第3話 乙女

「よし、じゃあこれで配信終わります。チャンネル登録と高評価、コメントよろしくね。次回の配信も楽しみにしてて。じゃあね」


 んー今回の配信も面白かったな。今日はルカくんがリスナーと好きなアニメや漫画を語る会で、双方オタクトークで盛り上がっていた。私の好きなアニメも触れてくれて嬉しかったな。


 ルカくんのリスナーのうち、男女共に少年アニメ・漫画が好きな人が多かった。女性リスナーは男兄弟に囲まれて育った人が多く、兄弟の影響を受けてきたらしい。かくいう私も、兄1人と弟2人の4人兄弟で過ごしていたため、バリバリ影響を受けた。


 ルカくんも結構テンション高めだったし、やっぱり男は少年系のアニメとか漫画とかが好きなのかも。そんなことを考えていると。


「──っし。配信終わった」


 きました。恒例のギャップ萌え配信。実況は私、池上青羽が担当いたします。


──今日も始まった!


──待ってました


──ルカくーん!


 コメント欄の方も盛り上がってまいりました。皆さん本配信よりもこちらのギャップ萌え配信の方を楽しみにしていたようです。


「んっと、今日はどれにしようかな」


 おっと、動き出したのはこの男、自称クール系VTuberでありリスナーからはギャップ萌え配信者と称されている紫吹ルカ選手です。何やらガサゴソと音が聞こえてきますが、一体何をしているのでしょうか。


「お、久しぶりにこれ読むか」


 ルカ選手は何かを読むようですね。ドサッと椅子か何かに座り込む音と、パラパラとページをめくる音が聞こえてきました。


──ルカくん何読んでるの??


──エロ本じゃね?


──今日漫画の話してたし、漫画読んでるんじゃ?


 リスナーたちが推測し始めましたね。エロ本とかほざいてるガキ、今すぐ表に出なさい。


「…………」


 しばらく沈黙が続いております。どうやら、ルカ選手は集中して何かを読んでいるようですね。……エロ本だったらどうしよう。


「──っはぅ!」


 おっと、ルカ選手に動きが。はぅと言いましたか? ダメージでも受けたんですか?


「──ん! うぉ!」


 どうしたルカ選手。悶えているのか。ちょっとセンシティブな声が聞こえてきますよ。


 またしばらくすると。


「んはぁぁ。いやこの漫画やっぱ最高だな」


 幸せの吐息でも漏れたのか。そして、ルカ選手が読んでいたのは漫画だったようです。


「これの作者誰だったっけ? えっと……あぁ、〇〇先生か!」


 ここで聞いたことのない名前が登場いたしました。うーん、どんな作品を描いている方なんでしょう。


──〇〇先生って誰?


──聞いたことあるような…


 混乱しているリスナーが増える中。


──〇〇先生って確か少女漫画描いてる人だよ


 一つのコメントにより、リスナーたちが沸き始めました。


──待ってルカくん少女漫画読んでるってこと!?


──さっきずっと悶えてなかった?w


──めっちゃ意外!


──めっちゃ最高って言ってたよね


──ルカくん実は乙女の心も持っていたんだw


 さあさあ盛り上がってきましたよ。私も興奮が収まりません。


「え! 〇〇先生の最新作出てるじゃん。買いに行かないと」


 お、どうやらルカ選手は新たに少女漫画を購入する模様。チャリンと小銭の音が聞こえてくるのは、おそらくお財布と相談しているところなのでしょう。


「うーん待てよ。さすがに漫画増えすぎだよな。新しく本棚買うか?」


 ここで新情報が入りました。どうやらルカ選手は既に本棚いっぱいの漫画を所持しているようです。そして、新しい本棚の購入も検討し始めましたね。ところで、今持っている漫画のうち、何割が少女漫画なのでしょうか。もしかして全部ですかね。


「ちょっと漫画整理するか。えぇっと、これは〇〇先生のやつで、これは△△先生の。これは□□先生……」


 おお、複数人の作者の漫画を持っているようです。何巻あるのかも数え始めました。おっと、今80と言いましたか? 聞き間違いですかね?


──待ってルカくんが言ってる作者全員少女漫画の人なんだけどww


──80巻も集めてるの凄すぎる


──君も立派なオタクだったのか…


 コメント欄の情報から、ルカくんは可愛い可愛い乙女であることがわかりましたね。え? 何を言っているのかわからないって? 私もわかりません。


「んー、一旦保留にするかぁ。……ん?」


 おっと、ルカ選手。何かに気づいたのか? もしかしてのやつですか?


「──!!!」


 当たりでした。


「まーたやらかした! しかも待って、俺少女漫画のことばっか言ってたんだけど!」


──バッチリ聞いてたよ☆


──読んでる時のルカくん可愛かったw


──〇〇先生の作品私も持ってるよ!


「あぁぁぁ……。あ、そうだ、少女漫画好きな人はオススメの作品DMで教えてくれな。読んでみるから、多分。もちろん他のジャンルでもいいよ。たくさん教えて、読むから。その代わりみんな、今日聞いたことは墓場まで持って行ってな? じゃバイバイ!」


 マシンガンのように捲し立てると、ルカ選手はすぐさま退場しました。勝者はリスナー。やりましたね。そしてここで今日の実況は終了ですね。次回のギャップ萌え配信はどうなるのでしょうか。いつになるかわかりませんが、気長に待ちましょう。それでは次回までさよなら。




 数日後。試しにルカくんのDMにオススメの漫画を送ってみたところ、ハートのリアクションが返ってきた。読んでくれるかはわからないが、こんな感じでファンサしてくれるのは嬉しい。多分この間の配信を引きずってるんだろうけど。


 乙女チックな彼も推すしかないよね。

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