第4話 下手くそ

「ふぅ、じゃあこの辺で配信終わります。みんなもいろんな料理作ってみてね。チャンネル登録と高評価、コメントよろしく。次は何するか決まってないから、リクエストあれば教えてな。チャオ」


 んあー今日の配信終わっちゃったな。今日はルカくんが晩御飯を食べながら雑談配信をしてくれた。ルカくんの得意料理がパスタってなんかオシャレだなあ。写真も載せてくれたけど、見た目がめっちゃ綺麗で美味しそうだった。


 ……ところで、配信画面切れてないんだが。


 これは今回も期待していいってことですか?


「んー美味かった」


 ビンゴ。


──ルカくんパスタ美味しそうだったよ!


──まーた配信続いてるよw


──あれ、ルカくん配信切り忘れてるよ!


──今日は何をやらかすのかなw


 お馴染みのリスナーに加え、初めてギャップ萌え配信に参加する人もいるようだ。ようこそ、沼へ。


「うし、そんじゃやるか」


 立ち上がる音がした後、ルカくんがマイクから離れていった。


「えっと、今日は肉じゃが作ってみるか」


 遠いがかろうじてマイクが音を拾っている。ナイス、マイクくん。


 そんで肉じゃがって言った?


──また料理するの?


──お腹空いてるのかな


──肉じゃが! 美味しそう!


 突然の肉じゃが宣言に、リスナーも困惑中。


「レシピは……うーん、全部2人分とか3人分とかだな」


──いや1人分のレシピあるだろ探せw


──1人分計算すればいいんだよ!


「まぁ適当でいっか」


 ……分量が適当だと? ま、まぁお菓子作るわけじゃないし、少しくらい違っても問題ないか。


 あんなに美味しそうなパスタ料理作ってたんだし、肉じゃがも簡単に作れるんだろうな。


「まずは、にんじんを切る……あっぶね、皮切り損ねた」


 ……?


「よし、皮切ったらにんじんを四角に切って……あれ、なんかデカいか? いや、半分にすればいけるか」


──ルカくん???


──皮切るの忘れてるの普通にヤバいw


──大丈夫なのかw


「次はじゃがいも……皮剥くのだるいな」


 いやめんどくさがるな。皮くらい頑張って剥け。


「包丁で剥くか」


 いやピーラーは?


「あれ、なんかじゃがいもちっさくなっちゃった。まぁいっか」


──身ごと剥いたのかwww


──え、もったいない


──ルカくん?????


「うぅ、じゃがいも切るの緊張するな」


 なんでじゃがいもで緊張してるんだよ。


 包丁に慣れていないのか、ゆっくり切る音が聞こえてくる。


 5分後。


「よーし切れた。怖かったぁ」


 おっそいな。


「次は玉ねぎ……玉ねぎってどうやって切るんだっけ」


──玉ねぎ切ったことないのウケるwwwwww


──ルカくん……?


──さっきのパスタどうやって作ったんだよ!w


 しばらく無言が続いた。おそらく、玉ねぎの切り方を調べているのだろう。


「お、なるほどな。こうして、こう……」


 プルプルという効果音が入りそうな雰囲気を感じる。じゃがいもよりさらにゆっくり切っているな。


「うぅ、目がぁ」


 バ◯スとでも言われたか。


「よし、下処理終わった。次は炒めるか」


 ジューといい音がする。きっと肉と野菜を炒めてるんだな。


 しばらくすると。


「うし、そしたら汁作るか」


 お、出汁作りに入るか。調味料の分量大丈夫かな。


「これとこれとこれを入れて……」


──既に不安w


──分量間違えて濃い味にならないかな


──頑張れー


「醤油は……コップの半分」


 ?????


 そのコップはどのくらいの大きさだ?


 下手したら塩分過多で○ぬぞ?


「えっと、みりんは醤油と同じ分量だから、またコップ半分入れてと」


 …………


 頼む、もうやめてくれ。


「よし、混ぜたら鍋に加えて。あとは煮込むだけか」


──ルカくんそれを食べたらダメだ!


──思った以上に味濃ゆそう


──ルカくんの舌終了のお知らせ


 あぁ、リスナーのみんな。今日のことは絶対忘れないでいような。


 しばらくして。


「で、できた!」


 嬉しそうな声とともに、足音が近づいてくる。今から試食という名の処刑が始まるのか。


「いただきます」


 パクッと食べるルカくん。ASMR配信みたいになってるけど、それどころじゃない。


「ん……ん? ゴホッ」


 勢いよくむせている。そりゃそうだろ。


「え、待って、ゴホッ! これ、え、辛い、ゴホゴホッ!」


 もはや心配になってきた。


「み、水!」


 ダダダッと走る音とともに、ルカくんの気配が消えた。


 数分後。


「はぁ、はぁ」


 水を飲んで回復したルカくんが戻ってきた。


「はぁぁ、今日も失敗した。なんで毎回うまくいかないんだろう」


 そりゃ、分量ミスのせいだろ。


 もしかしなくとも、ルカくんは料理が下手くそなんだ。あんなにVの姿のドヤ顔を見せながらパスタのことを語っていたのに。ふっ、可愛いやつだ。


「うえぇ、これ食べるの無理だな。……ん、あれ?」


──ルカくん料理の練習してるの意外すぎる!w


──どんまい


──マジでホントになんでパスタはうまく作れてたのwww


──私が作りに行ってあげたいくらい…でも落ち込むルカくん可愛い♡


──今度料理練習配信やろうw


「!!!!!」


 気づいてしまったか。でももう遅いぞ。


「うわマジか! またか! 嘘だぁぁぁ」


 ガチで落ち込んでるトーンだよ。もう可哀想になってきた。


「うぅ、今日聞いたことは内緒にしててな? コソ練頑張るから……じゃあな!」


 ルカくんは半泣きで消えていった。これがルカ虐ってやつなのか……?


 これからもルカくんは料理のコソ練を頑張るんだろうな。頑張れ、推し。




 伝説の料理配信からしばらく経った頃。再び晩御飯雑談が開かれた。晩御飯は変わらずパスタ。


 前回のギャプ萌え配信にいたであろうリスナーが「なんでパスタ作るのは上手なの?」と質問すると。


「あぁ……えっと、妹がパスタ好きで、ずっと練習してたからかも」


 ここで推しに妹がいることが判明。そして、妹のために苦手な料理を練習していたという高得点ポイント加算。


 料理が下手くそ(だけど頑張るキュート)な彼も推しちゃうよな。

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