第2話 ビビり

「これで今日の配信終わります。チャンネル登録と高評価、コメント待ってます。次の配信も楽しみにしててね。バイバイ」


 あー終わっちゃった。今日の配信もクールだったなあ、ルカくん。


 今日はゲーム配信をしていた紫吹ルカくん。冷静にクリアしていき、数時間で全クリした。あまりの速さに、リスナーもみんなびっくりしていた。ルカくんにできないゲームはないのかもしれない。


 リスナーの要望により、次回の配信ではホラゲ配信をすると言っていた。きっとすまし顔をしながら、余裕でクリアするに違いない。


 そんなことを考えていると。


「──っし、終わった終わった」


 きた。不定期に開催されるギャップ萌え配信。なお、本人は気づいていない。


──間に合った!!


──みんなこれのために来てるのw


──はあああ今日もルカくんかっこいい


 前回と同じくらいのリスナーが集まっていて、今日もコメント欄が賑やかだ。


「さてと、始めるか」


 離れたところでガタンと椅子に座る音が鳴り、すぐにルカくんの声も聞こえた。一体何を始めるんだろう。


「……やっぱり怖いな」


 ボソッと、しかしはっきりと聞こえた。怖い?


──ルカくん何をするの?


──こっちも怖くなってきた


「……いや、約束したんだし、やるしかないよな」


 何か決心したのかな。そう思った瞬間。


 なんともおぞましいBGMが聞こえてきた。


──何何!?


──なんの音?ゲーム?


──怖いな


「えぇっと、操作はこうで、切り替えはこう……」


 何やらぶつぶつ呟き出したルカくん。何をしているんだろう。


 怖い。約束。悍ましいBGM。ゲーム。操作。


 それらの情報から導き出されたのは。


──もしかしてホラゲの練習?


 リスナーの一人がコメントした。その瞬間、全員が察した。


 もしかして、ホラゲ苦手?


「うわっ、なんか出てきた!」


 情けない声が聞こえる。こんな声出せたのか、ルカくん。


「待って待って暗いよぉここどこぉ」


──頑張れルカくん!


──怖がってるの可愛いww


──幼稚園児みたいな声になってるw


「ひっ、来ないで! 待ってやられちゃう!」


 なんだこの可愛い生き物は。キュンを通り越して思わず母性芽生えちゃったよ。めっちゃヨシヨシしてあげたい。


「わあああなんか音が聞こえる! え、どこ? どこにいるのぉ」


 信じられるか? この人自称クール系VTuberで活動してるんだよ? なんでバブみ増してるの。可愛すぎんだろ。


 あまりの情報過多に脳内がパンクしてきた頃。


「……お? もしかしてクリア? これってクリア!? いけるぞ!」


 ルカくんの嬉しそうな声が聞こえてきた。どうやら、クリア直前まで進んだらしい。あんなに叫んでたのに凄いな。


「よしっ。よしっ。このまま行けば……わあああ!」


 びっくりした。ついさっきまでのウキウキなテンションはどこへ行ったのか。


 まさかフラグ回収したか。


「やられた……。まじか……」


 本当に回収しちゃった。


──かわいそうなルカくん…


──どんまい元気出せ


──これホラゲ配信楽しみだなあw


──いやもうやらんだろさすがにwww


「はぁ……」


 可哀想なため息が溢れている。大丈夫だよって言ってあげたい。怖がるルカくんも可愛かったよ。


「次の配信どうしよう……。はぁ、練習しまくるか」


 そう呟く声が近づいてくる。


──お、マイクの近く来たか


──ルカくんお疲れ様〜


──このまま気づくのか!?


「……ん? なんか画面が……え!?」


 気づいてしまったようだ。


「うわ! また配信閉じれてない……待って俺さっきまで何を……!」


──ホラゲ練習お疲れw


──叫ぶルカくんも可愛かったよ!


──今日は眠れそうかなルカくん?w


「わああああみんな忘れて! 記憶から消して! 次回はもうホラゲやらないから! バイバイ!」


 騒がしかった配信もようやく終わった。ルカくんの声を脳内フォルダに保存してから、私は画面を消した。




 後日。次回の配信──今日の配信は、開始後にルカくんから謝罪の一言があり、いつも通りのゲーム配信であった。


 ちゃんと土下座のイラストも用意されていて、先週のギャップ萌え配信を聞いていたリスナーに大ウケしていた。


「もう忘れたよね?」と念押ししてきた推し。


 残念ながらみんな覚えてるよ。


 あぁ、クール系なくせに実はビビりな彼を推すのはやめられない。

 

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