星願いのアサンブル 真夏のオリオン

冬夜ミア(ふるやミアさん)

招待状

寝起き

「ううぅ頭痛った……」


 喉は嗄れ、頭はズキズキし、動こうにも軋んだ筋肉の弦がミシミシと音を立て、動くことを拒んでいる。けど、このまま動かないと本当に動けなくなりそうだったから、とりあえず時刻を確認しようと手元にあるアナログ時計に手を掛けた。


 沈みゆく停止ボタンでわたしの身体は起動したらしく、頭を抱えながらも時計を掴み、眼を擦りつつ現在時刻を確認する。


「二時……いや、陽が差しているから一四時か」


 長い指針は3の二分前を指し、短い指針は2を指していて、長い方が次の目盛りを指すときには短い方もズレる歯車の音を立て、時計が壊れてないことを示す。


「ミザが言うには、起きる時間を『決めて飛べば良い』とかなんとか言ってたけど、恐らくその意見は肉体についての見解が抜けているんだろうな。失神時は目覚めることができないとか」


 肉体を持たず、空間に閉じこもっている者の姿を思い浮かべつつも、ベットから両足を出し、ゴミ溜めの地に足を着き立ち上がる。家主以外には足場なんて無いともうだろうが、ゴミ溜め宅の習性として無意識的にも安全地点を見つけ出すことができる。その能力を利用し台所内になる冷蔵庫から新たな部屋の一部となるであろう飲料ボトルを取り出して水分補給。


 人間、喉が渇くと充分に寝ても寝足りないような症状が出て、ブラック企業で働き終わったような疲労感に匹敵する重ダルい動作不良が起こるそうだ。体感それで二度寝するとそれだけで一日が終わってしまうので、無理やりにでも起きて水分を摂取する方がゴミと共に腐らずに済む、はず。


「時間はいっぱいあることだし、掃除でもしますか……」


 身体はその意識に付いていけないと拒む反応を見せてるが、脳内では「掃除をする事で運気を良くするぞ!」とやる気を出して始めようとした。が、次の瞬間、携帯から電話の通知音が鳴り、その想いの力の行き場をジャックした。


「……JJ?って誰?」


 非通知だったら詐欺や迷惑電話を理由に出ないのだが、名前、しかもアルファベット『JJ』と表示されるところを見るに、ワタシがしたことではないはずだ。基本的にフルネームでの登録だからだ。とはいえ、名前が出ている以上知り合いには間違いない。そこでとりあえず出てみた。


「はいもしもし」

『ハルちゃん目を覚ました?』

「ジュジュさん!なんでワタシの電話番号知ってるの⁉」

『そんなもんお得意様リスト見れば、分かるよ。でも、不用心だと思うよ。いくら名前表示があるからって出るのは』

「どういうこと?」

『そんなもん、少しのプログラミング知識と上位者の力を利用すればフォフォイノフォイで細工できるからね』

「……歳がバレますよ」

『そんなもん大したことないよ』


 酒屋のジュジュさんが言ってる真意は理解できないが、なぜ『JJ』であったことは直感的に理解した。それよりも彼女の口から語られた『上位者の力』に引っ掛かりを覚えた。


 現実的に考えれば、ジュジュさんの最初の説明で納得できるものの、あくまでリストは電話番号の確認だけで、実際はその力を利用した通話であることを察した。初心者からすれば驚く通話方式だと思うが、ワタシからすればミザとの対話を経験を通しあってもおかしくないと思ったから大して驚かなかった。


「それで、そんな大したこともない便利機能を使って、何を伝えたいんですか?ジュジュさん」

『あら?意外にも驚いてないんだね。てっきり、素通りされると思ったんだけど。まあそれはそれとして、ハルちゃん今時間ある?』

「時間って暇の事?」

『暇の事』

「暇と言えば暇なんだけど……部屋の掃除をしたいからあまり余裕はないかな。明日月一のペットボトルのようだし」

『なんか分かりやすい言い訳』

「生憎、時間あるで『はいそうです』と答えると碌な目に遭わないからね」

『……ハルちゃんて、カモみたいな顔して、詐欺師とか食ってない?』

「ご想像にお任せします」

『これはやってる方だ……。コホン、でも今回だけは来て欲しいかな、紹介したい人がいるから』

「紹介したい人?」

『うん、ちょっとした上位系の関係者さん』


 うん、という事はあまり気が進まない人ではあることは察せた。けど、他にも似たような境遇にある者がいるならできるだけ会っとくことはメリットが大きいはずだ。現段階では危害を加える上位者に遭遇していないが、今後そういう敵意を持つ存在にであるかもしれない。そんな時に専門家、あるいは詳しい人物に接触しておくことで助けてもらったり、有意義な情報交換を行える機会が得られるやもしれない。もちろん、その逆もあり得るが……。


「…………わかった。それで、どこにいけば良いの?」

『グラン本店のドーナッツショップに来てくれる。近くに来たらサイン出すから』

「わかった、すぐ向かう」

『絶対来てよ。呼び出し人は奢ってくれるそうだから』

「なら絶対に行かないとね。しっかり元が取れるように」


 ワタシは通話を切り、行く支度を始めた。お風呂場で身を清めて、メイクはほどほどに服装はワンピースとカーデガンを掛けた日常服。手提げかばんを持って目的地を目指して、部屋を飛び出した。

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