第3話 清掃活動
わたしは、エプロンを付け、バケツを持って教会広場に立っていた。
「あれは、ネマーレ伯爵のお嬢様じゃないか?」
「おらたちの清掃に何しに来たんだ?」
「イザベラお嬢様って、わがままだという噂よ」
「お嬢様が掃除なんて、出来るのかね」
「どうせお遊びだろ。気が済んだら、帰っちまうさ」
ふふふ、町民たちよ。わたくしをバカにしていられるのも今のうちよ。
あとで、泣いて悔しがっても遅いんだからね。
「おい、これってさ。町内清掃みたいなもんだろ」
声をかけてきたのはロベルトだった。
よく駆けつけて来てくれた。
「あなた、どうしてわたくしがここに居るってわかったの?」
「そ、それは……、俺にもそれなりの情報網があるんだよ」
「あ、今一瞬、慌てたでしょ。
わたくしの情報を追っているなんて、ストーカー?
キモいんですけど」
「キモいだと? わかったよ。じゃあ、帰る」
「あ、待って! ここに居て、
わたしの悪事をちゃんと見ててよ」
「はい、はい、そのつもりで来ましたお嬢様」
「見ているだけじゃなく、
当然あなたも手伝いますでしょ?」
「もちろん、手伝わせていただきます」
「ねえ、なぜわたしがここに来のか。
その理由を知りたくありません?」
「さて、どうしてだろうねぇ」
「しょうがないわね。
あなたにだけ、わたくしの悪の計画を教えてあげるわ。特別に」
「うわー、嬉しいなー、特別に教えてもらえるんだ」
「そうよ。いい? 町の人々はこの広場を掃除しに来た。
まずはゴミ拾いからでしょう。
みんな一生懸命にゴミ拾いしているところを、
わたくしが高速でゴミを収集してしまいますの。
どう? 町民たちが拾えるゴミはほんの僅か。
ぜーんぶ、このわたくしが収集してしまいますからね。
ホホホホ、さぞ悔しがるでしょうね。
町の人々が悔しがる姿が目に浮かぶわ」
「そうか、それは恐ろしい計画だなー」
「さあ、始めるわよ。ロベルト」
わたしは、ゴミ拾い大会の決勝戦に臨む気持ちで、必死にゴミを拾った。
「あ、風でゴミがそっちに飛んだわよ。ロベルトお願い!」
「よっしゃ! 任せときな」
「ナイス・キャッチだわ、ロベルト」
「イザベラ! 君の斜め後ろだ」
「はい! わかくしから逃れようなんて10年早いのよ、ゴミの分際で!」
わたしたちは、連係プレーで教会広場のゴミのほとんどを収集した。
「なんだ、あれ」
「あんなに真剣なゴミ拾いを見るのは初めてだ」
「すげぇな。超人じゃねぇか?」
どう? ゴミ一つ落ちていない教会広場になったわよ。
さぞ、悔しいでしょうね。
でも、これで終わると思ったら大間違いよ。
これから、聖堂に入ります。
そこでも、完璧に掃除して差し上げますわ。
「ロベルト、次は聖堂よ。雑巾の準備はよろしくって?」
「ああ、完璧だ」
聖堂にも多くの町民が掃除しに来ていた。
わたしがゴミ拾いしている間に、すでに埃は箒で取り去られていた。
「ちっ、埃取りは間に合わなかったか。
でも、拭き掃除はこれからね。
隅々まできれいに磨きあげて見せますわ!」
わたしは、床や椅子などの低い所を拭いて回った。
「ロベルト、窓を拭くのよ。高い所はあなたに任せたわ」
「合点承知の助!」
マリア像は修道女が拭いていたから、わたしの出番はなかった。
と思ったでしょう、
ところが、わたしはマリア像に、準備してきた花を飾ってやったわ。
どう? 思いもよらなかったでしょう。
ここまで準備してくるとは。
ここまでやって、ほんとうの悪事なのよ。ホホホホ。
聖堂をピカピカに磨いて、
もう町の人がやるべきことがなくなるくらい、すべての仕事を奪ってやったわ。
完璧。
これで、悪役令嬢の名は知れ渡って、みなわたしを恐れることでしょう。
「お疲れ様です、イザベラお嬢様。
今日は町の清掃活動に参加してくださってありがとうございます」
「お礼を言われる筋合いはないわ」
「このあと、皆でティーパーティーをするんですが、
イザベラお嬢様もご一緒にいかがですか?
あと、隣にいらっしゃる使用人さんも」
「使用人? ロベルト、あなたのことよ」
「俺? 使用人だと思われていたのか」
「別にいいんじゃない? どうせモブキャラだし」
「モブじゃねぇ! 騎士団候補生だ」
「何でもいいわ。あなた、どうせ脇役でしょう?
どうせ転生したのなら、その役を生き抜けばよろしいんじゃない?
さ、帰るわよ、ロベルト」
「えー? ティーパーティーは?」
「お茶しに来たんじゃないのよ。
悪事が終わったらさっさとトン面するのが基本でしょ」
「でも、皆さん、なんだか感謝しているみたいだけど」
「悪いうわさが広まるには時間がかかるのよ。
今日の所はこれくらいで勘弁してやりましょう」
わたしはさっさと帰りの馬車に乗った。
「ロベルト、帰るわよ。こっちにいらっしゃいな」
「俺は、みんなとティーパーティーに参加するよ」
「何よ、もう! 好きにしたら?」
「はーい、好きにしまーす。じゃあな」
ロベルトは町の人々の輪の中へと入って行った。
「もう知らないからね。わたしは帰るからね。
あとで追ってきても遅いからね」
わたしは、自分でも何が悔しいのかわからない。
自分の中のモヤモヤの謎が解けないまま、
わたしは屋敷へと帰る馬車の中から、遠くなるロベルトの姿を目で追っていた。
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