プロローグエピソード2: とある貴族男性の不満
「俺の名は、アレクシス・フォン・グラシア。グラシア家は代々、王宮に仕える名門貴族の一つだ。そして、この俺もまた、グラシア家の名に恥じぬよう、常に品位と誇りを持って生きている……そう、俺は誇り高き貴族だ。」
アレクシスは自室の広い書斎で独り言をつぶやきながら、手に持っていたショーの告知をじっと睨んでいた。
その告知には、今話題になっている「異世界のバチェラー」の情報が描かれていた。
しかし、アレクシスの表情には明らかな不満が浮かんでいる。
「一体、何を考えているんだ、あの英雄は……! 『異世界のバチェラー』? 一般市民の男を主役にして、貴族の娘たちと一緒に競わせるだと? こんな無礼な話があってたまるものか!」
彼の声は徐々に苛立ちを帯びていった。
アレクシスにとって、貴族というのは選ばれた存在であり、一般市民とは明確に区別されるべきだという信念があった。
貴族は貴族同士で交わり、一般市民はその下で生活を営む。それがこの世界の秩序だ。
彼の中では、それが絶対的なものであり、今までもそうであったし、これからもそうであるべきだと思っていた。
しかし、今回のショーは違う。バチェラーとして選ばれたのは一般市民の男。アレクシスにとって、それは全く納得のいかないものだった。
彼自身、貴族として誇りを持って生きているし、家の名を汚さぬように努力してきた。
そんな自分が、一般市民と同じ舞台で楽しむという状況がどうしても許せなかった。
「確かに……確かに、このショーは面白いだろう。俺だって興味はある。誰がバチェラーを勝ち取るのか、その駆け引きや恋愛模様を観るのは、きっと最高のエンターテインメントだ。」
アレクシスはその告知を手に取り、じっくりと読み込む。内容自体には確かに魅力があった。異世界での恋愛リアリティショーという新しい試み、貴族の娘たちが競い合いながら愛を勝ち取ろうとする姿は、きっと見ごたえがあるだろう。
「だが、主役が一般市民だというのが、どうにも……。」
彼は頭を抱えた。一般市民が主役だなんて、貴族としての自尊心が許さない。
貴族の娘たちが、一般市民の男にアピールして競い合うなんて、あり得ない話だ。そんなことは貴族の名誉を汚す行為に他ならないと、彼は心の底から思っていた。
「この世界には階級というものがあるんだ。それは守られるべきだし、崩してはならない。貴族は貴族らしく、一般市民はその立場に従うべきだ。そうじゃないと、この世界の秩序が壊れてしまう……」
アレクシスは深く息を吐き、再び告知に目を落とす。
だが、どうしても彼の中の期待感が消えることはなかった。いくら不満があろうとも、やはりこのショーは面白そうだ。参加する貴族の娘たちの中には、彼自身が知る者もいる。それに、異世界での恋愛劇という設定自体が、どうしても彼を引きつけていた。
「くそ……面白そうなのは認めざるを得ない。」
アレクシスは不機嫌そうに言いながらも、内心ではショーの開催を心待ちにしている自分に気づいていた。確かに、一般市民が主役だということには納得できない。だが、それでも何かが彼を引き寄せる。
「もしかしたら……いや、もしかしたら、あの一般市民の男が意外にも優れた人物なのかもしれない。俺の考えが間違っていることだって、あり得るだろう。実際にショーを見てからでも、判断は遅くはないはずだ……」
アレクシスは自分にそう言い聞かせる。今はまだショーの全貌が見えていない。もしかすると、このショーを通じて、何か新しい発見があるかもしれない。そう思うと、彼の中の苛立ちが少しだけ和らいだ。
「ふん、まあいい。どのみち、俺はこの『異世界のバチェラー』を見届けるしかない。」
彼は決意した。貴族として、このショーを批判する気持ちは変わらない。だが、その一方で、どんな展開が待ち受けているのかを見守りたいという強い好奇心もあった。一般市民が主役を務めるという前代未聞の試みに、アレクシス自身も何かしらの答えを得たいと思い始めていた。
「まあ、どのみち、このショーが貴族の名誉を守りつつ、どう発展していくのかが気になるところだな。もし俺の期待を裏切るような展開があれば、その時は徹底的に批判してやるさ。」
そう言いながらも、アレクシスは心の中で新たな冒険が始まる予感を感じていた。彼自身も、このショーを通じて新たな何かを見つけることができるかもしれない――そう、どこか期待している自分がいるのだ。
「さあ、始まるがいい……『異世界のバチェラー』よ。」
アレクシスは窓の外を見つめ、次第に暗くなる空を眺めながら呟いた。
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