第14話 魅惑的な提案

 そして、優衣のそんな言葉を聞いた大和はかなり動揺してしまい。


「えっ、あっ、えっと、それは……」


 頭が回らず、その場で少し言葉を詰まらせていると。


「……ふふっ」


「優衣?」


 小さく笑った優衣を見て、大和がそう声を掛けると。


「もう冗談ですよ、いくら大和くんが相手でも、さすがに男の人と2人でお風呂に入るのは私も恥ずかしいです」


 優衣は頬を赤く染めつつも、困ったように微笑みながらそう言ったので。


「何だ冗談か、よかった……ただ優衣、さすがに冗談でも言って良い事と悪い事があるぞ、もし俺が間に受けたら困るのはお前なんだからな」


 呆れた様子で大和がそう言うと。


「それもそうですね、すみません大和くん、何か冗談を言ってこの空気を和ませたかったのですが……その、お詫びといっては何ですが、大和くんの言うようにお風呂は私から入らせてもらいますね」


 少し申し訳なさそうな表情を浮かべて優衣がそう言ったので。


「ああ、そうしてくれると助かるよ」


 大和がそう答えると、優衣はリビングの端に置いてあった自分の旅行鞄の中からパジャマと新しい下着を取り出して。


 それらを持って優衣は風呂場へ向かおうとしたのだが、大和が座っているソファーの傍に来ると優衣はその場で一瞬立ち止まり。


「……さっきは恥ずかしいと言いましたが、大和くんが本気で望んでくれるのでしたら、私は大和くんと2人でお風呂に入っても良いですよ」


「……っつ!?」


 再び理性を揺さぶられる様な事を言われて、大和が一瞬その場で固まっていると。


「それでは私が先にお風呂に入らせて貰いますね」


 優衣は大和の顔を観ずにそう言うと、少し早足でリビングを出て風呂場へ向かって行ったのだが。


(優衣、頼むからこれ以上俺の心をかき乱すのは止めてくれ、ただでさえお前は俺の前だと無防備なのにそんな事を言われ続けたら俺の理性が持ちそうにない……)


 届かぬ思いだと知りつつも大和は心の中でそう願った。




 その後、大和は風呂に入っている優衣の事はなるべく考えない様にしつつ、テレビを見たり、スマホでSNSを観たりしてなるべく普段通りに過ごしていると。


「……ふう、大和くん、お風呂ご馳走様でした、大和くんもどうぞ」


 風呂から上がった優衣がそう言って、リビングへ入って来たので。


「ああ、分かったよ」


 そう言って、大和が顔を上げると。


「……」


 優衣の姿を観て大和は言葉を失ってしまった。


 今は7月で室内の気温も高い事もあり、優衣は半袖半ズボンのピンク色の薄着のパジャマを着ていたのだが、それが小柄で可愛らしい見た目の優衣にはたまらなく似合っていて。


 その上、お風呂上がりの優衣からはいつもは感じない妙な色っぽさを感じてしまい。


 そんな優衣の姿に大和は思わず目が釘付けになっていると。


「……あの大和くん、そんなにじっと見つめられると少し恥ずかしいです」


 頬を赤く染めて、恥じらう様な表情を浮かべて優衣がそう言ったので。


「あっ、いや、悪い、それじゃあ俺も風呂に入って来るな!!」


 これ以上今の優衣の姿を観ていると大和はどうにかなってしまいそうだったので。


 大和は慌ててそう言うと、優衣から逃げるようにリビングを後にした。


 その後、大和は直ぐに風呂場へと向かい、湯船に浸かって頭を冷やそうとしたのだが。


「よく考えたらさっきまでここには優衣が入っていたんだよな……って、何を言っているんだ、さすがにキモいだろ!!」


 湯船に浸かった所で大和の煩悩は消えず、それどころか余計に悶々とした時間を大和は過ごしたのだった。

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