行なんだが」


「え? そ、そうなの?」


「まず、主人公が苦悩したりするシーンは、

すぐ読者は読むのを止めてしまう」


「な、な、なんですって?!

読むのを止める……、なんて恐ろしい言葉の響き。

では、悪役令嬢はなんのためにおりますの?」


「そりゃあ、ざまぁされるためにだろ」


「ざまぁされるために存在していると……」


「まぁ、イザベラがざまぁされる時には、

俺はそばにいてやってもいいけど……」


「ざまぁされてなんぼの世界ならば、

受けましょう! ざまぁを」


「はぁ? お前、頭だいじょうぶか」


「さぁ、今すぐわたくしを断頭台に連れて行きなさい!」


「断る」


「なぜ? なぜ、あなたは断るの?」


「時期尚早だ。ってか、俺はそれをさせないから」


「フン、役立たずのモブのくせに、生意気なことを言うようになって。

いいわ、その代わり、わたくしの悪事に手を貸す事ね。オホホホホ」


「……分かれよ、バカ」


「何かおっしゃって?」


「いや別に、何も」


さて、リリカのヒロイン化大作戦をスタートしますわよ。

覚悟はよろしくって?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る